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宮廷の星読み姫 ―無自覚天文官は皇帝との秘めた恋の運命《ほし》を読む―  作者: 麻倉ロゼ
第二章 「流星群と星見祭」

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第二話 「流星群と、近づく距離」

ご覧いただきありがとうございます。

今夜も星澪と承辰の物語をお届けします。

どうぞ最後までお楽しみください。

「あっ、流れた!」


日が暮れ、あたりは静かな闇に包まれていた。

宮廷で最も広く、美しい庭園。

承辰しょうしん星澪せいれいは並んで夜空を見上げながら歩いていた。

庭園のあちこちに置かれた小さな灯籠が、

二人の足元を淡く照らしている。


「星澪、見たか?」


「はい。しっかりと」


二人の頭上には満天の星空が広がり、

尾を引いた光が次々と夜空を駆け抜けていく。


「今日は空気が澄んでおります。雲も少なく、

観測には絶好の夜ですね」


星澪も嬉しそうに微笑んだ。


「陛下。本日の流星群は、深夜から明け方にかけて見頃を迎えます」


「そうなのか。今は子の刻だから、もう少しか」


空を見上げる。

瞬きをする間にも、また一筋の光が流れた。


「あっ、また流れた!」


「はい」


承辰は流れる星を見つめたまま尋ねる。


「あれは、本当に星が流れているのか?」


星澪は静かに首を横へ振る。


「あれは星そのものではございません」


「天と地のあいだを漂う細かな砂つぶが、この国を包む気の層へ

勢いよく飛び込み、その摩擦によって光となっているのでございます」


「ほう」


「ご覧ください」


星澪は承辰に身体を近づけ、夜空の一点を指差した。


「!?」

肩と肩が触れそうなほどの距離。

承辰は、気づかれないように喉をゴクリ、と鳴らした。

 

「流れる光は、すべてあの星宿のあたりから

放たれているように見えるでしょう?」


「あ、ああ……確かに」


動揺を悟られないよう、小さく息を吐く。

承辰も目を凝らした。


「その一点を『放射点』と申しまして、どの宿から

放たれる流星か記録いたします」


「この流星群は、ほぼ毎年同じ季節、同じ頃に現れます。

そのため暦を確かめ、天の巡りに乱れがないかを知る、

大切な目印でもあるのです」


「なるほど」


承辰は感心したように腕を組む。


「星澪の話は、本当に分かりやすいな」


「陛下のご理解が早いからでございます」


「いや」


承辰は笑った。


「星澪の星の話は、本当に面白い。

知る前と後では、星の見え方まで変わる」


「勿体無いお言葉でございます」


星澪も嬉しそうに頷いた。


やがて流星は数を増し、まるで夜空に光の雨が降るようだった。


「……綺麗だな」


「ええ。本当に」


二人は顔を見合わせ、小さく微笑む。

そして再び、満天の星空を見上げた。



二人の足元には、小さな小川が静かに流れていた。


穏やかな水面には満天の星が映り込み、

まるで地上にも天の川が流れているようだった。


「……まるで、星の川ですね」


その美しさに、星澪は思わず頬をほころばせる。

淡い灯籠の明かりが、そんな星澪を優しく照らしていた。


(……綺麗だな)


承辰は、思わずその横顔に見惚れる。

庭園には、二人だけの穏やかな時間が流れていた。


「その……星澪は、今いくつなんだ?」


沈黙に耐えられなくなり、承辰が口を開く。


「およそ十八です」


「およそ十八?」


承辰は思わず聞き返した。


「私は赤子の頃、川から流れてきたところを先代の

天官長に拾われましたので、正しい年齢は測定不能でして」


「測定不能」という言い回しがおかしくて、承辰は思わず吹き出した。


「その日は流星群の夜だったそうです」


星澪は静かに夜空を見上げる。


「満天の星が地上の川へ映り込み、まるで天の川のようだったと」


「星が雨のように降る夜。『星に導かれ、水の澪を辿って来た子』

――そこから、星澪という名をいただきました」


「そうだったのか……」


承辰は優しく微笑む。


「星澪。綺麗な名前だ。君によく似合っている」


飾り気のない、本心からの言葉だった。


「ありがとうございます」


少し照れたように笑ったあと、星澪が口を開く。


「陛下のお名前にも、星を表す字が入っております」


「……そうなのか?」


「はい。『辰』には星や天体という意味もございます」


「ですから、承辰様も、とても素敵なお名前です」


承辰の肩がぴくりと跳ねた。


「……今、名前で呼んだか?」


「はい?」


星澪は不思議そうに首を傾げる。


「もう一度呼んでくれ」


「だめです」


きっぱりと断られた。


「陛下のお名前を軽々しくお呼びすることはできません」


「…………そうか」


承辰は肩を落とす。


「まあ、なんだ。星澪。星の申し子。

星読み姫にふさわしい名前だと思うぞ。」


「星の申し子かどうかは分かりませんが……」


星澪は承辰を見つめた。


「私、生まれつき黒子ほくろがございまして」


「ちょうど三つ並んでいます。まるで織女三星しょくじょさんせいのように」


「へぇ!」


承辰は目を輝かせる。


「面白いな!本当に織女に選ばれたみたいだ。」


「はい」


「初めて水運儀象台すいうんぎしょうだいで君を見た時、

織姫みたいだと思ったんだ!本当に星読み姫らしい」


「ありがとうございます。ご覧になりますか?」

星澪は穏やかに微笑んだ。


「……え?……そっそうだな。……み、見たい」


星澪は少し考えるように胸へ手を添えた。


「右胸にございます」


「……ん?」


承辰の動きが止まる。


「右胸の、この辺りに」


星澪は胸元へ手を添えた。


「ご所望でしたら――」


そっと襟へ手を掛け、少しだけ襟が緩む。

承辰の視線が、思わずそこへ吸い寄せられ――。


「――いやいやいや!!」


承辰は全力で首を振った。


「いい!見せなくていい!」


「そうですか」


「うん!見せなくていいぞ!」


(見たいけど!いや、駄目だ。)


(少しくらい……いや駄目だ!!)


頭をぶんぶん振り、邪念を追い払う。


「も、もう遅い!帰ろう!」


真っ赤な顔のまま歩き出す。

ふと立ち止まり、慌てて振り返った。


「星澪!さっきの黒子ほくろの話、他の者には絶対するな!

見せるのもだ!絶対駄目だからな!」


星澪はきょとんと瞬いた。


「お話ししたのは、陛下だけです。

お見せするのも、陛下だけです」


その無自覚な一言に。

承辰の顔は、耳まで真っ赤になった。


まるでその想いに応えるように。

夜空いっぱいの流星が、一斉に駆け抜けていった。

 




【用語解説】


織女三星しょくじょさんせい

現在の、こと座α星ベガを含む、そのそばの二つの星でできる三つ星の並びのこと。

織女三星は機織りや女性的な仕事、宝物を司る天女として信仰された。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また次の夜空で、お会いできたら嬉しいです。

続きが気になりましたら、ブックマークで

見守っていただけますと励みになります。


*平日10時ごろ更新(週5更新)/全21話・8/14完結予定。

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