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元サヤは懺悔のあとで  作者: 頼爾@9/3「冷徹ドS侯爵のスパルタ淑女教育」配信


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イライザ1

いつもお読みいただきありがとうございます!

 イライザの目の前では、一組のカップルがいちゃついている。

 大人しい令嬢だと思っていたロレッタが、ベッドの上でクライヴを襲っていると言った方が正しいだろうか。まぁ、抱き着いているだけなのだが、体勢が悪いので襲っているようにも見える。


「クライヴ様、ごめんなさい……」


 イライザと違い小柄で可愛いロレッタの頭を、クライヴが恐る恐る痺れが残る手で撫でている。


 見なくてもいいはずなのだが、イライザがここを去るなら医務官アデルも一緒にだ。先ほどの発言を聞かなかったことにはしない。だが、まだ出て行く気分にはなれなかった。イライザも興味があるのだ、魅了で壊されかけた二人の行く末に。


 しかしこれではあの王女と同じではないか。それは腹立たしい。

 でも、クライヴを受け入れて世話はしてやったんだし、ロレッタの実家のキャラハン伯爵家に恩を売っておくのは悪くない。


「手紙が届かなくなって心配したの……最初は私に愛想を尽かしたんだろうとか、浮気したんだろうって思ってしまって……しかも、アデルさんっていう人が代筆までしていて……あぁ、アデルさんと浮気したのかなって」

「あ、いや、アデルは男でこいつで……」


 そう、医務官アデルは線は細いがれっきとした男である。

 ウェリントン領は地域柄どうしても屈強な男性が多いので、紛れていると女性のように見えるのだが。それなら婚約者のルーフォスも同じだ。


「うん……でもね、いいの。クライヴ様が生きていてくれたらいいって思ったの。魔物に襲われて死んじゃったらどうしようって、ずっと不安だった。クライヴ様が死んじゃったらって思ったらすごく怖くて。もうこうやって抱き着けないんだとか、笑顔を見ることも、声を聞くこともできないかもしれないって思ったら……クライヴ様に無視されてても生きていてほしかったの……」


 イライザでも思った。今のロレッタは可愛いと。

 婚約者で、魔石を採って帰ろうとしていたクライヴ・ベリエの目にも相当可愛く映っているはずだ。

 その証拠に、クライヴの顔は真っ赤で「いや、ロレッタはこれまで抱き着いてきたりとかはしてないよな……」なんてしどろもどろである。


「私、クライヴ様に無視されてショックだったけど、別に婚約は解消しようと思ってなくて……クライヴ様が自殺未遂までしたのは私に申し訳なく思ってくれたからだって嬉しく思ってたほど浅ましいのに……でも、今回分かったの。クライヴ様とこれからも一緒にいたい、です。お願いだから死なないで……青い魔石もなくていいから」


 これぞ、若い恋である。青春である。

 あと、青い魔石はしっかりテーブルの上にある。小さいが、傷はついていない。


 しかし、癪だ。これはおそらくあのマグノリアの入れ知恵によるものだ。

 こういうことに頭が回るから、ルーフォスにも何を吹き込んでいるのか分からない。

 だからこそ、イライザはロレッタのように素直になれないでいた。どうせ、可愛げなんて母親の腹の中に置いてきたのだ。

 

「ロレッタ、こんな魅了にかかった情けない俺を許してくれるのか……?」

「クライヴ様じゃなきゃ、私は嫌です……」

「ずっと無視してて、ごめんな……青い魔石、手に入れたんだ。これを指輪にしないか?」

 

 外国語の成績は良く、大きな商会を営むキャラハン伯爵家の娘であるロレッタは、イライザに言わせれば大人しい自己主張しない令嬢だった。

 クライヴが魅了にかかっていたとはいえ、びくびくして物陰からうるんだ目で眺めるだけで何もしない弱気な令嬢。

 何度彼女に「お前の男があのくだらんバカな女に奪われているんだぞ、戦え!」と言いたくなるのを我慢したことか。


 甘酸っぱい空気が漂い始めたので、医務官アデルに表へ出ろと顎をしゃくって合図し、カーテンを閉めてから医務室から出た。


「イライザ様」

「なんだ」

「先ほどは生意気なことを申し上げてしまい、大変申し訳ございませんでした」

「おや、不思議だな。多数派の意見なんだろう。お前が謝ることなのか」

「それは……」


 イライザは大きなため息を吐きそうになる。

 ウェリントン辺境伯領では、数は多くないが魅了の力を持つ魔物が出る。遭遇してしまったほとんどの騎士が魅了に抗えないため、アデルのような意見が多いのは事実だ。

 それがイライザを苦しめていた。


「まぁ、お前の言いたいことはよく分かった。お前たち多数派は、恋人や妻が魅了にかかって浮気してもすぐに許せる素晴らしい心を持った男たちということだな」

「あ、あの……」

「相手が魔物でなく、人間であってもそうだというわけだ。いやぁ、知らなかったな。騎士たちや医務官たちの多くが私より心の広い人間ばかりだとは。これはウェリントン領は安泰だ」


 相手が魔物ならばイライザも許した。

 でも、王都の学園にいたのは魅了持ちの生身の人間だった。

 しかも、イライザよりも愛嬌があって可愛い。


 ルーフォスとは仲は悪くないつもりだったが、学園に通い始めてからぎくしゃくはしていた。それでルーフォスがあの魅了持ちの令嬢に浮気したのだと思ったのだ。イライザと違って小さくて可愛くて守ってあげたくなるタイプだから。


 人間の魅了持ちがいるなんて聞いたこともなかったので、イライザは父に浮気だと報告はしていたものの、あれが魅了だなんて最初は気づきもしなかったのだ。

 

 医務官アデルの腹に拳を叩き込むことも考えたが、それなら他の多数派の面々にも叩き込まねばならない。たまたまイライザが聞いただけであって、陰で相当コソコソ言われているのは分かっているから、アデルにだけギャアギャア言うのはフェアではない。


 アデルを追い払い、医務室の前の廊下から外をぼんやり眺める。

 あの魅了の件が発覚して、懺悔の提案を受けてからすぐにウェリントン領に戻ってきた。学園には通っていない。ロレッタもクリスティナもそうだった。

 学園では人脈作りがメインだったので、あの事件以降行かなくても何の問題はない。どうせ他家の人間たちに面白がられるだけである。


 でも、実家に戻ってこうも同情されないものだとは思わなかった。

 別に同情されたかったわけじゃない。可哀想だと言われるのは癪だ。でも、魅了なんだからさっさと許せばいい・心が狭いと言われるのは心外だ。


 ルーフォスは、令嬢らしくないイライザのことが好きだとそれまで言ってくれていたのに。結局はあの可愛らしい令嬢のところに行った。

 ルーフォスのことだけは政略で結ばれた婚約でも信じていたのに。


 訓練で走り終えたルーフォスが、他の騎士たちと談笑している姿が見えた。最初の頃は訓練についていけずフラフラしてすぐ医務室送りになっていたのに、数カ月もすれば成長はするものだ。


「どうせ、マグノリアに吹き込まれたからここに来たくせに。お前の意思じゃないんだろ、ルーフォス」


 でも、イライザは信じられない。


 魅了が発覚し調査が進む中、王都のタウンハウスに王女が訪ねてきたことを思い出した。


 あの王女はいつもそうだ。

 急にどこかへ行って、急に帰ってくる。

 いつもイライザに大切なことは何も言わず、突然行動する。

 イライザは彼女のことを大事な友人だと思っていたのに。


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