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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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イライザ6

いつもお読みいただきありがとうございます!

「イライザ様はルーフォス様のことを許したんですか?」

「いや、許してはいない」


 ロレッタがクライヴとともにそろそろ王都に戻るというので、イライザは彼女とお茶を飲んでいた。


「え、でも婚約は続行なんですよね? 許していないのに?」

「どうせこの先私は男を信用できない。それなら、ルーフォスがいいだろう。当事者なんだし」

「う、うーん……そんなものなんですか? あ、支配権はこっちのものって意味でしょうか?」


 イライザの性格を理解している風な言葉で、思わず口角を上げた。

 ルーフォスをこのまま婿入りさせれば生殺与奪の権はこちらのものだ。

 ただ、それはキャラハン伯爵家の面々が考えたことだろう。魅了の件を利用すれば、クライヴは一生ロレッタに頭が上がらないと。

 ロレッタの場合は嫁入りだから、キャラハン伯爵家の面々は可愛い娘の立場が婚家で少しでも有利になるように、今回の件を利用しようとかなり考えたはず。


 イライザはルーフォスを支配したいわけではないし、簡単に支配できる男なんてつまらない。


「私はロレッタ嬢のように素直で可愛くないからな」

「私は素直で可愛いわけではなく、一人では自分の意見も言えなくて諦めて文句は言ってウジウジしていただけです」

「言うようになったじゃないか。魅了の件のおかげか? こうやってウェリントン領までやって来たしな」

「それはまぁ……きっかけではありました。それまでは愚かなことをずっと考えていたんですけど……結局、私って、究極を目の前にきちんと突きつけられないと自分の気持ちが分からなかったんです。それがクライヴが死んじゃったかもしれないということでした」


 目の前で小動物のような動きで焼き菓子を頬張るロレッタをじっと眺める。

 彼女の指にはまだ青い魔石の指輪は嵌まっていない。あれは加工に時間がかかるのだ。


 王都では女が剣を持つことはほとんどないのだという。

 ウェリントン領では女性騎士もいるにはいるが、全体の割合で見ればまだまだ少ない。

 ロレッタみたいな令嬢の生き方ができた方が楽なのかとイライザも悩んだことはあるが、可愛くて素直な令嬢には死んでもなりたくない。


 ただ、イライザにとってルーフォスは素直で可愛い生き物だった。

 自分の好みはああいう男だったのだ。

 魅了の魔物が幻覚で見せていたルーフォスさえイライザは切れなかった。

 他の誰かを殺すことができても、イライザはルーフォスだけは殺せないとあの時初めて悟ったのだ。

 それまでは簡単に剣を振り下ろせると思ったのに。頬を張ったり、胸倉を掴んだりするのと切るのとはわけが違う。


 普段頭の中で考えていることと、その局面になって出る行動や感情は全く違うものだった。つまり、普段考えていたことなんてその程度のことだ。エゴで、自分の本当の感情じゃない。


 だから、まだ頭で許していなくても婚約は続行している。

 魅了にかかっても、側にいてほしいのは結局ルーフォスだったからだ。

 まぁ、そんな本音は目の前の令嬢には言わないが。


「クリスティナ様のところはどうなるんでしょうね……」


 ロレッタはあのバカ王太子の婚約者の名前を出してきた。

 イライザは盲目的な愛を王太子に捧げるあの令嬢のことも嫌いだ。


「どうせ、あそこは何をしようとしまいと婚約続行だろう」


 リヴィングストン公爵家だって王妃を出したいのだろうし、娘の希望なら叶えるだろう。


「王都の家族に手紙で聞いたんですが、王太子殿下はこの懺悔期間に何もしておられないそうです。何にもですよ。定期交流のお茶会も全部すっぽかしてクリスティナ様には一度も会っていないと。さすがにそれでは……」

「あの王太子でも恥を感じて出て行けないのではないか」

「クライヴが言ってたんですけど、最初にルーフォス様やクライヴが魅了にかかって、王太子殿下は止めようとなさっていたということです」

「でも、引っかかったと」


 最初はいまいち分からないが、最後にはあの王太子が一番あの令嬢にのめり込んでいなかっただろうか。


「あの、魅了にかかりにくい人っているんでしょうか?」

「多少の差はあるだろうな。あぁ、もしかしてウェルズ公爵令息のことか? 彼は全くかかっていなかったな。そういえば、先日あの魔物に遭遇した際に甘い香りがした。魅了の発動は側であの香りを嗅ぐことなのかもしれないな。ウェルズ公爵令息は王太子と距離が物理的にも精神的にも少しあるようだったからかからなかったんじゃないか。人間の魅了持ちの細かいところは魔物とは違うかもしれないが」


 ロレッタは少し目を伏せてから、何かを決意したようにイライザに目を合わせてきた。


「あの……クライヴから聞いてしまったんですが……」

「……あなたたちは、実はとても仲がいいんだろう」


 クライヴが、クライヴがと何度も何度も。一瞬イライザは呆れた。

 なんだその仲の良さは。お互い知らないことはないとでも言いたいのか。ケツに生えている毛の数でも?


 あぁ、でもルーフォスが自分の名前を何度も呼んでくれるのは少し気分がいい。クライヴの奴もこういう気持ちなのか。あいつと一緒にされるのは何だか腹立たしいな。


「王家の血筋には全く魅了が効かないと。マグノリア王女殿下が教えてくださったようです」


 またマグノリアか。クライヴの方が操りやすいから何か吹き込んだのか? そもそもそれって事実なのか? 王家の血筋をどれだけ特殊にしたいんだ。


「じゃあ、どうして王太子はあの令嬢の側にいたんだろうな」

「……王太子殿下が国王のお子様ではないってことですかね……」


 そう言うロレッタの顔色は悪い。とても素直で可愛い令嬢だ。

 もちろん、その可能性もある。王太子は国王とあまり似ていないというだけだが。


「あるいは、王太子が魅了にかかった振りをしていたか。もしくは、王家の血筋に魅了が全く効かないというのが真っ赤な嘘か」


 なぁ、マグノリア。一体何が目的なんだ。

 王太子を追い落としたいなら全力で協力できるから早く言ってくれ。


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