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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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ギデオン2

 マグノリアはそこまで愚かではないはずだ。


 彼女が「もっといい令息と結婚したい。こんな人は嫌だ」なんて我儘を言うわけがないだろう。そのくらいはギデオンにでも分かる。あの二人は傍目から見ても仲が良かったはずなのに。


 婚約解消してすぐにマグノリアは帝国に留学してしまった。

 まるで、何かから逃げるみたいに。


 母の機嫌を取りたい貴族たちは「王女殿下は帝国に男漁りに行った」「我儘すぎてウェルズ公爵家に愛想を尽かされた」なんて噂を流し、当のウェルズ公爵家は「王女殿下のご意向により婚約解消になった」としか言わないので余計にその噂が駆け巡ってしまった。


 ギデオンはある日、母に聞いてみた。


「マグノリアが婚約解消したようですね」

「えぇ、そうね。せっかく私が新しい縁を紹介しようと思ったのに。まぁ、この国からいなくなってくれたならそれはそれでいいわね。死んだようなものだし。帝国であの子が通用するわけないもの」


 実家が裕福なのと側妃が亡くなっているのとで、母に権力はないようで母の味方をする貴族たちはかなりいた。


「母上が彼女に何かしたのですか?」

「あら、ギデオンのためにやってあげたのに。どうしてそんな聞き方をするのかしら」


 なんで毎回そんな言い方をするんだ。

 勉強ができないからと無理やり時間を増やすのも、虐待まがいの教育をするのも、婚約者をクリスティナにするのも王妃は全部こんな言い方をする。あなたのため、と。

 逆らうと不機嫌になって面倒なので、最近では父だけでなくギデオンでさえ母を適当にあしらっていた。


「あの王女がウェルズ公爵家に嫁いで欲を出したらどうするのよ。私はその可能性を見たからこそ、ギデオンのためにやってあげたことなのよ」

「失礼しました。何が起きたのか全く分からなくて驚いてしまって……」

「ウェルズ公爵ならまぁいいかしらと私も思っていたの。最近は成績も悪いようだし、ちゃんとギデオンのことを王太子殿下と呼ぶし。でも、楽しそうにしているのを見てしまったのよねぇ、あの王女が。それを見たらあの忌々しい側妃を思い出したの。陛下と楽しそうに喋っていたのよ。最初に選ばれなかったくせに後からやって来て」


 酒が入っている時に聞いたからだろうか、母はすらすらと喋る。

 だんだん寒気がしてきた。


「あの王女が幸せそうで楽しそうにしているなんて、許されないと思わない? 愛されてもいないはずなのに、私から陛下の関心を奪ったのだから。あの王女も母親に似て放置していたらギデオンのものを平気な顔で奪いに来るわよ。なんて図々しい親子なの」

「……何を、なさったんですか?」

「あぁ、簡単よ。ウェルズ公爵家の使用人の中で弱みがある子を見つけて買収するのよ。それで毒を盛ったの。母親とお揃いにしてあげようと思ったけど、さすがにやめたの。毒は摂取しても死ぬようなものじゃないわ。でも、買収した使用人がミスしたみたいでね。あの王女に飲ませるつもりがウェルズ公爵の息子の方が飲んでしまったみたい」


 毒を盛らせたことを楽しそうに告げる母がその時、化け物に見えた。


「でも、私のものを奪おうとするのがいけないのよ。全部あの女とその娘が悪いの。あの毒を飲んでね、ウェルズ公爵令息は記憶障害を起こしたようなのよ。あぁ、いい気味ね。全てが私に味方しているみたい。やっぱり、私は正しいことをしているのね。あの王女もさぞショックだったでしょうね、自分が婚約者に忘れられていて。報告で聞いたけど、真っ青な顔をしていたみたいよ。その場で見たかったわねぇ」


 あぁ、母は化け物だったんだ。

 喉がカラカラに乾いてしまっていて、言葉が出ない。

 側妃を入れたのは父なのに、どうして父には何もせずに側妃とその娘にだけ何かするのか。


 マグノリアはギデオンと同じ十三歳だ。彼女が一体何をした? 俺より出来が良かっただけだ。

 母親を亡くしてバカな振りをして、せっかく婚約者ができたのに、母はそれさえも気に食わないというだけの理由で取り上げたのか。


「母上、ウェルズ公爵家はそれほど脅威なのですか?」

「いいえ? 公爵家だけど特筆すべき点はない家よ。もちろん、反乱を企てたら脅威だけど。リヴィングストン公爵家の方がお金もあるし権力もあるわ。ギデオンのために私が頼み込んで婚約してもらったのよ」


 また「ギデオンのため」か。反吐が出そうになる。


「これまで王女は放置だったので……あの王女と一緒になってウェルズ公爵家が何か企んでいるのかと」

「最初に陛下にそう訴えたんだけど取り合ってもらえなかったのよ。だから、仕方なく毒にしてあげたの。最初からどうでもいい国外に嫁がせれば良かったのに、陛下がウェルズ公爵家との縁を結ぶから。あんな王女にそんないい縁は必要ないでしょう。あの女の娘が幸せになっているなんてねぇ、許されないわ。もしギデオンの王太子の座を奪おうとしてきたらどうするのよ」

「じゃあ、俺の側近にウェルズ公爵令息を加えてもいいですか。ちょうどもう一人欲しかったんです。王女と共謀するかもしれないならば監視にもちょうどいいですし」

「あぁ、いいわね。そうしなさい。ふふ、ギデオン。私のおかげで助かったでしょう? あなたは私の言う通りにしていればいいのよ」


 吐き気がする。

 この化け物に対しても、これを王妃の座にそのままにしている父にも。そして、適当にあしらってきてこの期に及んで何も言えない自分にも。


 アイザック・ウェルズは本当にマグノリアのことを忘れていた。

 幼少期から丸々記憶がなくなったらしい。マグノリアのことを聞いても「あぁ、私は王女殿下と婚約していたようですね」と他人事のようにしか言わない。


 最もおかしいのは母だが、婚約者であるクリスティナもおかしかった。

 ギデオンのやることなすことを全て肯定し、どんなに粗雑に扱っても文句も言わないのだ。

 母も恐ろしいが、クリスティナのことも恐ろしかった。

 マグノリアがこの国からいなくなって王太子であることが余計にプレッシャーなのに、クリスティナは「ギデオン殿下は素晴らしいのですから」とか「そのままで大丈夫です」とかしか言わないのだ。


 マグノリアがいなくなって、口は利かないものの彼女の存在に助けられていたのだとギデオンはやっと分かった。

 自分がダメでもこの王女がいると無意識で思っていたのに、身近なスペアは母によって奪われた。

 クリスティナにも弱音を吐いても「ギデオン殿下は素晴らしい王太子になるのですから」としか言われない。

 王太子なんて重荷でしかないのに。

 母が「あなたのためよ」「ギデオンのためよ」と綺麗に磨き上げ、マグノリアを寄せつけなかっただけの立場だ。王太子の座の下には側妃が倒れている。母が使い捨てた使用人なんかも顔が分かっていればそこに見えただろう。

 

 そんな中で、学園におかしな男爵令嬢が入ってきたのだ。


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