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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@6/19「さようなら、私の冷遇生活」アンソロジー配信


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イライザ2

いつもお読みいただきありがとうございます!

「久しぶりね、イライザ。元気にしていた?」


 五年ぶりに会ったはずの王女は、嫌味なほど涼し気な表情でそんな挨拶をしてきたのだ。学園の休暇で数カ月会わなかっただけでしょう、とでも言うように。


 カッと頭に血が上る。

 小柄で可愛い令嬢と一緒にいたルーフォスを見た時と同じくらい頭に血が上ったイライザは、思わず王女に紅茶のカップを投げつけた。

 絶対に王女に当たらない場所に投げはしたが、王女は避ける素振りさえ見せない。

 まるで、イライザが自分にカップは投げてもぶつけることなどあり得ないと言わんばかりの悠然たる態度に、さらに神経が逆なでされる。


 こちらがどんな思いで五年間過ごしたと思っているのか。

 何の説明もなく婚約解消して帝国に留学して、手紙も寄越さず、帰ってきたと思ったらあの王太子の尻拭い。

 なんなんだ、マグノリア。王位を奪うために帰って来たんじゃないのか。

 せめて、復讐くらいはするんだろう?


「カップを投げるだなんて、熱烈な歓迎ね」

「ふざけるなよ、マグノリア。勝手に留学しておいてよくまぁ平気で私の前に顔を出せたものだ。よほど命が惜しくないと見える」

「イライザに殺されるのなら、悪くないかもしれないわね」


 王女に対する言葉遣いではないが、王女は咎めないどころか微笑んでいる。


 幼い頃、イライザは茶会でマグノリアに出会っていた。そこからの縁だ。

 母を亡くしたばかりの小さなマグノリアは、王妃によって見世物のように無理やり茶会に出席させられていたのだ。


「お母さまが亡くなって寂しいでしょうから呼んだのよ。ほら、ご挨拶なさい」


 なんて王妃は気取っていたが、周囲は引いていた。

 小さな、しかも母親を亡くしたばかりの子供にそんな嫌がらせをする王妃の人格をイライザは本気で疑い、怒ったものだ。

 その茶会で声をかけ二人で抜け出して遊んでから、イライザにとってマグノリアは守るべき対象で友人だった。


 今でも脳筋気味だと言われるイライザだが、小さい頃は正義感に溢れたかなりの脳筋ぶりを発揮していた。だからこそ、今にも倒れそうな顔色の王女と仲良くすることはイライザの正義感に従った結果であった。


 あの頃のイライザは今よりももっと何も考えていなかった。王妃に目をつけられている王女とイライザが仲良くしたことで、父と兄たちがどれほど胃を痛めたなんて気にもしなかった。

 父と兄たちがうまく立ち回ってくれてこっそりとしか交流はできなかったものの、王女に笑顔が増えていき、とうとうアイザック・ウェルズとの婚約が決まったと聞いて、さながら姉か親のように安心したのだ。


 ウェルズ公爵といえば、王妃派でも反王妃派でもない貴族で、特筆すべき点はない。野心もなく権力闘争から距離を取っている穏健派といったところか。そういう家だからこそ、王妃の目がある中でもマグノリアの婚約者に選ばれたのだろう。他国か王妃の派閥の家に嫁がせるのかと思ったら、王妃はマグノリアを手駒として扱う様だった。


 それなのに、この王女はいきなり婚約解消して留学だ。

 しかも理由はふざけたものだった。イライザはそんなことで誤魔化されない。

 マグノリアは明らかに勉強でも手を抜いていたし、「分からない」「そうだったの?」が口癖のバカな振りもしていたし、酷い噂を流されても放置していたが「もっといい令息と結婚したい」なんて言い出す正真正銘のバカな女ではない。


