第29話 誰でも作れる形に
「ガランドのマナカート整備は、四つの係に分かれてる」
ガリンが工房の壁に図を描いた。魔石充填係、外殻組立係、駆動確認係、そして最終検品係。一台を四人がかりで流していくと、一人で作るより速いだけじゃなく、誰も全工程を覚えなくていい。
「共鳴回路も、同じにできないか」
俺の問いに、フィリアが徹夜明けの目で図面を睨んだ。三時間後、彼女は共鳴回路を二つに割った。
「魔力を受け止める『核』の部分は、あたしが作る。ここだけは今のところ譲れない。……でも、核をこの決まった形の枠に嵌め込んで、線を三本繋ぐだけの『台座』なら――」
「誰でもできる、ってことか」
「多分。教えれば、だけど」
試しに、と俺たちはテオとノワを呼んだ。「台座」の組み方を一度見せただけで、二人はあっという間に真似た。テオの方が丁寧で、ノワの方が速い。見事に凸凹だが、どちらも規格通りには仕上がった。
「……これ、大人じゃなくてもできるってことだよな」
ガルドが妙な顔で言った。それは、平民街の子供たちにも「作る側」の仕事になり得る、ってことでもある。俺の中で、何かが繋がった。遊びを届けるだけじゃない。作る仕事自体を、その子たちに渡せる。
もう一つ、副産物があった。台座を規格化したことで、継手の形も統一する必要が出た。ガリンが提案したのは、単純な溝と爪の噛み合わせ――あとから部品を足せる継手だった。
「今はボタン二つで十分だろ。でも、この継手さえ揃えとけば、複雑な遊びが要るときに、ボタンだけ追加で嵌められる」
「変形とまではいかないけど……」
「拡張はできる、ってことだよ。上等だ」
欲張った「起動するたびに変形する操作珠」の夢は、ひとまず「後から部品を足せる操作珠」に着地した。派手さはないが、これなら今日から作れる。
試作の分業ラインで、一日目に組めたのは七台。三日で一台だった頃を思えば、革命的な数字だ。ただし――検品で四台が不良品と判明した。核の向きを間違えて嵌めた台座が二つ、線の繋ぎ忘れが二つ。
「量は出た。でも、質がまだ追いついてない」
フィリアが眉を寄せる。俺は解析で不良の傾向を洗い出しながら、それでも笑っていた。これは、良い悩みだ。前世で味わった「速さと質、両方詰め込め」という無理難題とは、種類が違う。今度は、俺たち自身で線を引ける悩みだった。
「明日は検品の手順を、もっと分かりやすくしよう。……本番まで、あと少しだ」
(第30話へつづく)




