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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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クリスティナ5

いつもお読みいただきありがとうございます!

「……あなたはまだ魅了が完全に解けていないようだ。妹に言っておくから安静にしているように」

「じゃあ、殿下は魅了にかかっていた時はどういう感覚でしたか? 教えてください。解けた今はどんな感覚なのですか?」


 クリスティナの指はまだギデオンの袖を掴んでいる。

 命はかかっていないようなのに、これを放したら全部終わりな気がした。


「クリスティナの場合は呪術。俺は人間の魅了持ちに近づいたわけだから違うだろう」

「それでも、です。私は知る権利くらいあるでしょう?」

「ルナを愛していて結婚したいと思っていた。ルナが世界の中心ですべてだった」


 ルナというのはあの男爵令嬢の名前だ。

 質問したくせに淡々と紡がれる言葉がショックで指が離れそうになるが、無理やり指先に力を込める。


「五年間努力した私よりも……あの方が良かったんですね」

「そうだな、魅了にかかっていた間はそうだった。クリスティナのことは思い出しもしなかったし、頭に靄がかかったようでルナしか見えていなかった」


 婚約者で好きな人の視線が他の女性に向いている。それほど残酷なことはない。

 しかもその女性は外見だけが取り柄で何もできない。王妃にも高位貴族の夫人にも絶対になれないような教養とマナーのなさ。


 でも、これで分かった。

 クライヴやルーフォスの言っていたらしい魅了のかかり方とは違う。彼らはあの男爵令嬢を愛する婚約者だと認識して接していたのだ。

 つまり、男爵令嬢の使う魅了は魔物の操る魅了とほとんど同じ。自分を愛する者に誤認させて思い通りにする。


 やっぱり、ギデオンは魅了にかかっていなかった。


「私はあなたにとって、どんな人間なんですか?」

「……クリスティナ?」

「この期に及んで大切なことは何も教えてもらえない。一度も大切にしてもらえないような人間だったのでしょうか。だったら、私はもう何をしてもダメですね。五年間魅了にかかってはいたものの、ギデオン様を見てきました。でも、そんな人にも最後の最後でこんな対応をされるくらいならもう私はきっとダメです」

「クリスティナ、何を自棄になっている。あなたの人生はこれからだろう」

「もう、いいです。私は修道院にでも入るので放っておいてください」


 いっそ、ギデオンが魅了にかかってくれていれば良かった。

 そうすれば、こんな杜撰な扱いをされたことに納得がせめてできたのに。全部魅了のせいにできた。

 ギデオンは魅了にかかっておらず、クリスティナのこともきちんと認識していた。それでもルナという令嬢のところに行ったのだ。側近を止めようとしつつも、魅了にかかった振りまでして。


 そんなにギデオンに嫌われていたのだ。婚約をナシにしたかったのだろう。嫌われている方がまだいいかもしれない。

 ギデオンにとってクリスティナはどうでもいい存在なのだ。

 そんな存在に王妃が魅了をかけていたと知って対処しただけ。


 クリスティナはそっと指を外す。

 これで終わりだ。全部。五年間が本当に無駄になってしまったし、初恋も終わりだ。


 自分の指が力なく落ちるのを見つめながら、王女の狙いはこれだったのかもしれないと感じた。


 今日ギデオンが来ると事前に分かっていれば、クリスティナはこんなに取り乱さなかったし、ちゃんと心を落ち着けてこんな風に縋りつかなかったはずだ。

 こんなとりとめのないことだって決して聞かなかったのに。


 腕が完全にだらりと落ちる前にギデオンに握られる。


「今更、何でしょうか。放してください。もうお帰りでしょう」

「修道院に入るのはダメだ。あなたは幸せにならないといけない」


 腕を取られたまま、顔を背ける。

 何なの、この人。

 王妃があんなことをしでかしたから、クリスティナが幸せにならないと自分の贖罪にならないとでも言いたいのか。


「私の幸せくらい自分で決めます」


 クリスティナがいくら好きだと言っても信じてくれないくせに。そんな人に幸せを語られたくない。


「五年間無駄にさせてしまったが、あなたはまだこれからなんだ。どうか自棄にならないでほしい。世界の半分は男性だ。こんな俺よりももっといい人が星の数ほどいる」

「私の、幸せは……ギデオン様の隣にいることです。勝手に他の男といる方が幸せだって、決めないでっ!」

「クリスティナ、それは魅了の後遺症かもしれないし……」

「そんなことばかり言って、話も聞いてくれないじゃないですか!」


 あぁ、なんてみっともない。

 凄くみっともない。声を荒げて泣きながらこんなことを言うなんて。

 まるで、懺悔みたいだ。

 ほら、彼だって驚いて目を見張っている。


 掴まれたままの手をぐっと自分の方に引き寄せると、彼までくっついて近くに来た。

 そのまま彼の腰に縋りつく。


「五年前のお茶会の時から、ギデオン様のことが好きだったのに……でも、あなたには迷惑だったんでしょう? 私はもう人のことなんて好きになれないです。初めて好きになった人にこんな扱いをされたんだからっ……!」


 涙が止まらない。あぁ、みっともない。でも、修道院に行くならもうどうでもいい。

 

「こんなに情けない俺を見てもまだ好きなのか」


 困惑したような声が頭上から降ってくる。

 さっきからずっとそう言っているのに。


「当たり前、じゃないですか。私だって、さっき会った時に、分かりましたけど……半年会わなくても……あなたに会えて嬉しかった。他の女性に近づいていてもそれでも……まだ、好きです」


 今日だけで何回彼に好きだと言っただろう。

 そういえば、好きと言ったことなどなかった。侍女には漏らしたことはあるし態度でバレバレだとは分かっていたけれど……だって、そんなこと言うのははしたないもの。


「俺は、クリスティナを解放してやらないといけないとずっと思っていた。どうして解放しようとしているのに、そんなことを──」


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