「どうして、私に何も言わずに留学したんだ。どうして……何も言ってくれなかったんだ」


 王女は駄々をこねる子供を見る様な視線をイライザに向けてくる。


「あら、今日はそれよりもイライザとルーフォス・レンフィールドの婚約をどうするかという件について話をしたいのだけれども」

「裏切る奴はウェリントンに必要ない」

「それが魅了によるものでも?」

「あぁ、魅了でも」

「やられたことはやり返した方がいいんじゃない? あなたの性分なら」

「じゃあ、あなたにもやり返さないといけないな。私に何も言わず留学した友人には」


 敢えて笑いながらそう言ったのに、マグノリアも微笑んだままで何の動揺も見せない。

 マグノリアにとっては友人ではなかったと言いたいのか。すべてはイライザの勘違いだったと。


「はっ、私には事情を話す価値もないということか」


 分かっている。

 十三歳のあの日、何かがあった。

 多分、王妃がマグノリアに襲撃者でも送ったか何かしたんだろう。それで彼女は婚約を解消したに違いない。

 でも、一言何かあるのとないのとでは雲泥の差だ。

 なんで、私に助けてくれと一言でも言わなかったんだ。

 兄や父には反対されるだろうけれども、イライザだったらマグノリアの絶対の味方だったのに。バカみたいな提案だが、一緒に逃げたのに。

 十三歳だった無力なイライザが何をどこまでできたかは怪しいけれども。


 それでも、せめて言ってほしかった。何か力になれたかもしれなかったのに。

 絶対に裏切らないのに。どうして何もさせてくれない。無力を突きつけられるのは嫌いだ。

 だってきっと、マグノリアは何も言わないことでイライザを守ったのだ。あのアイザック・ウェルズのことも。

 どうして側妃から生まれた王女であるというだけで、マグノリアがそんな思いをしなければいけないのか。イライザは守る側の人間でなければいけなかったのに。


「全部終わったら真っ先に教えてあげるわ。今は言えないの」

「それは……アイザック・ウェルズがあなたのことを覚えていなかったことにつながるのか?」

「ふふ。えぇ、そうよ」


 イライザはマグノリアが留学したと知って、何もしなかったわけではない。

 当時は王都におらずウェリントン領で情報収集しかできなかったが、学園に入学してからアイザック・ウェルズに会いに行ったのだ。

 婚約解消について、並みの令息なら震え上がるほど問い詰めても「王女殿下の意向で婚約解消になった」としか答えない。

 詳しく問い詰めても、定型文のような答えばかり返ってくる。イライザの目から見ても、二人はとても仲が良かったはずなのに。

 マグノリアについても詳しく問い詰めると、どうにも答えの感触がおかしかった。

 まさか襲撃でもされて記憶が曖昧なのか。


 イライザが詰め寄れたのはそこまでだったが、やがてアイザック・ウェルズは学園であのバカ王太子の側にいるようになった。

 バカ王太子とは勝手に呼んでいるだけで、成績はイライザよりいい。ただ、剣の腕はイライザよりも下である。

 ルーフォスのように王太子とべったり一緒なわけではないが、よく行動はともにしていた。

 周囲は「マグノリア王女が我儘だったから嫌気がさし、ウェルズ公爵家も王妃派及び第一王子派に鞍替えするのだろう」なんて言っていたが、あり得ない。


 マグノリアは喋らないと決めたことは絶対に喋らない。

 イライザは諦めて、半年間の懺悔の提案を受け入れたのだ。どうせルーフォスは適当に済ますだろうと思っていたが、なんとウェリントン領で騎士と一緒に訓練すると言い出した。


「あなたと同じことをせめてやらないと、私はあなたと同じところには立てないから」


 なんて謝罪の後に言っていた。

 イライザは魔物討伐のために森に入ることもあるが、これまで大して訓練をしてこなかったルーフォスにそんなことは求められない。婿入りするルーフォスに求められていたのは書類仕事なのだ。


 ただ、けじめという意味ではルーフォスの懺悔内容はウェリントンの騎士たちには受けが良かった。

 どうせすぐに厳しい訓練に音を上げて王都に尻尾を巻いて帰るだろうと受け入れたが、なかなかルーフォスは帰らない。


 騎士団長の子息であるクライヴ・ベリエに関してはイライザは何も心配していなかった。魔石を採りに来たようで邪魔くさいが、ルーフォスほどではない。訓練は積んでいるし、初日からでもついていけているし、イライザの指揮する隊とは別行動だったのだ。


 ド素人のルーフォスのことは兄が見ていたが、兄は「頑張っているし、そろそろ許してやったらどうだ」なんて言ってくる始末。


 なんで部外者が「そろそろ許せ」なんて言えるのか。

 兄も魅了で浮気をされてみろ。魔物とは嫌悪感が全然違う。


 そんな風にルーフォスと家族とマグノリアにイライラして四カ月過ごした頃に、ロレッタがやって来たのだ。


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