第28話 量産、最初の壁
「――というわけで、まずは百台作ろう」
俺の宣言に、工房が静まり返った。気まずい沈黙を破ったのは、フィリアだった。
「百台? ……ユウタ、一台にどれだけ時間かかってるか分かってる?」
分かってなかった。数えてみて、俺は青くなった。共鳴回路を組めるのはフィリアだけ。駆動部の継手を寸分違わず仕上げられるのはガリンだけ。二人がかりで、一台に丸三日。
「百台なら……三百日?」
「一年近くかかるってことじゃん」とノワが即座に指摘する。ぐうの音も出ない。
材料費も計算した。共鳴石は普通の魔石より純度が要る。仕入れ値をはじき出した瞬間、俺は電卓――もとい暗算を二回やり直した。
【幻晶板一台あたりの想定価格】=平民区の子供の、半年分の小遣い
これじゃ意味がない。遊ぶ時間がない子供に届けるための道具が、その子の家より高い買い物になってどうする。
「前世で散々見た地獄だ、これ」
誰も突っ込んでこないから、俺は一人で肩を落とした。「初期投資が回収できるまで一台一台手作業でやります」なんて企画、会議に出した瞬間に突き返される。速さも、値段も、両方とも今のままじゃ話にならない。
「一人で全部やろうとするからだよ」
ピコがあっさり言った。
「あたしらのマナカート、王都まで運ぶのに一台ずつ手作りしてたら、大会になんて間に合わないじゃん」
「……ガランドじゃ、違うやり方してんのか」
ガリンが、そこで初めて何か思い出した顔をした。
「そういえば……儀式化した点検、あれの逆をやればいいのか」
「儀式化した、点検?」
「ああ。マナカートの整備、俺一人でやってるように見えて、実は工程がバラバラに分かれてる。魔石の充填は充填係、外殻は外殻係、最終確認は俺。……誰も、最初から最後まで一人じゃやってない」
その言葉が、頭の奥で何かに繋がった。共鳴回路を組めるのはフィリアだけ。でも――共鳴回路の「一部分」だけなら、教えれば誰でもできるんじゃないか?
「フィリア。回路、分解できるか? 全部一人で組む前提じゃなく、誰でもできる工程と、フィリアにしかできない工程に、切り分けて」
フィリアは腕を組んで、しばらく黙った。
「……できる、かも。核の部分だけあたしがやって、あとは決まった形に嵌め込むだけにすれば」
「よし。ガリン、ガランドの分業のやり方、詳しく教えてくれ」
まだ、答えには辿り着いてない。でも――一人で全部作る発想そのものが、間違ってた。それだけは、はっきり分かった。
(第29話へつづく)




