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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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イライザ3

いつもお読みいただきありがとうございます!

 ロレッタが来て数日が経った。すぐに帰る気はないらしい。

 こちらとしてもキャラハン伯爵家に恩が売れて結構なことだ。


 イライザが訓練を終えて演習場から要塞のごとき屋敷に戻る途中、ロレッタとクライヴが手をつないで歩いているところに遭遇した。

 あちらはまだイライザに気づかず、庭を散歩中だ。要塞のような城には、イライザの母が整えた花咲く庭がある。


 だんだん寒くなってきているからそれほど花は咲いていないはずだが、あのカップルにそんなことは関係ないようだ。それに、クライヴは毒による痺れももうないらしい。


「めでたしめでたし、というところか」


 お節介焼きの年寄りにでもなった気分になる。

 ロレッタくらい可愛くて素直になれれば、イライザも今頃あんな風に過ごしていただろうか。

 そんなことを考えてしまって、悪寒が走った。イライザは花なんて愛でない。

 あの二人がうまくいったのは、どうせマグノリアの入れ知恵のせいだ。


 ウェリントン領ではルーフォスに続いてクライヴも受け入れた。青い魔石をどうしても手に入れたいらしい。勝手にすればいいが死なれたら面倒だ。

 魔石を採りに来たはずのクライヴは、不思議なことに毎日うんうん唸りながらロレッタに宛てて手紙を書いていた。

 とうとう困り果てて、イライザにも手紙には何を書いたらいいと思うかと質問してきた。絶対にあの男は筆まめな性分ではない。


「お前、マグノリア王女に何か吹き込まれただろ。どう見てもお前は筆まめな男じゃないし、毎回手紙を書くのに苦労している」


 ルーフォスのことはずっと無視している中で、クライヴを捕まえて聞いてみた。


「いや、毎日手紙を書くことは俺が言い出したことなんだ。王都とここでは離れているし、ロレッタに忘れられたら困るから」


 ふぅん。懺悔だから、さすがにそこまではマグノリアも口を出さなかったのか。

 どう考えてもマグノリアは半年後に何か企んでいる。今となってはもう二カ月後か。


 イライザも首を縦に振るように誘導された。

 ルーフォスなんて婿として必要ないのに、イライザは彼女から話を聞きたいがために頷いたのだ。だから面倒なのでルーフォスのことは無視している。やられたことはやり返すのが性分だ。


 無視してあの女に侍っておいて、今更懺悔などと虫唾が走る。


「でも、何か吹き込まれただろ」

「いや、何も」

「青い魔石がどんな魔物から出やすいか教えてやろうか。そこらへんの騎士に聞いても分からんぞ。なにせ解体するまで分からないからな」

「解体するまで分からないなら、どんな魔物から出やすいか分からないんじゃないか?」

「私は解体にも立ち会って傾向は掴んでいる。王女からは口止めもされてないんだろう?」


 クライヴは騎士らしく王女から言われたことを漏らすわけにはとしばらく迷っていたが、やがて口を開いた。


「王女殿下は……毎日手紙を書くのはいいけれど、ある日突然手紙を送るのをやめろと」

「はぁ? なぜだ?」

「俺もよく分からないし、不誠実で嫌われると思うんだが……王女殿下はそうしろと。毎日毎日届いていた手紙がある日突然途絶えたら女性は気にすると。押してダメなら引けと」

「おい、まさかそれを本気でやるつもりか」

「いや、それは……うーん……でも、やれと言われたし……でも……それでロレッタの気を引くのもちょっと……」


 大の男がモジモジソワソワしている様は非常に気持ちが悪い。

 散々渋っていたクライヴだったが、奇しくも毒を浴びたことで手紙が書けなくなった。

 三日間ほど寝込んでいて全く書けず、真っ青になって慌てて手紙を書こうとして痺れで書けず、医務官のアデルに代筆を頼んでいたのだ。


 アデルという名前は王都では女性の名前であるのが一般的だが、国境付近では男性の名前であることが多い。

 そのあたりをクライヴは失念していたようで、ロレッタはうまい具合にアデルを女性騎士だと思い込んで突如やって来た。


 マグノリアの作戦はこの一組に関してはうまくいっている。

 あのバカ王太子のところはどうせ、マグノリアが何か言おうと言わなかろうとあのままだ。あのバカ王太子が魅了されてあの女に侍っていた時も、クリスティナの態度は大して変わらなかった。クリスティナは文句も言わず、ずうっと婚約当初から盲目的にバカ王太子を愛している。

