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【完結】宮廷の星読み姫 ―無自覚天文官は皇帝の恋心を知らない―  作者: 麻倉ロゼ
第五章 「七夕」

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第一話 「恋の病と、初めての温もり」

ご覧いただきありがとうございます。

今夜も星澪と承辰の物語をお届けします。

どうぞ最後までお楽しみください。

「私……どうしてしまったのでしょう」


昨日から、おかしい。

星図を見ても集中できず、何度も観測を誤る。

あろうことか、観測する星まで間違えてしまった。


急に動悸が激しくなり、胸が締めつけられる。

嬉しくなったかと思えば、切なくなる。

どう考えても情緒がおかしい。


「何かの病なのでしょうか……」


どんなに寒い夜でも。一晩中観測を続けても。

今まで風邪ひとつ引いたことなどなかったのに。


星澪せいれいはそっと胸へ手を当てる。

あの方に触れられた指先が、今も熱を帯びている気がした。


「……承辰しょうしん様」


名を口にした瞬間。

全身が燃えるように熱くなった。

心臓は激しく鼓動し、息まで苦しくなる。


「これは――」


星澪ははっと目を見開く。


「絶対に、病です!!」



一方その頃。

承辰は足取りも軽く、天文台へ向かっていた。

日暮れ前。まだ明るい時間に星澪へ会える。


今日は何を話そうか。茶を飲むのもいい。

甘味を食べるのもいい。

考えるだけで頬が緩んでしまう。


「今なら、まだ天文台にいるだろう」


天文台へ着くと様子がおかしかった。

入口には天文官たちが集まり、何やら慌ただしくしている。


「どうした?」


「陛下!」


天文官たちは一斉に頭を下げた。

だが、どこか落ち着きがない。明らかに視線が泳いでいる。


司明しめい


承辰は真っ先に尋ねた。


「星澪は?」


「そ、その……」


司明は珍しく言葉を濁した。


「今、少々取り込み中でして……」


「取り込み中?」


承辰は首をかしげる。


「どこにいる?」


司明たちは困ったように顔を見合わせ、

そろって執務室の扉を見た。


「星澪?」

承辰は扉を軽く叩く。


その瞬間――


ガシャーン!!

バターン!!

ガタガタガタッ!!

執務室の中から盛大な物音が響いた。


続いて、「承辰様!?」

星澪の悲鳴にも似た声が聞こえる。


「星澪!?」


承辰は慌てて扉越しに声をかける。


「どうした! 大丈夫か!?」


「大丈夫ではありません!!」


中から即答が返ってくる。


「……ん?」


承辰は目をぱちくりさせた。


「大丈夫じゃないのか!?」


もう一度扉を叩く。


「とにかく開けてくれ」


「嫌です!!会えません!!」


「……え?」


あまりにもきっぱり拒否され、承辰は固まった。


「なんだ!?オレ、何かしたか!?」


昨日だって、何事もなく別れたはずだ。


すると中から、


「私……今、病に侵されておりますので!!」


「病!?」


承辰の顔色が一瞬で変わる。


「そうです!」


星澪は必死に叫ぶ。


「承辰様の事を考えると!私……!

どんどんおかしくなってしまうんです!」


「頭の中が承辰様でいっぱいになって……!

私が星の観測を間違えるなんて!

このままでは天文官として失格です!!」


「――え」


承辰は目を丸くした。


その言葉を、一つひとつ胸の中で繰り返す。


(頭の中が……オレでいっぱい)


(オレの事を考えると、おかしくなる)


(それは……つまり)


後ろでは。


天文官たちが一斉に顔を覆っていた。


「…………」


「…………」


「やっと気づいたか」


「長かったな……」


肩を叩き合いながら、小さく頷く。


「あの星澪が、ようやく……」


司明は誰より感慨深そうに目頭を押さえていた。


「このままでは業務に支障が出ます!」


執務室の中から星澪の叫びが続く。


「病が治るまで、承辰様にはお会いしません!!」


承辰は扉の前で真っ赤になっていた。


(まさか。星澪が)


(オレのことを……)


勢いよく振り返る。


「司明!!鍵を貸せ!!」


「――はっ!」


司明は一切ためらうことなく鍵を差し出した。

承辰は扉を開け放つ。


そこには。

呆然と立ち尽くす星澪がいた。


目が合うと、星澪の頬が、一瞬で桃色に染まる。


「――っ!」


承辰はたまらず駆け寄った。

言葉より先に身体が動いていた。


そっと。優しく。

星澪を抱きしめる。


承辰の腕の中で。星澪の瞳は、まるで夜空の

星のようにきらきらと輝いた。


そして――。


「わ……私……!」

 

――バタン!

そのまま、倒れて静かに気を失った。



星澪は顔を真っ赤にしたまま気を失い、そのまま天文台の

医務室へ運ばれていった。


「国中の名医を呼べー!!」


承辰の悲鳴にも似た叫びが宮廷中へ響き渡る。


その騒ぎを聞きつけた宮廷の医師たちが次々と駆けつけ、

なぜか靖遠せんえいまで姿を現した。


天文台は、たちまち騒然となる。


「陛下!」


現場へ到着した靖遠は状況を見るなり、すべてを察した。


「星澪殿の同意は、お取りになったのですか!?」


厳しい声が飛ぶ。


「と、取っては……いない。けど!」


承辰は慌てて言い返した。


「あんなことを言われたら……仕方ないだろ!!」


承辰自身も、すっかり取り乱していた。


(とんでもないことをしてしまった……!)


すると今度は、天文官の長老たちまで承辰を取り囲む。


「星澪殿は、我が国の宝!」


「太史局が誇る叡智ですぞ!」


「我らにとっては孫娘のような存在!」


「陛下は、どう責任をお取りになるおつもりですか!」


四方八方から責め立てられる。


(この国の星読み姫は……)


(本当に、大切にされているんだな)


承辰は観念したように肩を落とした。


「……すまない」


誰よりも身分が高いはずの皇帝は、素直に頭を下げた。


その時。医務室から司明が姿を現した。


「陛下」


承辰は勢いよく振り返った。


「星澪は!?」


「ご安心ください」


司明は静かに微笑む。


「怪我はございません」


「本当か!?」


承辰は胸をなで下ろした。


「ただ……」


司明は少し苦笑する。


「まだ気を失っております。本日はお戻りください」


「……そうか」


承辰は名残惜しそうに医務室の扉を見つめた。

何も言えず、小さく息を吐く。


「……目を覚ましたら、必ずまた会いに来る」


そう言い残し、承辰は後ろ髪を引かれる思いで

天文台をあとにした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

また次の夜空で、お会いできたら嬉しいです。

続きが気になりましたら、ブックマークで

見守っていただけますと励みになります。


*平日10時ごろ更新(週5更新)/全21話・8/14完結予定。

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