第26話 持ち運べる遊び場
王都グランレイスは、白亜の城壁と尖塔の街だった。
人口十八万。アルテア最大の人族の都。だが門をくぐった俺の解析には、華やかな大通りの裏側が視えていた。
【王都グランレイス 活気:14%】
内訳:貴族区41% 商業区19% 平民区8%
実際に平民街を歩くと、数字の意味がよく分かった。ソルの村の子供たちは「遊びを知らない」だけだったが、ここの子供たちは午後には工房や市場で働いている。遊ぶ時間そのものがない。都会ってのは、活気が高い場所じゃない。活気の格差が一番デカい場所なんだ。
「よお、ユウタ! 久しぶりだな!」
宿で待っていた顔ぶれに、俺は思わず笑った。ガランドから来たピコとガリン。森からはフィリアとノワ、お目付け役にセレンさん。ソルの村からはリナと――
「ユウタ! ぼく、〇×の新しい必勝法見つけたよ!」
「テオ!? なんでお前まで」
「村代表だって! えへん!」
半年かけて増えた仲間が、一つの宿に揃ってる。ガルドが「同窓会だな」と柄にもないことを言った。
その夜、マーキュリーが顔を出した。いつもより声が軽い。
「地球侵略の議案、まだ燻ってます。でも今すぐどうこうって話じゃないので、そこは安心してください。……ただ、神々の関心はずっとユウタさんに向いてます。次に何を見せるか、楽しみにされてますよ」
「プレッシャーのかけ方が地味に怖いんだが」
招聘主のアイシャは、赤毛を短く切った、目の鋭い女性貴族だった。彼女の要求は明確だった。誰も見たことのないもの。俺が余所から持ってきた遊びではなく、俺がこの世界のために作った遊びを。
「――受けます。オリジナルで」
その夜から、まっさらな紙と向き合った。五本目のゲーム――のつもりだった。
でも、ペンが進まない。今までのゲームは、全部「誰かのための一本」だった。ソルの村のための〇×。ガランドのためのマナカート。森のための精霊バトル。……今度は、誰のためだ?
平民街の子供たちの顔が浮かんだ。遊ぶ時間がない子。遊び方を知らない子。次の一本を、あの子たちの手が届く場所に置けないなら、意味がない。
――いや。一本のゲームの話じゃないのか、これ。
「なあ、聞いていいか。……ゲームそのものより先に、遊びを運ぶ道具を作れないかな」
集まった顔ぶれに、俺は殴り書きの図を見せた。手のひらサイズの板。差し替えできる中身。どこにでも持っていけて、誰でも遊べる。
「板に絵を映すのは、精霊眼鏡の理屈が使えるかも」フィリアが早口になる。「共鳴石って、精霊の魔力と映像を繋ぐ媒介でしょ。人間自身に使えたら……」
「駆動部はガランドの技術でいけるな」ガリンが図面に書き込みを足す。「魔石一個で動く小さい機構なら、マナカートよりよっぽど楽だ」
「持ち手はどうする?」とピコ。「ゲームごとに向いた形って、絶対違うよね」
それだ。……よし、決めた。
「握るところは、ゲームを起動するたびに変形するようにしよう。中身に合わせて、形が変わる。……異世界っぽくていいだろ?」
我ながら欲張りな仕様だ。フィリアとガリンが同時に「気が早い」という顔をした。だよな。まずは、動くものから。
「最初のゲームに要る操作は、十字方向の移動とボタン二つで足りる。変形の仕組みは後で詰めるとして、今夜は仮の姿でいい」
「まかせて!」とテオ。ノワは「別に、頼まれなくても遊ぶけど」と、そっぽを向きながら机に近づいてきた。
「あたしも手伝う。回路図なら、精霊眼鏡で慣れてるし」
「俺も遊ぶ側で待機な。……で、名前は決まってんのか」とガルド。
板は――幻晶板。手に握るものは――操作珠。中身を差し替えるルーン結晶は――刻符。名前だけは、もう決めてあった。
その晩、宿の裏の空き部屋が、即席の工房になった。板一枚、握り一つ、まだ何も表示されない仮組みの装置を前に、俺たちは夜通し図面を引き直し続けた。
完成には、まだ遠い。でも――五本目の「ゲーム」じゃなく、次の百本を生む道具を作ってる実感が、指先にあった。
(第27話へつづく)




