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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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マグノリア1

いつもお読みいただきありがとうございます!

 まさか、通ってもいない学園の卒業パーティーに来賓として参加することになるなんてね。


 マグノリアは笑顔を浮かべて、用意された高い位置から卒業パーティーが行われている会場を見渡す。異母兄たちが半年間学園に通わなかったせいか、当事者たちやマグノリアにちらちら視線を向ける生徒は多い者の、それ以外の魅了騒動の混乱はそれほど見受けられない。


 色鮮やかなさまざまなドレスが目に痛いが、母国での流行は今こうなのかと新鮮にも映る。


 留学先の帝国の流行は、シンプルで体のラインが出るものだ。今日のマグノリアのドレスもその系統である。しかし、母国の令嬢たちはふんわりと広がる可愛らしいドレスを着ているのだ。


 ただし、イライザをのぞく。


 イライザは動きにくいドレスが嫌いなので、マグノリアと同じようなドレスで今日はパーティーに参加している。あまりパーティーが彼女は好きではないのでウェリントン領から戻ってこないかと思ったが、雪が酷くなって通行できなくなる前に戻ってきたようだ。

 いい加減に何があったか教えろと言わんばかりに、何度も鋭い視線が飛んでくる。ルーフォスが諫めてくれているから突撃まではしてこないだろう。


 マグノリアは三組の中で、イライザの幸せを一番に考えていた。

 彼女はマグノリアの友人ではない。ルーフォスが問うたような安っぽい友人ではなく、親友なのだから。


 さて、頼まれていた卒業祝いは述べたのだしそれでお役御免としたいところだが、パーティー開始早々に立ち去るのも憶測を呼ぶだろう。ダンスが終わったら挨拶にくる令息・令嬢たちもいるだろうし。


 ロレッタとクライヴは先ほど人混みの中に見えた。あの二人に関しては全く心配していなかった。ロレッタさえ拗らせなければすぐ復縁するからだ。腹芸があまり得意でないクライヴに急に手紙を差し止めろという提案だけはしたのだが、ハプニングもありつつうまくやったようだ。


 愛の形は人それぞれ。

 ロレッタにはそう伝えたが、マグノリアはロレッタの愛は大嫌いである。

 マグノリアの目にはロレッタの愛は幼く拙く、浅ましく見えた。

 自分のために死んでほしい。自分を最後まで想って死んでほしい。

 なんて幼稚な愛。でも、そんなことをのほほんと言えるロレッタが羨ましい。

 マグノリアも王女に生まれなかったら、あんなのほほんとした幼稚なことをいまだに喋っていただろう。

 目の前で大切な人を失いかけるなんてことがなければ。

 側妃だった母を失い、アイザックまで失いかけたら、幼稚でのほほんとした愛はマグノリアの中で粉々にされた。


 だから、ロレッタは素直で羨ましい。まぁ、あんな思いは普通の令嬢ならしなくていいことだ。

 マグノリアも願わくばあんなに幼稚でいたかった。

 そして、異母兄も羨ましい。結局、彼は何をしてもクリスティナに愛されているのだから。魅了は解いたはずなのに、クリスティナはそれでも異母兄を好きだったのだ。

 異母兄には教えていないが、クリスティナにかけられた魅了は好意を増大させるものだ。そもそもの好意がなければ成立しないから、この結果は羨ましいが想定の範囲内だ。


 マグノリアはぼんやりと卒業生たちのダンスを眺める。


 異母兄もイライザもロレッタの姿も見える。

 キャラハン伯爵家にはロレッタを通じて恩を売った。帝国との縁も紹介した。ロレッタもクライヴもこれでマグノリアに足を向けて寝られないだろう。

 イライザは……話をしなければいけないが、彼女に関しては心配はしていない。巻き込みたくなかったから何も言わなかっただけで、イライザはいつでもマグノリアの味方をしてくれたから。

