第38話 大ヒットと、次の宿題
「『ポコタの大冒険』刻符、王都全域で品切れです!」
配布を任せていたリナが、息を切らして駆け込んできた。工房の前には朝から行列ができ、平民区どころか商業区の子供まで並んでいるという。ガランドからは追加発注の手紙が、森からはフィリア宛に「うちの子たちにも」という使者が来た。
「量産ライン、二倍にしよう。ガリン、手が足りるか」
「足りるように、また分業を組み直す。……もう慣れたもんだ」
嬉しい知らせは、もう一つあった。「〇×大全」を配った村や街のあちこちから、子供たちが考えた新ルールが届くようになったのだ。三段重ねの盤、四人で遊ぶ変則版、勝敗をつけずにひたすら模様を作る遊び方。俺が仕込んだのは種火一つだったのに、もう俺の知らないところで、あちこちに勝手な炎が育っている。
嬉しい忙しさが工房を満たしていた。子供たちは弾み茸の高さを語り合い、隠し道を見つけた自慢をし合い、ノワが悪用推奨した甲羅蹴りの連続コンボを競い合っている。俺たちが板の中に仕込んだ遊びが、王都のあちこちで勝手に育っていく光景は、何度見ても飽きなかった。
そんな中、久しぶりにアイシャが工房を訪ねてきた。ポコタで遊ぶ子供たちの列を、しばらく眺めてから言った。
「また、王都中が騒がしくなりましたね」
「おかげさまで」
「一つ、意地悪な質問をしても?」
アイシャの目が、いつもの鋭さを取り戻していた。
「〇×も、ブロック崩しも、このポコタとやらも――全部、あなたが元いた場所にあった遊びの焼き直しなのでしょう?」
「骨組みは、その通りです。焼き直しとまで言われると、少し違いますけど」
迷いなく即答した。悪びれる理由がどこにもない。
「跳び方の重さ、崩れる足場の間合い、印の見た目にどんな意味を持たせるか――手触りと肌触りは、全部この世界に合わせて俺たちが一から作り直してます。骨は借り物でも、血肉は俺たちのものです。そこは譲る気がありません」
アイシャが片眉を上げる。
「それでも、あなたはそれを『オリジナルじゃない』と呼ぶんですね」
「呼びます。核になる仕掛けを思いついたのは俺じゃないので。……でも、狙ってそうしてるんです」
「狙って?」
「俺の頭の中には、面白いって確信の持てるものが、この世界のどこにもまだない分だけ眠ってます。それを、分かりやすい形で先に広めて、この世界の人たちに『面白いってこういう感じだ』っていう物差しを持ってもらう。今はまだ、その途中です」
「順序、というわけですか」
「そうです。土台のないところに、いきなり誰も見たことのない一本を置いても、面白いかどうか誰にも判断できない。だから今は、確実に面白いと分かっているものから広めてる。急ぐ理由がないんです」
アイシャは目を細めた。挑発の色は消えて、代わりに何かを測るような目になっていた。
「では、その土台とやらは、いつ出来上がるんですか」
俺は工房の外の喧騒に目をやった。「〇×大全」から生まれた三段重ねの盤。子供たちが自分で編み出した変則ルール。弾み茸の高さを語り合う声。誰かに教わったのではなく、自分の頭で「面白い」を組み立て始めた顔が、王都のあちこちに増えていた。
「――もう、出来てます」
迷いなく言えた。証拠は、目の前に転がっている。
「翻訳だけの段階は、もう十分にやりました。次は、この世界にしかない何かを作る番です」
ガルドが俺を見た。フィリアも、ガリンも、ピコも、ノワも。誰も驚いていなかった。むしろ、待っていた顔だった。
「なあ、みんな」
俺は仲間たちを見回した。
「そろそろ、誰の真似でもないやつを作らないか」
(第39話へつづく)




