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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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クライヴ2

いつもお読みいただきありがとうございます!

「……本当にそれは効果的なのでしょうか」

「押してダメなら引いてみないといけないでしょう。女心は女の方が分かるの」


 マグノリア王女はアイザックと婚約解消しているのに?

 そんな言葉が喉まで出かかったが懸命に耐える。アイザックは側近ではあったが、クライヴたちとは一線を引いていた。いい奴だとは魅了の件で分かったが、それ以外は大して知らない。


「……王女殿下は本当に、助けてくださるのですか? よろしいのですか? 俺は王太子殿下の側にずっといた人間ですが……」

「それがどうしたというの?」


 王女は首を傾げる。先ほどまでの威圧は感じず、その仕草はまるで箱入りで無垢な王女のようだ。


「……王女殿下は王妃様を恨んでいらっしゃるのかと……これは復讐の絶好の機会ではないですか」

「どういう意味なのかしら?」


 王女が不思議そうに聞いてくるので、クライヴは非常に愚かな質問をしている気分になってきた。

 王女の母親である側妃は早くに亡くなっているが、その死の影には王妃がいると高位貴族なら誰もが考えている。証拠がないので王妃は捕まっておらずまだその地位にいるが、きっと王妃が何かしたのだろうと。


「私は国王に呼び戻されたから帰国しただけよ。縁談でも強制されるのかと思ったらまさかの事件の後処理なんだもの」


 あの威圧感は呼び戻されて不機嫌だっただけなのか。いや、クライヴに本心なんて喋らないか、この得体の知れない王女は。

 ロレッタだってそうだ。一緒に過ごしたが、クライヴに本心をどれだけ喋ってくれていたのだろう。

 申し訳ないといくら謝っても足りない。


 ただ、クライヴはギデオンのことも気になっていた。

 魅了にかかっていると知った日。ギデオンは「すまない」と言ったのだ。


「ギデオンのことは見逃していただけませんか……」

「嫌だわ、王太子殿下は彼なりにこの半年間頑張らなくてはいけないのよ。見逃すなんて何を変なことを言っているの。王太子殿下も懺悔には参加してもらうわ。彼だけお咎めなしで結婚なんて、他の貴族たちも国民も納得しないわよ」

「いえ、懺悔ではなく……もし王女殿下が復讐をこの機会に考えていらっしゃるのならば、ギデオンのことは見逃していただけませんか……」


 王女はまた不思議そうにクライヴを眺めた。


 なぜか冷や汗が垂れそうになる。

 なんてことを言ってしまったのか。ロレッタと自身のことだけ考えていれば良かったのに。この王女が復讐のために帰国したなら、間違いなくクライヴもこの発言で敵認定される。

 懺悔の提案自体がすでに罠で復讐の始まりなのかもしれないが、情けないクライヴはそれには縋るしかない。

 でも、言わなければいけない。


「こんなことを言える立場でないのは分かっているのですが……どうせ一度は捨てようと思った命ですから敢えて申し上げます。これはただのクライヴの発言です」

「全く意味が分からないけれど、あなたがそこまで王太子殿下のことを頼むのはなぜ?」

「ギデオンは、王太子殿下は、俺の友人だからです。友人を救いたいと思うのは当然のことではないでしょうか」

「それって、まずは婚約者に許してもらってからじゃないかしら」

「その通りですが、次にいつ王女殿下にこうしてお会いできるか分かりませんので……魔物に食われて死ぬかもしれませんし、魔石が採れなくて死にたくなるかもしれません。だから、俺には今しかないのです」


 王女の眉が少し寄った。


「命を盾にされると気分が悪いわ。婚約者の前では絶対にしないでちょうだい。あと、王太子殿下のことも婚約者の前では話さないこと。婚約者よりも王太子殿下が大事だと思われて許してもらえなくなるわよ」

「もし、もし……婚約者が許してくれれば、そしてベリエ侯爵家を継ぐことができたら、ギデオンを見逃していただいたなら、あなたに忠誠を間違いなく誓います」


 王女はクライヴのことを得体の知れないものでも見る目で見てきた。頭のてっぺんからつま先まで。


 クライヴも愚かで甘いことを言っていると思う。

 でも、クライヴはギデオンが好きだった。異性で好きなのはロレッタだが、ギデオンのことは同性として好きだった。もし国境に行って死ぬならば、これだけは言っておきたい。ただのエゴでしかないけれども。ギデオンには死んでほしくない。死というのはとても寒くて暗くて怖いものだったから。


「あなたって、とてもおかしな人ね」

「弱い、だけです。魅了に引っかかるほどに」

「弱いから魅了に引っかかるわけじゃないわ。一部をのぞいて誰でも引っかかるわよ。彼女の魅了は近くにいる異性に効くのだったでしょう。あなたたちが彼女と一緒にいたから、被害があれ以上広がらなかったのかもね」

「いえ、弱いです……アイザックはかかっていませんでした。男爵令嬢は彼にもよく接近していたというのに」

「そうね。彼はなぜかしらね。研究でもしたらいいんじゃないかしら」


 王女の言葉には、ほんの少し湿り気があった気がした。


「俺は聞いたんです。アイザックに負けたような気がして、悔しくて。どうして魅了にかからなかったのかと。そうしたら彼は言いました。『愛した人はもういないから』と」

「っふふ、それは面白いわね」


 クライヴがこれを伝えたのは拙い賭けだった。

 王女は笑ってくれたが、アイザックのことをどう思っているのかまでは分からない。


「私からも一つ教えてあげるわ。魅了が全く効かない血筋はあるのよ。我が国なら……そうね、王家の血筋」

「……え……?」


 彼女が笑ったことで気を抜きかけていたクライヴだったが、その言葉が意味するところに頭を殴られたような気がした。そんなクライヴを眺めて、王女は楽しそうに笑っていた。


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