マグノリア2
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ダンスが数曲終わり、マグノリアのところに挨拶のために人が集まり始めたので、考え事をするのをやめた。
最初にやって来たのは、異母兄と一緒のクリスティナだ。
「体調は変わりないかしら」
「はい、ありがとうございます」
クリスティナに視線をやり、その後で隣の異母兄へと視線を流す。二人の格好はそれほどあからさまではないが、お互いの色が使われている。クリスティナも異母兄も金髪だから金色があるのは分かるとして、この卒業パーティーまで時間がない中でも工夫したものだ。
これなら、異母兄とクリスティナが婚約破棄するなんて噂する者はいないだろう。
「マグノリア。挨拶が少し落ち着いたら踊らないか」
「……分かりました」
「そんな嫌そうにしなくていいだろう」
「いえ、リヴィングストン公爵令嬢に悪いなと思っただけです」
マグノリアの言葉にクリスティナは笑って首を横に振る。
王妃とその実家のやっていた横領のことはまだ調査中だが、すでに噂になっている。なにせこの卒業パーティーにも国王夫妻は来ていないのだ。
王太子が出席する年には必ず国王夫妻は来賓として出席するのが習わしである。
王妃は少し前からすべての公務を欠席しているので、噂にならない方がおかしいだろう。
大好きな目立つ表舞台から消えた王妃、魅了騒動を起こしても一緒にいる当事者たち、そして来賓として参加したマグノリア。
この状況なら、異母兄とは踊っておいて関係が良好だと示しておいた方が余計な諍いに発展しないだろう。
王妃は排除できても、国王はまだできていないのだし。味方は多い方がいい。
帝国に行っても母国の情報は仕入れていたが、まさか異母兄が助けを求めてくるとは思ってもみなかった。
その後で挨拶に来たロレッタの指には青い加工した魔石が光っていた。
「あら、見つけたのね」
「はい」
クライヴもロレッタも照れくさそうに笑っていたが、言葉はなくともそれで十分だった。クライヴには青い魔石を探し出したと聞こえただろう。マグノリアはロレッタに幼稚ではないこれまでと違う愛を見つけたのね、という意味で言ったのだ。
それはロレッタの雰囲気を見れば分かる。
ルーフォスを若干引きずるように早足で歩いてきたイライザは、マグノリアに向かって不敵に笑った。
「これが帰ってきた目的だったのか?」
「そうね」
人がたくさんいるから決定的なことはお互いに言わない。
子供の時よりも数段カッコ良くなったイライザに目を細めそうになる。
「イライザ、パーティーが終わったら控室に来てくれない? なかなか明日以降は時間が取れないのよ」
「これはこれは、婚約者の前で堂々と私にデートのお誘いか?」
「えぇ、そうよ」
「イライザ、私は気にしないから」
「……分かった」
イライザは鷹揚に頷くと、ルーフォスをまた引きずるようにして去って行く。その足取りは先ほどよりも軽かった。
王妃には余罪がまだまだたくさんある。でも、関わった人たちが死んでいるので証拠が集まらない。マグノリアの母である側妃の死に関してもそうだ。ギデオンは王妃が自供するのを聞いていたようだが、王妃自身が他の人もいる場でそのように自供してくれないと罪として裁くのは難しい。
明日からもまだまだ忙しいので、イライザには今日話しておかないといけないだろう。彼女も雪をものともせずにウェリントンに帰るかもしれない。
卒業生たちの挨拶が一段落すると、異母兄は本当にダンスの誘いにまた来た。
頑張って微笑みを張り付けて、手を取って会場の中央に向かう。
「そんなに嫌そうにしなくていいだろう。これは一種の政治だ」
「分かっていますが、王太子殿下のリヴィングストン公爵令嬢に対する態度よりはマシです」
「それを言われると痛いな、あと王太子殿下と言うのもいい加減やめてくれ」
「今更お兄さまなんて呼ぶのも滑稽ですし、正式発表まではこれでいきましょう」
注目が集まっているのを感じつつ、踊りながらコソコソと会話をする。
「それにしても、うまいこと考えたものだ。魅了を解くのと母を調べる時間稼ぎのためとはいえ半年間の懺悔とは」
「懺悔しないとか、おっしゃってませんでしたっけ」
「母の手先がどこにいるか分からないからな。そう言うしかなかった」
「あの時、ルナとかいう令嬢と結婚したいなんて言われてましたね。彼女は私の手元にいますが本当に結婚しますか?」
「その件については……すまない。あの時はクリスティナとの婚約を解消したくて言ったんだ」
「私がリヴィングストン公爵令嬢に言うと思われたんですね」
「あぁ、だがマグノリアは分かっていたんだろう。『うまいこと考えたのは王太子殿下ではないですか』と言っていたよな。あれは俺が魅了騒動を利用して婚約解消を企んでいると知っていたんだろう。そのことは喋っていなかったのに」
「そんなのお互い様でしょう。私たちはお互いを信用せず、しかし利用しようとした。結果が良いのでそれでよしです」
「結果は……これで良かったのか?」
「後悔しているんですか? 母親を切り捨てたことを」
「いや……そうじゃない。マグノリアはどうだ? これで良かったのか?」
「王妃の余罪を明らかにしなければなりませんから、これからです」
異母兄は帝国の知識で、クリスティナの魅了を解いてほしいと願ってきた。理由は、彼女と婚約解消して他の令嬢と婚約したいが魅了のせいでなかなかうまく進まないから。王妃も決して許可しないからと。
リヴィングストン公爵家の後ろ盾を手放すなんて、マグノリアに王位を差し出そうとしているようなものだった。
ずっと王妃が異母兄のために守ってきた王位を、他の令嬢と婚約したいからと手放すなんてなんと虫のいい話だろうか。絶対に怪しい。
近隣諸国で身分も教養もある婚約者との婚約を破棄して身分の低い令嬢に乗り換えるなんて事件はあったが、まさか異母兄もそっち系だったのか。
それでも怪しいと思ったマグノリアは、異母兄には半年間の懺悔計画などは一切知らせずに、母国に戻って協力したのだ。
異母兄が依頼した理由は、クリスティナへの愛からだったが。まぁ、クリスティナへの愛で王妃を見限ってくれたのは良かった。異母兄の協力で王妃を引きずり下ろすことができた。
ダンスを終えて今後のために卒業生たちといろいろ喋り、パーティーが終わってから控室に向かった。
イライザには話をしておかないといけない。
約束したからだ。このまま黙っていたら今度はナイフが飛んできそうだ。
扉の前にいた使用人にすでに相手は到着していると言われて、相変わらずせっかちだなと思いながら控室に入る。
「殿下」
ソファから立ち上がった人物は、イライザではなかった。




