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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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ギデオン1

いつもお読みいただきありがとうございます!

 母がおかしく見え始めたのはいつからだろう。


「ギデオン。あなたは王太子になって、ゆくゆくは国王になるのよ」


 異母妹のマグノリアがいたものの、ギデオンはずっと母にそう言われて育ってきたからそんなものなのだろうと思っていた。なにせ自分は王妃の息子であるし、歴代女王はただでさえ少ないのだ。


 なかなか子供ができず、慣例により側妃を迎えることになった頃の母はかなり焦っていたらしい。使用人にもよく当たり散らし、入れ替わりが激しかったと聞いている。

 王子である自分を産んだことで母の精神は安定したはずだったが、家庭教師からの報告で顔色を変えていた。


 そう、マグノリアの方が圧倒的に優秀だと知った時から母はおかしくなったのだ。


「ギデオン、あなたは国王になるのだから、あんな女から生まれた王女に負けてはなりません」


 そう言われ、勉強の時間をひたすら増やされた。

 それでも、ギデオンよりもマグノリアの方が優秀だった。


 同じ授業を受けていることもあってギデオンは最初こそこの事実に落ち込んだが、まぁ仕方がないかとやがて受け入れた。分からなくてついていけないものは仕方がない。あまりに自分がついていけないので、自ら「妹がもっと先を勉強したかったら、授業時間を分けた方がいいんじゃないか」とまで提案した。


 ギデオンは認めたが、母は現実を認められなかった。ギデオンにも当たるようになってきた。


「どうしてこんなこともまだできないのよ! あんな王女に負けてばかり! それでいいと思ってるの!」

「できるまで机に縛り付けておきなさい!」

「これはギデオンのためなのよ、いいわね? あの子が王になってしまったら、ギデオンはどうなるかしら。殺されてしまうかもしれないのよ。これはね、あなたのためよ」


 激しく当たることもあれば、気持ち悪いほどの猫なで声で耳元で囁くこともある。

 さぞかし母も出来が良かったのかと聞いて回ってみれば、残念ながらそんなことはなかった。母は大して教養のない王妃だったのだ。仕事はほとんど補佐がやっていて、母が頑張っていたのは国内の社交だけだった。外国語も全く喋れない。

 まぁ、それでも父がいいとしたなら仕方がない。


 そうまでしてもギデオンの成績が横ばいでいるうちに、側妃が突然亡くなった。

 母は父の前では悲しそうにしていたが、自室では大笑いして上機嫌だった。

 母親を亡くして落ち込む異母妹を気遣っている振りをして茶会に呼んだのを見て、初めて母に対して吐き気を覚えた。


 あぁ、この人はおかしい。

 母が人間でないものに見えた。


 側妃については母が関与したという証拠は一切でなかったものの、マグノリアは何か勘づいたらしい。あからさまに勉強で手を抜き始め、成績が落ち始めた。

 母はそれに満足してまた上機嫌になっていた。


 あぁ、この母というのはなんて浅ましい生き物なんだろう。

 父である国王に見初められて、婚約者候補にも入っていなかった伯爵家から嫁いだせいだろうか。父の愛に縋るしかない哀れな生き物だ。


 マグノリアの母だった側妃は、同じ伯爵令嬢でも教養溢れる令嬢だったという。

 しかも父の婚約者候補にもともと入っており、他の令息と婚約したのだがその令息が病で亡くなって嫁ぎ先もなくなっていたからこそ側妃になった。

 父は側妃と過ごしている時は母とはできない話をたくさんしていたそうだ。母はそれも気に食わなかったのだろう。


 母を浅ましく思っても、側妃の死に関与している証拠なんてない。給仕とメイドが一人ずつ失踪していたが、それもただのトカゲの尻尾切りだ。


 マグノリアはうまくバカな王女の振りを続けて、影を薄くしてうまいこと母の目につかないように過ごしていた。


 ギデオンが何かしたところで母の逆鱗に触れることは分かり切っていたから、何もしなかった。手を差し伸べることも、いじめることも何も。ギデオンには母がどう出るか理解ができなかった。第一王子だとか、いずれ国王になるなんて言われていても所詮自分はこの体たらくなのだ。


「ギデオン。この子があなたの婚約者よ」


 十三の時、母からクリスティナを紹介された。

 ギデオンも婚約者候補たちとの茶会に出ていたが、相手を決めたのは母だった。マグノリアの婚約はまだ決まっていない。


「あなたが何をしても許してくれる女の子にしたの。リヴィングストン公爵家ならお金も権力もあるし、あなたのためになるわよ」


 母は裕福な伯爵家出身だったが、公爵家の一人娘をわざわざ選んだのは自分が苦労してきたからだろうか。

 その後間もなく、マグノリアの婚約が決まった。何やら父が手を回したらしく、母がその知らせを聞いて冷たい表情を浮かべていたのが気になった。


 もうこの頃になれば、父が母に対してすでに愛情を持っていないことくらい気づく。

 公の場では仲が良さそうにしているが、他ではもう会話もない。視線さえ合わない。


 クリスティナと交流していて、だんだんとおかしさに気づいた。

 ギデオンが何をしても何を言っても、クリスティナは肯定するのだ。

 母は「あの子はギデオンに一目ぼれしたのよ」なんて言っていたが、いくら恋は盲目でもおかしい。全部肯定されて気分がいいのは最初だけ。

 だんだん、クリスティナに会うことが苦痛になっていった。


 そうすると、影の薄かったマグノリアが突然アイザック・ウェルズとの婚約を解消した。


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