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第4話 「嫁の声が遠い」 支えてくれた大切な嫁。 しかし心はどこか遠くへ沈んでいく。

実は――


俺には、嫁がいる。


しかも、


信じられないくらい綺麗で、


信じられないくらい優しい。


なんでこんな俺と結婚したのか、


いまだに分からない。


若い頃からそうだった。


何をやっても不器用な俺の背中を、


いつも嫁が押してくれた。


仕事で失敗した時も。


人生が上手くいかなかった時も。


「大丈夫だよ」


そう言って笑ってくれた。


俺はその笑顔に、


何度も救われてきた。


だから頑張れた。


仕事も。


人生も。


家族も。


全部。


「俺が支えなきゃ」


そう思って走ってきた。


気づけば、


もうオッサンだ。


でも――


最近、


何かがおかしい。


歯車が、


ズレていく。


今まで普通に出来ていたことが、


出来ない。


笑うのも疲れる。


テレビの音がうるさい。


人の声が遠い。


そして、


理由もなく涙が出る。


飯を食ってても。


風呂に入ってても。


夜中、トイレに起きた時ですら。


ぽろぽろ涙が落ちる。


「……なんなんだよ、これ……」


ある日。


リビングでぼーっとしていた時だった。


嫁が、


心配そうに俺を見る。


「……ねぇ、あなた?」


優しい声。


聞き慣れた声。


何十年も隣で聞いてきた声。


なのに――


なぜか、


遠かった。


まるで、


分厚いガラス越しに聞こえるみたいに。


「貴方……大丈夫?」


その瞬間。


胸の奥が、


ぐしゃっと潰れた。


大丈夫じゃない。


でも、


何が大丈夫じゃないのか、


自分でも分からない。


だから俺は、


無理やり笑った。


「だ、大丈夫だって」


声が震える。


嫁は黙ったまま、


俺を見ていた。


全部、


気づいている顔だった。


長年連れ添った人間の目だった。


隠せる訳がなかった。


そして俺は、


そんな嫁の顔を見た瞬間――


また涙が溢れた。


止まらなかった。


まるで壊れた蛇口みたいに、


感情が溢れていく。


「……ごめん……」


何に謝っているのか、


自分でも分からなかった。

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