 クリスティナのリヴィングストン公爵家だって、異母兄が婿入りすることになったのだし抱き込めたと言っていい。異母兄は二度と王位を望まないだろう。


 王妃派と呼ばれる貴族たちは、現在調べて切り崩している最中だ。

 今呑気にダンスを楽しんでいる令息・令嬢が、一週間後に姿を消しているなんてこともあり得るかもしれない。


 王妃を引きずり下ろすのは、マグノリアの悲願だった。

 異母兄がそれをやってくれた。


「母上、俺は王太子の座を下りてマグノリアに譲ります。父上もそう承認しました」


 王妃の人生で最大の目的は、異母兄を国王にすること。でも、異母兄は王妃の前でちゃんと宣言したのだ。王太子の座を下りて、王妃が最も邪魔だと思っているマグノリアに譲ると。

 実家が横領した金を派閥の貴族たちに配っていた容疑で部屋に閉じ込められていた王妃は、異母兄のその言葉で発狂していた。


「嘘よ、あの人が許すはずないわ。あのお金で助かっていたのはあの人もだもの」

「父上は母上を切り捨てるようですよ。書類上は全部母上のせいだということになっています」

「嘘、嘘よ……そんな……ねぇ、ギデオン。嘘でしょう? クリスティナはあなたのことが好きなんだから、あなたが王太子のままでいいはずよ。そこの女に譲るですって? あり得ないわ! 私が何のためにっ、あなたのためにどれだけやってきたと思ってるの!」


 国王に見捨てられたことは、王妃にはあまり意味がなかったらしい。愛されたくて実家からの金を流していたはずなのに。


「母上、クリスティナに魅了をかけたあなたのことを許すことなどできません。彼女の人生を台無しにするところでした」

「いいのよ、あの子は! ギデオンのことが好きなんだから何をしたって! あの子だって幸せだったはずよ! リヴィングストン公爵家が後ろ盾なら何の問題もないわ」

「俺はずっと王太子になんてなりたくなかったんです。でも、あなたがそう望むから仕方なくやっていただけ。でも、もう限界なんです。日に日に違和感が大きくなる。俺は向いてないって」


 王妃の首の周りには黒い痣が見える。

 呪術師に頼んで魅了をかけていたようだが、その呪術師もバカではなかった。王妃のネックレスをこっそり使い、そのネックレスの宝石を媒介にしてクリスティナに魅了をかけていたのだ。魅了が解けた際に自分に反動が降りかからないように。

 魅了が解けて媒介の宝石が砕けて、反動はネックレスの持ち主だった王妃にも降りかかったわけだ。


「嘘よ……ギデオン、嘘よ。あの人のところに行きましょう! 今ならまだ間に合うはずよ! その女に王位を譲るなんてダメよ! その女は親ともども私より不幸でないといけないのよっ! 私がどれだけギデオンのために犠牲を払ったと思ってるの! 横領なんて、ちょっと税金を上げて、開拓した土地のことを国に報告しなかっただけじゃない。平民から取り立てたって何の問題もないし、どうせ国のために使うんだからいいじゃないの!」


 嘘だと呟き、ギデオンの後ろにいたマグノリアに言葉で当たり散らし、異母兄に縋って泣き叫んでいる王妃は本当に滑稽だった。


「母上、あなたのやり方はどうであれ、俺を生んでくれて、クリスティナを婚約者にしてくれた。これまで俺のためにしてくれたことが少なからずあるので、最後まで傷つけずにいようと思っていましたが……あなたは、化け物だ。今日を限りで母と思うことはないでしょう」

「ギデオン!」

「あなたを王妃にした父にも責任があるとは思いますが、今すぐ退位されても困りますし国が混乱するので。あなたは、父の愛を求める化け物だ。父にだけ求めれば良かったのに、側妃のせいにして害し、その子供も害して……果ては実家の領民にまで余分な税を……そんな人を誰が愛すんですか。俺を王にしたいのだって、自分が認められたかっただけでしょう。俺にもっと強さがあったなら、あなたをさっさと切り捨てたのに」


 ギデオンに冷たい目で見られて、王妃は口をはくはくと開けているが声が出ていない。

 マグノリアは王妃が毒で苦しんで死ぬよりもこの絶望する姿を見たかった。

 愛していた国王に切り捨てられ、そしてギデオンにも見捨てられる姿を。


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