第37話 王都の子供審査団
「大人だけで面白いと思っても、あてにならない」
俺の一声で、平民区に真っ先に幻晶板を配った子供たちを工房に招いた。先頭に立っていたのは、あの靴磨きの少年――名をキトといった。
「これ、ポコタってやつ?」
キトは操作珠を握るなり、迷いなく最初の足場から飛び降りた。案の定、岩虫に触れて小さくなる。
「あ、痛……くはないけど、なんかムカつく」
「そこ、正直な感想をくれ」
キトの後ろには、他にも十人ほどの子供が並んでいた。誰もが順番を待ちきれない様子で、待っている間も隣の子の画面を覗き込んでは、口々に「そこ違う」「もっと右!」と勝手にアドバイスを飛ばしている。工房というより、小さな騒がしい審査会場になっていた。
俺はメモを取りながら見守った。大人が遊べば簡単に見える箇所ほど、子供の指では引っかかる。弾み茸の高さがぎりぎり届かず、同じ場所で五回連続落ちる子がいた。逆に、俺たちが「ここは難所だ」と自信満々に置いた偽の足場は、あっさり見破られて素通りされた。
「ここ、もうちょい猶予ほしい」
キトが指差したのは、崩れる足場から次の足場へ跳ぶ区間だった。踏み外し猶予の秒数を、俺はその場で少しだけ伸ばした。次に挑戦したキトが、初めて綺麗に渡りきる。
「――おお!」
小さな歓声だったけど、俺には花火みたいに見えた。数字を一つ動かすだけで、さっきまで理不尽だったものが、ちゃんと挑戦できる壁に変わる。この境界線を探す作業こそ、ゲーム作りの一番地味で、一番効く仕事だ。
「これ、簡単すぎない?」
別の子が洞窟ステージをあっさりクリアして首を傾げた。難易度は子供によってばらばらだ。全員に同じ一枚を渡すだけじゃ足りない。
「じゃあ、隠し道を足そう。普通に進めば簡単、隠し道を通ればもっと難しくて、もっと早くゴールに着ける」
ガリンの提案に、俺は膝を打った。同じステージの中に、易しい道と厳しい道を両方仕込む。誰も置いていかず、誰も物足りなさを持て余さない。
隠し道には、ちょっとした褒美も置くことにした。誰にも教えず、見つけた子だけがニヤリと笑える場所。案の定、それを見つけた子が仲間内で自慢げに触れ回り、次の日には全員がその場所を血眼で探していた。
日が暮れる頃には、板は子供たちの指紋だらけになっていた。キトが最後に、しみじみと言った。
「……これ作った人、大変だったでしょ」
「ああ、めちゃくちゃ大変だった」
「でも、めちゃくちゃ楽しい」
その一言に、俺は数字の調整より先に、何かもっと大事なものを受け取った気がした。
(第38話へつづく)




