第27話 幻晶板、はじめて点く
夜が明けても、装置はまだ動かなかった。
配線のはんだ付け(もどき、魔力接着だけど)をやり直すこと十七回。フィリアが「共鳴の位相がずれてる」と言うたびに、俺とガリンは同じ言葉を三周くらい聞き返した。魔道具の理屈は、前世のプログラミングと似てるようで全然違う。バグ取りに、感覚と勘がいる。
昼過ぎ、ガリンが最後の継手を締め、フィリアが共鳴石に魔力を通した瞬間――薄い板に、光が灯った。
「……点いた」
声が揃った。板の中に、白い縦線が一本。真ん中に丸が三つ。
「〇×だ! ぼくの必勝法、試させて!」
テオが操作珠に飛びついた。十字を倒すとカーソルが動く。ボタンを押すと、印が置かれる。仕組みはただそれだけ。なのに、板の中で〇と×が並んでいくのを見て、宿の裏の工房は歓声に包まれた。
「これ、盤も石も要らないじゃん!」とノワ。
「持ち運べるっていうのは、こういうことか……」ガルドが、意外そうに操作珠を撫でた。セレンさんまで無言で覗き込んで、「……面白い、です」とぽつり。あのセレンさんが。
テオの必勝法は、リナ相手に二連勝した。三戦目、ピコに角を取られて負けた。「あー!」という悲鳴が、実際の負けず嫌いの音だった。数字も駒も動かない、ただの三目並べに、こんなに本気で悔しがれるのかと、俺の方が驚いた。
夕方、二本目の刻符が完成した。俺が仕様書に一番こだわった、ブロック崩し。上から降ってくる球を、下の板で打ち返す。ボタン一つで球を放ち、十字で板を左右に動かす。ただそれだけのゲームに、俺たちは日が暮れるまで並んだ。
「速い……速いって、球!」
フィリアの悲鳴と同時に、板の中で球が跳ね返り損ねて消えた。〇×とは何もかも違う。考える暇なんてない。反射と勘だけが物を言う遊び――この世界に、まだ一つもなかった種類のゲームだ。
ガリンが黙って操作珠を奪い取り、無言で高得点を叩き出す。整備長の指先の器用さは伊達じゃなかった。
「ちょっと待って、あたしにも」
ピコが割り込んで、あっさりガリンの記録を抜いた。マナカートの操縦感覚が、意外なところで活きるらしい。負けたガリンが「……もう一回だ」と静かに操作珠を握り直す。
結局その日、俺たちは日没まで工房から出なかった。〇×とブロック崩し、たった二本のゲームで、王都で一番騒がしい部屋ができあがっていた。
「なあ、ユウタ」
夜、片付けをしながらガルドが言った。
「これ、村の子供らにも配れんのか」
その一言に、俺は手を止めた。……そうだ。これを作った本当の理由は、それだ。平民街の、遊ぶ時間さえない子供たち。この板一枚が、あの子たちの手に届いたら。
「配りたい。ただ――」
俺は仮組みの操作珠を見下ろした。十字とボタン二つ。今はこれで十分。でも、もっと複雑な遊びを載せるなら、いずれ足りなくなる。
「ボタン、増やせないかな。……できれば、遊びに合わせて、形そのものが変わるくらいに」
「気が早いって言ったの、昨日の自分だけどな」
フィリアに笑われた。それでも、頭の中には既に次の課題が並んでいた。動くものはできた。次は――量産できる形にする番だ。
(第28話へつづく)




