第35話 画面の向こうを覚えておく
問題は、ジャンプの気持ちよさが仕上がった翌日にやってきた。
「で、ポコタが右に進み続けたら、その先はどう見せるんだ」
ガルドの問いに、俺は答えに詰まった。幻晶板の投影レンズは、決まった一枚の絵しか映せない。〇×もブロック崩しも、盤面が画面の中に収まっていたから困らなかった。だが「進んでいくゲーム」は、進むほど新しい景色が要る。
「板を大きくすれば済む話じゃないの?」とノワ。
「それだと、平民区の子供が買える値段じゃなくなる」
量産の教訓が、すぐに答えを出した。板を大きくするのは悪手だ。今の小さな画面のまま、もっと広い世界を見せる方法がいる。
試しに、世界の全景を無理やり縮小して一画面に収める案も試した。結果、ポコタは米粒より小さくなり、テオが「豆かな?」と真顔で聞いてくるレベルの惨状になった。却下。
「――全部は見せなくていい、ってこと?」
フィリアがぽつりと言った。
「精霊眼鏡もそうだった。視界に入ってる精霊しか映さない。見えてない範囲まで律儀に描く必要、なかったよね」
目から鱗が落ちた。世界そのものは刻符の中に全部書いておいて、幻晶板にはポコタの周りだけを切り出して映せばいい。ポコタが進めば、切り出す窓もそれについて動く。
「共鳴石の理屈が使えるな」ガリンが継手をいじりながら唸る。「あれは『繋がってる相手の位置』を追い続ける魔道具だ。板とポコタの位置を、常に共鳴させ続ければ」
その晩、俺たちは「窓」と名付けた仕組みを刻符に組み込んだ。ポコタが右へ歩くと、板の中の景色がすっと後ろへ流れていく。まるで自分がその世界の中を本当に歩いているみたいに。
「うおっ、動いた……!」
テオが操作珠を握ったまま、椅子ごと前のめりになった。ノワも珍しく無言で画面に見入っている。
「これ、板の外に世界がずっと続いてる気がする」
ピコの言葉が、俺には何より嬉しい感想だった。実際には刻符の中に区切られたデータがあるだけだ。でも、遊んでる本人にそう錯覚させられたなら、それは技術としての勝利だ。
「あたしにも見せて」
リナが操作珠を受け取り、恐る恐るポコタを歩かせる。景色が流れるたびに小さく声を上げ、崖の手前で慌てて指を離す。「危ない危ない、まだ全然先が見えてないのに進んじゃった」――それこそが、俺たちが最初に思い描いた「体で感じる遊び」の正体だった。
「名前、決めよう」
「――追従窓、でどうだ」ガリンが即答した。「窓が、追いかけてくるからな」
板は変わらず手のひらサイズのまま、その中に映る世界だけが、際限なく広がるようになった。次にやることは、もう決まっている。
「この窓の向こうに、何を置くか考えるぞ」
(第36話へつづく)




