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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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マグノリア4

いつもお読みいただきありがとうございます!

 それにしても、全部思い出した?

 どういうこと? 毒の影響で一生思い出さない可能性もあるって言われたのに、そんなに都合良く思い出すものかしら。


 アイザックはマグノリアのことを綺麗さっぱり忘れたはずだ。

 それで良かった。あんなことは思い出さなくていい。

だからもっといい人と婚約したいとマグノリアは国王にバカな振りをして言えたのだ。


「思い、出したの?」

「はい」

「どこまで?」

「殿下と婚約した時から、解消する時までのすべてを」

「そう、でも、そのまま忘れていなさい。その方があなたは幸せだし安全よ。あなたが毒を盛られたのは私の責任。だから、あなたは忘れたまま過ごしなさい。あなたは何も思い出していない、いいわね?」


 アイザックに抱き込まれたまま、マグノリアは早口でそう告げた。

 先ほどから何度か彼の胸を押しているのだが、ビクともせず抜け出せないのだ。

 こんな状況で命令しているなんて、自分が少し情けない。


「私も少しは今回頑張りました。といっても、王妃の実家の横領を暴いたのは父ですが」

「やっぱりウェルズ公爵だったのね、異母兄だけではできないことだと思っていたの」


 ということは、アイザックの記憶は少し前から戻っていたということか。ウェルズ公爵だって、何もないのに王妃に盾突くことはしない。

 マグノリアは公爵にそう頼んでいたし、アイザックに自分のことを詳しく話してくれるなと頼んでいた。公爵だって一人息子を危険に晒したくないから、苦悩しつつもマグノリアは我儘な王女で婚約解消できてむしろ良かったということにしてくれたはずだ。


 この懺悔の半年間、マグノリアは母の毒殺についていろいろと調べ、王妃派の各家を取り込み、国王を説得するのに忙しかったので、異母兄に王妃の実家のことは一任したのだ。

 王妃もマグノリアの動向には目を光らせていてそちら方面は動きにくかったし、なによりも愛した息子に裏切られる方が王妃のダメージが大きい。異母兄が躊躇するようだったらマグノリアが出たが、異母兄は意外と人を使うのがうまいようだ。


 異母兄にこのようないいところが一つもなければ、クリスティナの魅了解いて異母兄はどこか他国に婿入りしてもらったのに。結局、国内にとどまってもらうことにしてしまった。


「私には、あの魅了を使う令嬢が殿下に見えたのです」

「今、私は喧嘩を売られているのかしら」


 こんなことで動揺してはいけない。あの令嬢の魅了は、令嬢自身をその人物の愛する者に誤認させる。

 まだアイザックが自分を好きだなんて思ってはいけないのだ。マグノリアのせいでアイザックは苦しんだのだから。


「驚きました。目の前に十三歳のマグノリア殿下が急に現れたんですから。しかも、制服ではなく最後に見たドレス姿でした。深いグリーンのドレスです。覚えていらっしゃいますか」


 まさか、魅了によって記憶を取り戻すとは。

 最後というのは、アイザックが毒を盛られたあたりだ。

 着ていたドレスなんて覚えていないと言いたいところだが、アイザックに目の色とよく合うからと褒められたからあの頃は彼と会う時は必ずグリーンのドレスを着ていた。


 幸せだったあの頃の記憶はすべて覚えている。

 アイザックと婚約していた王女時代が、マグノリアにとっては一番輝いていて幸せだった。アイザックの記憶にはそのマグノリアだけがいてほしい。

 みっともなくアイザックに縋って、有事に何もできず帝国に逃げることしかできなかった弱い自分ではない。


「さぁね、どうだったかしら。あなたが魅了に引っかからなかったとは素晴らしいわね。王家の直系の血筋以外は抗うのは難しいのではないかしら」

「それはそうですよ。私の愛する人は私を守るために帝国に行かれてしまったんですから、この国の学園に十三歳の姿でいらっしゃるわけはありません。でも、あの品性のない令嬢には感謝しています。魅了のおかげで記憶を取り戻すことができたのですから」

「そう、あなたの記憶が戻ったことは良かったわね。魅了に引っかからず、異母兄たちを諫めてくれて、リヴィングストン公爵令嬢にもうまく進言してくれたことには感謝しているわ。あなたのおかげで学園の混乱は最小限で済んだのでしょう。ところで、いい加減離してくれるかしら」

「嫌です」

「褒美が欲しいなら追って連絡するわ」

「ここで離したら、殿下はまたどこかへ行かれてしまいそうなので」


 アイザックまで、イライザみたいなことを言う。


「あら、私は女王になることが内々に決まっているのにどこへ行くというのかしら」

「殿下、一瞬でもあなたを忘れてしまって申し訳ありませんでした」

「あなたのせいではないわ」

「もう一度、私を隣に置いてくださいませんか」

「何? ウェルズ公爵家は王配になりたいということ?」

「いいえ、マグノリア殿下の隣を望みます。もう、私はあなたと父に守られるだけの男ではないのです」

「あなたが王配になることはないわよ」


 アイザックの腕の力が少し抜けたので、マグノリアはぐいっと力を込めて体を押してやっと抱擁から抜け出した。


 自分は異母兄とは違う。

 もうマグノリアは間違わない。恋心に流されてここで誤ってはいけない。母を殺して、アイザックまで害そうとした王妃を苦しめるためにずっと待って帰ってきたのだから。そして、国王も許さない。

 大切なものが奪われるのはもうたくさん。アイザックを王配にするなんて、弱点を大きく並べているようなものではないか。


「王配には、どうでもいい男を置くの。私を忘れようと、死のうと、どうでもいい男にするわ。王妃が最後の悪あがきで反撃してきてその人を殺しても痛くもかゆくもない人にするの」

「殿下はどうでもいい男と結婚するんですか?」

「そうよ。他国の王族にすると面倒なことになりそうだから、この国のどうでもいい令息にするわ」


 アイザックの青い目をきっちり十秒間見つめてから、視線を逸らす。


「さぁ、私はイライザにナイフでも投げられる前に説明に行かないと。あなたが記憶を取り戻して良かったのかは分からないけど……今回、異母兄たちを諫めてくれてありがとう」


 あのね、アイザック。あなただけは失いたくなかった。

 あなたを王配にして失ったらもう生きている意味なんてなくなるのよ。


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