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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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マグノリア3

いつもお読みいただきありがとうございます!

「……部屋を間違ったようだわ」


 すぐさま踵を返そうとしたが、ここまで案内してくれた使用人によって扉が閉められてしまった。


「部屋はここですよ」

「どういうこと? 私はイライザをここに呼んだはずよ。彼女はこういうことをする人ではないわ」


 イライザはこんなサプライズのようなことはしない。良くも悪くもいつもストレートで直球だ。

 年齢を重ねてこういうことをするようになったのかとも考えたが、半年間の懺悔の件で話した時もそのような印象はなかった。


「えぇ、今頃非常に怒っていらっしゃると思います」


 マグノリアの前までやってきたアイザックは、礼をとった。

 長い綺麗な銀髪が動きに合わせて揺れる様をマグノリアはただじっと眺める。


「長い間ご無沙汰しており大変失礼いたしました、マグノリア殿下。帰国されたのに挨拶にもうかがわずに……」


 アイザックは側近の中で魅了に惑わされなかった唯一の人物でかつ婚約者もいなかったため、半年間の懺悔に関係なかったのだ。むしろ、クライヴやルーフォスそして異母兄を止めようとしていたのが学園で目撃されており、評判は上がっていると聞いている。

 しかし、病弱を理由にいまだに婚約者を決めていないのだという。


「えぇ、そうね。あなたを卒業パーティー中は見なかったはずだけれどいつ来たの?」

「ずっとここにおりました。ギデオン殿下が、王女殿下と話をさせてくれるとのことだったので待っていました」


 やられた。まさかの異母兄にやられた。


「…………イライザは?」

「ギデオン殿下の命令で私に譲らされたようですね。後が怖いです」

「本当にね。今頃何か壊しているかもしれないわ。八つ当たりされたルーフォスが無事だといいわね」

「彼なら諫めてくれるでしょう」


 イライザは王女であるマグノリアに対してカップを投げつけたくらいなのだ。当たらないと分かっていたが、王太子の座から降りるギデオン相手ならもっと他の、例えば尖ったものでも投げるのではなかろうか。


 マグノリアも今すぐギデオンに何か投げたい気分だ。

 先ほど珍しくダンスに誘ってきたと思ったら、こんなことを企んでいたなんて。「これで良かったのか」と聞かれ、マグノリアは「これからです」と答えたはずだ。


 王妃を完全に引きずりおろすのはこれからなのだ。

 本性を完全に暴いて世間に知らしめてやりたい。これまで思い通りだった世界から非難されればいい。国王からも愛しい息子からも完全に見捨てられたらいい。


 もちろん、母のことも自供させたい。

 あの魅了を使う男爵令嬢は異性にしか効果がないそうだが、本当かどうか分からないから王妃で実験もしたい。

 王妃は直系王族ではないから、国王・ギデオンそしてマグノリアに魅了は効かなくとも王妃には理論上効くはずなのだ。

 ギデオンは、目的のために魅了にかかったフリをしていただけだ。とても下手だったが。


 それなのに、どうして今アイザックと会わせるのか。

 会場で会わせなかっただけまだいいが、これだからあの異母兄はダメなのだ。

 まだ王妃の手先や味方がいたらどうする? この接触のせいでまたアイザックに危害を加えられそうになったら?


 十三歳のあの日。

 ウェルズ公爵邸で食事をして、アイザックが真っ青な顔で倒れるのを見て縋りつくことしかできなかった。

 異母兄は知らないだろう、あの絶望を。世界が色を失って冷たくなる感覚を。

 

「えっと、この方は……どちら様でしょうか」


 アイザックの意識が回復してそう言われた。好きな人の記憶から自分が消える。

 あの足元が崩れる感覚も異母兄は知らないだろう。

 だから、こんな甘っちょろいことができるのか。あの異母兄は大切な人を失っていないからきっと分からないのだ。

 あぁ、腹立たしい。なんてことをするのだ、あの恋愛脳異母兄は。せっかくマグノリアが頑張ってきたのに足を引っ張る。


「殿下、ゆっくり息を。息をしてください」


 アイザックが伸ばしてきた手を振り払う。

 いつの間にか息が浅くなってしまっていた。

 異母兄のことはもっとうまく利用しなければ。こんな風に引っかけられることなんてあってはいけない。

 まぁ、アイザックのことを側近にして王妃が手出しさせないようにしてくれたことは感謝している。異母兄が動かなくてもウェルズ公爵がうまくやったとは思うけれども。


 もう二度と王妃に奪わせない。

 アイザックが実家であるウェルズ公爵家にいたにもかかわらず、王妃に脅された使用人によって毒を盛られて倒れ、マグノリアのことを忘れた時にそう決めたのだ。

 マグノリアの婚約者として、アイザックはまた狙われる。だからこそ婚約解消したのだ。彼だって毒の影響でマグノリアのことを忘れていて丁度良かった。


 マグノリアのことなんて思い出さなければいい。

 大切な人をこれ以上自分のせいで失うくらいなら、自分から手放す。そうして幸せに生きてほしい。

 異母兄はクリスティナに対して全くそれができなかったようだが、マグノリアはできる。だって、一度母を失っているのだから。


「殿下、全部思い出しましたから。もう、私をそんなに必死で守らなくていいんです」


 手を振り払ったのに、アイザックは再び伸ばしてきて今度はマグノリアを抱き込んだ。

 抵抗したが、病弱だと言われているはずの彼の体はビクともしない。


「酷い顔色ですよ。ちゃんと息をしてください。体も冷たいです」


 それはあなたのせいでしょう。

 幼い頃に母を亡くした時も何もできなかった。十三歳でアイザックが倒れた時もそうだった。

 王妃も国王も、嫌いだ。死んでも困らない。

 でも、いつだって一番殺してしまいたいのは、大切な人を失いそうな瞬間に何もできない無力な自分なのだから。


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