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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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ルーフォス2

いつもお読みいただきありがとうございます!

 半年間の懺悔を提案されて、ルーフォスは真っ先にウェリントン領に行くことを思いついた。

 イライザの生まれ育った場所で騎士団に入って訓練すれば、少しはカッコいいイライザに近づけて、彼女のことを理解できるかもしれないから。


 でも、ウェリントン領の騎士団の訓練は凄かった。


「おい、こんなガリガリ君が訓練したら死ぬぞ」

「死ぬ方に酒一杯」

「アホか、賭けにもならない。絶対に死ぬ。何日もつかで賭けた方がいい」

「ボク、悪いことは言わない。ほら、お菓子をあげるからお家に帰れ」


 ランニングにさえついていくのに精一杯で最初の頃はへばって倒れ、目を覚ましたら医務室なんてことも多々あった。


「君には絶対に無理だ。死なれても困るから別メニューを用意する。まずはそっちをこなせ」


 イライザの兄であるリカルドは、ルーフォスの兄とは全く違った。兄という属性でもこんなに違うのか。


 差別的で傲慢な兄と父がいる王都から抜け出したくて、ウェリントン領に来たというのもある。彼らは「あんな男みたいに可愛げのない女なら浮気されて当然」だの「魅了なんだからさっさと許せばいいのに」だの平気で言っているのだ。あんな二人と一緒にいたらおかしくなってしまいそうだ。


 リカルドに散々手間をかけさせ、なんとか倒れない程度になってきた。

 体力はついたが、剣を持つなんてまだまだだ。


 イライザはこんなキツイ訓練を飄々とこなしている。なんなら、自分の隊の男性の尻を蹴っ飛ばしているところも見た。


「あれを見たら幻滅しないか? 平気で尻を蹴飛ばすんだぞ」


 リカルドにそう聞かれたが静かに首を振る。

 だって、ルーフォスはカッコいいイライザを好きになったのであって、令嬢らしいイライザは最初から求めていないのだ。


「君はその、あんな風に蹴られたいタイプだったのか」

「そういう意味じゃないですけど……イライザはいつでもカッコいいですし、それに……私をバカにしたことは一度もないです」


 あぁ、バカだ。

 どうして気づかなかったんだろう。

 イライザは一度もルーフォスのことをバカにしていないではないか。

 引ったくりを捕まえられなくても、ごろつきに恐怖して身をすくませていても。彼女は兄のように嫌味なんて言っていない。子分のように扱ったこともない。


 イライザはそのままを見てくれていたのに、ルーフォスは向き合えずに逃げてしまったのだ。魅了にかかったことは問題じゃない。

 イライザから逃げたことが問題だったんだ。


 ウェリントン領に来てから、イライザには完璧に無視されている。

 覚悟はしていたものの、結構堪える。胸の奥がじくじくと痛い。

 挨拶はしているようでこちらを見ておらず他人を見ているから、徹底的にルーフォスを無視するとあのカッコいいイライザは決めたようだ。

 彼女がこうと決めたら覆すのは難しい。


 でも、ルーフォスはこんな思いを半年間イライザにさせてしまったのだ。

 それは胸倉を掴んで叱責したくもなるだろう。


 イライザには無視されているが、騎士たちはなぜかルーフォスに同情的だった。

 兄ほど凝り固まった考えの人はいないが、魅了の魔物が出るせいでルーフォスが魅了にかかったという事実に皆が寛容なのだ。


 これではイライザは余計に意固地になるだろう。

 彼女に無視されながら訓練を積んで、なんとなく騎士たちと仲良くなって。


 婿入りにあたって兵法書は読んでいたので、リカルドや辺境伯に作戦会議に無理矢理同席させられたこともある。いろいろ聞かれたことに答えたが、そこまでルーフォスは的外れなことは言っていなかったようで、なぜか続けて作戦会議には呼ばれていた。

 

 王都や学園よりもルーフォスは充実した時間を過ごしていた。

 イライザに無視されること以外は。

 学園では仕方なく制服のスカートだったが、ここでは常に彼女は騎士服だ。

 水色の髪は辺境伯一家しかいないので、とても目立つ。

 イライザはいつも颯爽と肩で風を切って歩いていた。


「イライザ様の隊が魅了の魔物に遭遇したらしい! しかも倒して帰って来たぞ!」


 その知らせがもたらされた時、ルーフォスはちょうど木剣稽古の後片付けをしていたところだった。


 あぁ、やっぱり。イライザは第一印象そのままにカッコいい女の子だ。

 そしてルーフォスが簡単に引っかかってしまう魅了に対抗できる人なのだ。

 イライザから逃げている。

 でも、イライザはルーフォスとは全く違う方向に全力で走って行ってしまう。

 

 やっぱり、イライザに釣り合っていない。彼女の隣に自分なんて要らないのだ。

 ちょっと難しい本が読めるからってどうしたんだ。

 宰相の息子だから知っていて読めて当然という反応を見てきたから、イライザの「凄いじゃないか! 私なんて本を開いたら二秒で寝るのに、ルーフォスはたくさんのことを知っているんだな」という賞賛が嬉しかった。


 クライヴのところは仲直りできたみたいで羨ましい。

 ルーフォスも毎日手紙を書かないといけなかっただろうか。でも、イライザなら読まずに捨てそうだ。イライザも筆まめではないし。


 王太子のところは……ギデオンは懺悔といっても何もしていないらしいが、婚約者が許すだろうから結局大丈夫なんだろう。


 そういえば、アイザックはどうしているだろうか。

 彼だけが魅了にかからなかったと聞いている。

 アイザックは家の関係なのか、側近としているもののギデオンやルーフォスたちとは一線を引いていた。ギデオンもそれほどアイザックに構わなかった。

 でも、アイザックはルーフォスにも注意してくれていたのに──。懺悔が終わったら彼にも謝ろう。手紙を最初に送っておこうか。


「イライザ様が怪我をされているぞ!」


 そんな声が聞こえてきて、思わず持っていた木剣数本を取り落とした。

 足が自然と二歩ほど声の方向に踏み出しかけて、踏みとどまる。


 行ったところで何もできない。

 それでも、踏みとどまったはずの足はまた一歩進んだ。

 あの王女は、素直に自分の気持ちを言えと言ってくれた。


 素直ってどこから? 分からない。

 でも、イライザの怪我は気になる。

 だって、好きな人が怪我をしていたら自分がたとえ何もできなくても心配だから。

 

「ちょ、ちょっと行ってきます!」


 リカルドにそう叫ぶと、ルーフォスは駆け出した。


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