↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/29

第20話 精霊眼鏡

 見えないけど、いる。実体のない魔力体。


 正体を突き止めるため、俺は三日かけて森中の「それ」を解析して回った。分かったことはこうだ。


 一つ。奴らは魔力の濃い場所に湧く、小さな魔力生命体だ。水辺、古木のうろ、岩場の陰。魔力溜まりの数だけ、種類も違う。


 二つ。エルフたちは「なんとなく気配を感じる」ことはあるらしい。曰く、精霊のいたずら。曰く、森のざわめき。名前だけは、大昔からあった――精霊。


 三つ。こいつらはこの百年で増えすぎた。原因は不明だが、森の外から流れ込んできてる形跡がある。過密になった精霊の魔力が乱流を起こし、それに中てられた獣が狂う。ゴブリンの群れが森を追われたのと、多分同じ現象の別の顔だ。


 つまり解決策はこうなる。誰にも見えない精霊を、見えるようにして、数を管理すること。


「……と、いうわけで。作りました」


 工房代わりの小屋で、俺はそれを掲げた。銀縁の、大きな丸眼鏡。レンズには、ガランドで仕入れた水晶板に、バグナ直伝の付与ルーンをびっしり彫り込んである。魔力の波長を光に変換する、いわば魔力の翻訳機だ。


 名付けて、精霊眼鏡。


 ……と、さらっと言ったが、ここまで試作は九回失敗している。一号は何も映らず、二号は映りすぎて視界が真っ白になり、三号はレンズが魔力に耐えられず割れた。波長の絞り込みに丸四日。ルーンの彫り直しのたびに、ガランドのバグナへ質問の手紙を飛ばした。返事は毎回一行で、的確で、最後に必ず「精進せい」と書いてあった。師匠は遠くても師匠だった。


「ガルドさん、記念すべき試着一号、どうぞ」


「なぜ俺が」


「万一目が回っても倒れない人からって決めてるんです。安全第一なんで」


 ぶつくさ言いながら眼鏡をかけたガルドは――固まった。


「…………おい。なんだ、こりゃ」


「見えました?」


「見えたなんてもんじゃない。そこら中にいるぞ」


 俺もかけた。そして、言葉を失った。


 森が、光っていた。


 川面を跳ねる水色の小魚みたいな群れ。古木の枝で丸くなる、苔色の毛玉。花畑の上をふよふよ漂う、光の粉をまとった蝶。岩陰から、こっちを警戒して覗く角の生えた黒いウサギ。


 どこもかしこも、精霊だらけだった。誰も見たことのない住人たちが、この森には、ずっといたのだ。


「……こんなに賑やかな森だったのか、ここは」


 ガルドの声が、少しかすれていた。


 ◇


 次の段階は、接触だ。


 解析すると、精霊には共通のパラメータがあった。懐き度。警戒0から始まり、餌(魔力を含んだ木の実が好物らしい)と、害意のない接触で少しずつ上がる。


 俺は岩場の陰の、雷模様の尻尾を持つリス型の精霊に狙いを定めた。理由は単純で、こいつが一番、俺を見てたからだ。警戒しながらも、岩陰から尻尾だけ出して、こっちの様子を毎日窺ってる。好奇心があるやつは、懐く。ユーザー分析の基本だ。


 三日通って、木の実を置いて、離れて待つ。懐き度12、25、41……途中、俺がくしゃみをしただけで懐き度が9下がった日は、さすがに心が折れかけた。臆病にも程がある。それでも通って、七日目。


 リスは俺の手のひらに乗って、木の実をかじった。


 【雷リス】懐き度:70 状態:信頼


 ここで、バグナと共同開発したもう一つの道具の出番だ。親指ほどの小さな魔石――共鳴石。懐いた精霊に差し出すと、精霊が自分から石に「宿る」ことができる。魔力の家みたいなものだ。


 雷リスは石の匂いを嗅ぎ、ひと声鳴いて、光の粒になって石へ吸い込まれた。石を握ると、中からとくとくと、小さな鼓動みたいな魔力が伝わってくる。


「……よろしくな、相棒。名前は、ラムだ」


 筋力E、戦闘力皆無の俺に、生まれて初めての「自前の戦力」ができた瞬間だった。まあ解析したら【臆病:A】って出てたから、戦力になるかは怪しいけど。


 ◇


 さて。道具はできた。相棒もできた。あとはこれを、森の連中に広めるだけ――と思っていたんだが。


「精霊が見える眼鏡? 左様ですか」


「はぁ。まあ、見えたところで」


 エルフもダークエルフも、驚くほど無関心だった。眼鏡をかけて、精霊を見て、「ほう」で終わり。数百年分の退屈は、驚きの回路まで錆びつかせるらしい。活気6%の民は、新しいものに手を伸ばす力も残ってないのだ。


 肩を落として川辺に戻った俺を、待ち伏せしていた影が二つ。


「ねえ、それ! あたしにも見せて!」


「おい、こっちが先に見つけたんだけど!?」


 あの喧嘩っ早い二人組――エルフのフィリアと、ダークエルフのノワが、封鎖された石橋の両端から、身を乗り出すようにして眼鏡を指差していた。


 好奇心88と91。……ああ、そうだった。俺の最初のユーザーは、いつだって大人じゃない。


「よし、二人とも。順番にな」


 眼鏡を覗いた二人が、まったく同時に、まったく同じ声を上げた。


「「なにこれすごい!!」」


 川を挟んで、憎み合う二つの民の子供が、同じ景色を見て同じ声で叫んでる。


 ――設計図が、頭の中で一気に組み上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。