第24話 祠ジムと大樹リーグ
交換会が三回を数える頃、森には新しい問題が生まれていた。良い方の問題だ。
「強いやつと戦いたい」
精霊使いが両岸で二百人を超え、腕自慢が増えて、そこら中で幻影闘技の野試合が起きる。熱はある。でも目標がない。目標のない熱は、長続きしないか、変な方向に暴れるかのどっちかだ。ソシャゲで言えば、エンドコンテンツの実装が急務ってこと。
だから俺は、森の六つの地形に祠を建てた。
水辺の祠。古木の祠。岩場の祠。花畑の祠。洞穴の祠。そして川霧の祠。それぞれの祠には、その地形の精霊を極めた主が座る。挑戦者は主と幻影闘技で戦い、勝てば木の紋章をもらえる。
主に据えたのは、この数ヶ月で頭角を現した両岸の腕利きたちだ。水辺の主は、あの膝まで川に浸かってた齢三百の狩人長。洞穴の主は、ダークエルフの寡黙な石工。花畑の主は、なんとセレンさん――無表情のまま花系精霊で完封する様が「森で一番怖い」と評判になった。
「ユウタ殿。私が主というのは、その、似合うのでしょうか」
「挑戦者を無表情で全滅させたあとに『次の方』って言うの、めちゃくちゃ様になってましたよ」
「……そうですか」
ちょっと嬉しそうだった。分かりにくいが、この人の感情表現も三ヶ月でだいぶ育ってる。
そして、六つの紋章を集めた者だけが挑める頂点を作った。名付けて大樹リーグ。挑戦の舞台は、両岸のどちらでもない中立地――境界の川に浮かぶ、大樹の中州だ。
「六つ集めたら、誰と戦えるの!?」とフィリア。
「チャンピオンだ」
「チャンピオンって、誰!?」
「……それがな。俺も、ちょっと予想外だったんだ」
◇
チャンピオン決定戦は、主たち六人と有力者による総当たりで行った。優勝候補はセレンさんか、東岸の石工か、と思われていた。
全勝したのは、長老リンドラだった。
あの、無気力の権化みたいだった、千年生きのエルフの村長。「若い者が望むなら」しか言わなかった枯れ木みたいな爺さんが、蓋を開けてみれば――誰よりも図鑑を埋め、誰よりも激レアを揃え、誰よりも深く三すくみを読み切る、森最強の精霊使いになっていた。
「長老、いつの間に……」
「ふぉっふぉ。千年も生きるとな、ユウタ殿。森の精霊たちのことは、姿が見えずとも、だいたい気配で存じておったのよ。名前も、好物も、住処もな。眼鏡のおかげで、ようやく昔馴染みに挨拶ができた。それだけのことじゃ」
千年分の森の知識。それはつまり、千年分の攻略情報だ。リンドラの手持ちは、川霧の激レアを筆頭に、伝説級がずらり。しかも打ち筋が老獪の極みで、相手の交代読みが百発百中ときてる。
【リンドラ】テイム適性:S 経験:???
活気:94%
個人の活気が90超え。この森で一番退屈してた人が、今、この森で一番楽しんでる。
◇
大樹リーグの開幕で、森は完全に沸騰した。
開幕戦、フィリア対・水辺の主(例の狩人長)は、いきなりの名勝負になった。狩人長の水亀が鉄壁の守りでミモザ改め宵蝶の鱗粉を防ぎ切り、フィリアが第二の相棒・光苔ネズミに交代して持久戦へ。じりじりした読み合いの末、宵蝶の夜だけ火力が上がる特性(進化で得た月光補正だ)を活かすため、フィリアはあえて日没まで粘った。
「……日暮れを、待っていたのか。この私を相手に、二刻も」
「うちの子の一番強い時間に、勝たせてあげたかったから!」
夕闇の一撃で水亀が砕けた瞬間、ギャラリーの両岸民が一斉に立ち上がった。敗れた狩人長は、しばし呆けて、それから深々と頭を下げて木の紋章を差し出した。負け方まで様になってた。
フィリアとノワは、競うように祠を巡り始めた。フィリアが水辺の紋章を取れば、ノワが洞穴の紋章で追い上げる。二人とも負けるたびに手持ちを組み直し、交換会で穴を埋め、また挑む。祠の前にはギャラリーができ、勝敗は翌日には森中に知れ渡る。
【光の民エルフ 活気:52%→61%】
【影の民ダークエルフ 活気:54%→62%】
「別の何かがいる」と疑い合っていた両岸が、今は同じリーグ表を見て一喜一憂してる。ゲームの盤の上では、種族の境界線なんて、とっくに消えていた。
――だが。
その夜、俺は解析板の前で固まっていた。ずっと監視していた森の最深部の巨大反応。それが今夜、初めて動いたのだ。
【森の最深部】魔力反応:覚醒過程に移行
推定規模:ゴブリンキングの約40倍
「……ガルドさん。悪い知らせです」
「今度はなんだ」
「この森の精霊過密の、大元。古代の巨大魔獣が――目を覚ましかけてます」




