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第21話 湧きの法則と幻影闘技

 翌日から、俺は川の両岸を行き来する日々を始めた。


 西岸ではフィリアに、東岸ではノワに、それぞれ精霊眼鏡と共鳴石を渡して手ほどきをする。両岸を自由に渡れるのは、この森で「どっちの民でもない」俺とガルドだけだ。二人はまだ、対岸のもう一人の存在を知らない。


 まず教えたのは、捕まえ方より探し方だった。


「フィリア。精霊はどこにでもいるわけじゃない。湧く場所には法則がある」


 俺は地図を広げた。三日間の解析で作った、森の精霊分布図だ。


「地形。水辺には水の系統、古木には森の系統、岩場には土の系統。それから時間帯。昼に湧くやつと、夜にしか出ないやつがいる。あとは魔力の濃さ。濃い場所ほど、レベルの高いやつやレアなやつが出る」


「じゃ、じゃあ……この『満月の夜、川霧が出た時だけ、橋の下に湧く』って書いてあるコは……!」


「ああ。多分この森に一体レベルの激レアだ。会えたら自慢していい」


 フィリアの目の色が変わった。探す遊びは、それだけでもう遊びなのだ。宝の地図を持った子供に、退屈は存在しない。


 ◇


 育て方は、もっと単純で、もっと画期的だった。


 【精霊の成長】宿主から注がれた魔力を糧にレベルアップ


 つまり、魔力を注げば育つ。


 これがこの世界でどれだけ意味を持つか。魔法の才がない者の魔力は、今まで使い道がなかった。ただ体の中で余って、寝て起きたら消えるだけの力。それが、丸ごと「育成資源」に変わる。


「あたし、弓はへたっぴだから……魔力も、使い道なかったんだ。ずっと」


 フィリアは、共鳴石を両手で包んで魔力を注ぎながら、ぽつりと言った。石の中で、彼女の相棒――花蜜蝶の精霊ミモザが、嬉しそうに光を強くする。


 【ミモザ】レベル2→3


「へたっぴでよかったかも。余ってる魔力、いっぱいあるもん」


 あとで知ったことだが、フィリアは弓の的当ての訓練で、百年に一人の下手と言われていたらしい。エルフは全員が弓を引ける、が常識の森で、それは「エルフ失格」の烙印と同義だった。的当て場の隅で誰にも当てられない矢を拾い集めていた少女が、いま、森で一番の速さで精霊たちに好かれていってる。


 才能ってのは、無いんじゃない。測る物差しが足りてないだけなんだよな。俺の適性解析は、それを数字で証明できる。この能力の一番好きなところだ。


 ちなみに解析によると、フィリアのテイム適性はS。精霊の懐き度の上がり方が、俺の三倍速い。一方、東岸のノワは育成適性S。同じ魔力量でも、注ぎ方が上手くて成長効率が半端じゃない。……この二人、組んだら最強なんだよな。まだ言わないけど。


 ◇


 そして、バトルだ。


「戦わせるの!? ミモザを!? やだよ、死んじゃったら……」


「そこが今回の発明だ。――見てろ」


 俺は共鳴石を掲げ、ラムを呼んだ。石から吹き出した光が、地面の上で形を結ぶ。雷模様の尻尾のリスが、そこに「映った」。


「これは幻影だ。精霊の本体は石の中にいたまま、魔力で編んだ映像の体で戦う。幻影闘技って言ってな――この体は、どれだけ攻撃を食らっても、砕けたら石に戻るだけ。痛みの信号も遮断してある」


「え、じゃあ……」


「そう。死なない。怪我もしない。でも動きは本物、迫力も本物。負けたら悔しいのも本物だ」


 実演として、ラムとミモザで一戦やってみせた。雷の尻尾が閃き、命中した瞬間――映像がほんの一拍だけ、止まる。


 これも仕込みのひとつだ。当たった瞬間を止めずに流し続けると、どんなに強い一撃も紙みたいに軽く見える。止める一拍があるからこそ、殴った側も見てる側も「効いた」と実感できる。痛みは遮断しても、手応えは遮断しない。そこだけは絶対に削っちゃいけない。


 止まった映像が弾け、花の鱗粉が舞い、ミモザの幻影が砕けて――光の粒が、するんと石に戻る。石の中のミモザは無傷でぴんぴんしてる。フィリアは石に頬ずりして確認してから、顔を上げた。


「……もう一回!」


 はい、いただきました。


 ルールも整えた。幻影が砕けたら負け。回復役の交代あり。そして相性の三すくみ――炎は森に強く、森は水に強く、水は炎に強い。属性の読み合いが、ただの殴り合いを頭脳戦に変える。


 ◇


 夜は東岸で、ノワに同じことを教えた。こっちはこっちで、夜行性の精霊たちが相手だ。


 夜の探索は、昼とは別のゲームだった。月明かりの下、ノワと二人で図鑑のヒントを頼りに深い森を歩く。「洞穴・夜・魔力濃いめ」の条件が揃う場所を地図で絞り込み、息を潜めて待つ。岩陰から影オオカミの仔が鼻先を出した瞬間の、あの心臓の跳ね方。宝探しと釣りと かくれんぼを混ぜたような時間だ。


 その影オオカミの仔・クロヴァを相棒にしたノワは、育成の筋の良さで既に俺を追い越しかけてる。注ぐ魔力の緩急が絶妙で、クロヴァのレベルの上がり方はラムの倍近い。「なんとなく、この子が欲しがってる時に流すだけ」と本人は言う。天才の言うことは参考にならない。


「なあ、ユウタ。この遊び、もっと強いやつと戦いたくなったら、どうすんの? この岸の連中、誰もやってないんだけど」


「……そのうちな。とっておきの対戦相手を用意してやるよ」


 俺は西岸の灯りを見ながら答えた。ノワは「ふーん」と首をかしげた。


 悪いな、二人とも。この盤面は、もう少しだけ仕込みに時間がかかるんだ。

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