第30話 平民区、活気上昇中
検品の手順を、絵にした。核の向きは色で示す。線の順番は番号を振る。読み書きが得意じゃない子でも、絵さえ見れば分かるように。
三日後、不良率は四割から一割まで落ちた。一日の生産数は、三十台。
「……できた、な」
工房いっぱいに並んだ幻晶板を前に、ガルドが呟いた。誰も、すぐには声が出なかった。三日前まで一台に三日かかっていたものが、今は一日で三十台。数字の意味を噛み締めるように、みんなしばらく黙って板を見ていた。
俺たちは荷車に幻晶板を積んで、平民区へ向かった。あの日、俺の解析が「活気8%」と弾き出した場所。工房や市場で働く子供たちが、路地の隅にまだいた。
「これ、遊べるやつ?」
最初に寄ってきたのは、靴磨きの少年だった。手渡した操作珠を、恐る恐る握る。十字を倒すと、板の中の〇が動いた。それだけで、少年の目の色が変わった。
「動いた……! これ、俺のなの?」
「一日、十分でいいから遊んでいいよ。仕事の合間に」
少年の後ろに、あっという間に人だかりができた。テオとノワが操作珠の握り方を教えて回る。フィリアとガリンが、その場で予備の台座を組んで数を増やしていく。リナが「順番、順番ですよ」と行列を整理し、ピコが誰よりも大きな声で「次、あんた!」と場を回す。セレンさんまで子供に混ざって、静かに〇×の対戦を始めていた。
路地の隅が、いつのまにか小さな遊び場になっていた。
夕方、俺は久しぶりに解析を使った。
【王都・平民区 活気:8%→19%】
たった一日で、二倍以上。据え置きの豪華な迷宮でも、一発勝負のショーでもない。安くて、丈夫で、誰でも今日から遊べるものが、街の数字をこれだけ動かした。
「――これが、あなたの言う『オリジナル』ですか」
振り返ると、アイシャが立っていた。腕を組んで、幻晶板で遊ぶ子供たちを眺めている。
「誰も見たことのないもの、って言われたので。……ゲームじゃなくて、ゲームを届ける道具です。派手さはないですけど、これが一番効くと思ってます」
「地味、とは思わないんですね」
アイシャは短く笑った。
「貴族区の見世物なら、いくらでも見てきました。でも――遊びが、生活の中に居場所を作った光景は、初めて見ました」
その一言に、隣でマーキュリーが小さくガッツポーズを作っていた。神々にどう映るかは、まだ分からない。でも今は、それでいい。
「量産、まだ始まったばかりだ。次は王都全域、その次は他の街……」
やることは、増える一方だった。それでも、悪くない忙しさだ。
「ユウタさーん! 次の分、材料足りませーん!」
「今行く!」
俺は幻晶板を片手に、路地を駆けていく。かつて仕様書一枚を出すのに三ヶ月かかった男が、今日はもう次の課題に向かって走り出している。
(つづく)