 バカ王太子が魅了されてさらにバカになってもその愛は変わらないらしい。嫌味だが、素晴らしいことだ。


 さて、マグノリアはルーフォスにも何か吹き込んでいるはずだ。

 内容は知らないが、そんなことでルーフォスのことを許すわけないのに。

 だから、イライザだけは決してマグノリアの思惑通りにはなってやらない。


「クライヴはうまくいったみたいだな」

「手紙でめっちゃ悩んでたしなぁ」

「じゃあ、もう手紙に何か書こうかで禿げそうになる必要はないわけだ」


 歩いていると、そんな声が耳に届いた。

 騎士たちがイライザから見えない生垣の向こうで喋っているようだ。


「イライザ様はどうかな」

「お前、どっちに賭けてるんだよ」

「んー、俺はルーフォスがうまくいくように。弟に似てんだよね」

「ってことは復縁ルートかよ。俺は違う方に賭けたな。イライザ様の態度を見る限り、こっちが優勢だ」

「でも、分かんねーじゃん。こっちの方が多数派だし」

「魅了だから許すってか? 俺は嫌だな。魅了でもやっぱり浮気はな~。ほら、どうやってもその光景思い出しちまうだろ。魔物相手なら魔物殺せばいいけどな。人間相手だときっついぞ」

「そんなもんかな?」

「これだから尻の青い若造は。お前、恋人なんていたことないだろ。本気で好きなら本気で許せねぇよ」

「でも、クライヴのところはうまくいったじゃないか」

「あのカップルはあれだっての」


 ルーフォスをウェリントン領で受け入れると決めた瞬間から、騎士たちの間で賭け事の娯楽になるだろうことはイライザにも分かっていた。

 ここは王都と違って娯楽が少ないから仕方がない。賭け事に目くじらを立てることでもないし、イライザも偽名で参加しているくらいだ。無論、復縁しない方に賭けている。


 兄にも「そろそろ許してやったらどうだ」と直接言われた。父は何も言わないが雰囲気で兄と同じことを醸し出してくる。

 そんな中で顔も見えない騎士に言われた言葉は、イライザの心中そのままだった。

 

 ルーフォスの顔を見るたびに、あの嫌な光景が頭にちらつく。

 ロレッタにも聞いたことだ。どうして、魅了とはいえ目の前で他の女といちゃついて自分を裏切った男をこの先信用しようと思えるのか。


 ウェリントン領では、仲間を信用して背中を預けるのだ。信用こそがすべてだ。

 最も大切なものをルーフォスは失っている。

 なぜそんな男を信じられる? いくら以前まで好きだったとはいえ、無理だ。


 あぁ、良かった。間違ったことはしていない。

 ウェリントン領にいたら、許さないイライザが悪いという空気をひしひし感じていたが、そんなことはない。

 残念だったな、マグノリア。空気には屈しないぞ。


 ふと視線を上げると、同じく別の隊で訓練を終えたルーフォスが何人かの騎士と一緒に歩いてくるところだった。


 へぇ、これはこれは仲良くなったものだ。

 自分のテリトリーをルーフォスに侵食されているようで不快になる。

 王女の口車に乗せられて懺悔の提案なんて受け入れるんじゃなかった。この湧き上がる不快感や縄張り意識のようなものを知らないで済んだのに。


 それでも、何もやましいことはないので進行方向を変えずにそちらに向かう。

 ルーフォスを含む騎士たちに挨拶され、挨拶は返したが、決してルーフォスに視線は向けなかった。


 ルーフォスの視線が体のあちこちに突き刺さるのを感じるが、決して振り返らない。

 鬱陶しい視線はイライザが屋敷の中に入るまで追ってきた。


 無力さを突きつけられるのは嫌いだ。

 稽古で兄や男性騎士に負けるのも大嫌いだった。最近はあまりないが、魔物に敵わず尻尾を巻いて逃げなければいけないのも嫌いだ。

 それに、守るべき王女に守られてしまったことも、信じていたルーフォスが別のか弱い女のところに行くのを止められなかったことも。


 全部嫌いだ。


 だから、ルーフォスも半年間思い知ればいい。

 イライザが感じ切った己の無力さというものを。


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