第2章 ガルス辺境伯家の人々 (3)
久しぶりに外出したカイトは、心地良い疲れからその晩は早々と寝床に就き、爆睡したのだった。
風に当たっただけで熱が上がっていた王宮の頃に比べたら、ガルス辺境伯領に来てから大分体調が良いようであった。
(陰険な王宮の人々がいないだけでストレスが軽減されているのだろうか……)
などと考えながら、カイトの意識は眠りで遠のいていった。
ガルス辺境伯家に来た初日にうたた寝で見た夢が現れた。
夢で自分は見知らぬ紺色の異国風の上下セパレーツになっている服を着ていた。
唐突に猫が飛び出してきた。三毛猫だった。
三毛猫はこちらをじっと見ていた。三毛猫はニャオンと鳴いた。
夢の中、今夜は三毛猫がすっと立ち上がった。
「あの時助けていただいた猫ですが。我が名はキャルと言います」
三毛猫は夢の中で人間の言葉を喋った。
「あの時?」
カイトはポカンとした表情で聞き返したところで目が覚めてしまった。
* * *
不思議な夢を見たことは朝起きた時に忘却してしまい、カイトは昨日購入した本をワクワク感と共に軽くパラパラとページをめくってみた。
書いてある文字はなんとなく分かるのだが、ドラゴンをはじめ、人によっては神と崇めるような高位のモンスター等のイラストが載っていた。
「遥か昔にいたサマナーという異能使いが使っていた書物で、異世界から召喚された遺物かあ」
カイトは昨日の店主の説明を復唱した。
『その本が読めれば使いこなせるらしいわよ。サマナーは召喚術ね』
店主の説明を思い出し、本の変わった文字が読める? らしいので、使いこなせると思うのだが、
(どうやって使うんだろ?)
本を細かく見ていけば使用法の説明も載っているのかもしれないが、面倒くさがりなカイトはガルス家の屋敷の図書室に召喚術の本がないか探してみることにした。見当たらなければ、マーケットの古書店の主人に聞いてみようかと思った。お菓子の買い食いもしてみたいし。
図書室は屋敷の奥にあり、出入りは自由だが夜間は鍵がかけられていた。時々息抜きを兼ねた昼寝に使用していたが、今回は真面目な用途で訪れることにした。
図書室は購入した順で棚分けしているらしく、探すのが難しかった。奥へ行くほど年代物の希書ということになるらしいが、やや不便さを感じてしまう。
遥か昔にいたサマナーという異能使いが使っていた書物という事だから、奥から探してみた方がいいのだろうか。
何冊か手に取ってみたが、単なる歴史本だったりして、途方に暮れ、カイトは探すのをあきらめたのだった。
* * *
カイトは何度か図書室で召喚術の本を探すのを頑張ってみたのだが見当たらないし、少し退屈もしていたので次のマーケットが開かれる日に再び外出し、古書店を訪れることにした。今回もメイドのアンナと護衛のマグネルが付いてきた。
前回と同じマーケットの裏路地に古書店があり、フードを被った店主がいた。店の脇に三毛猫が丸くなっていた。頭を撫でてみたが、逃げずに気持ち良さげに喉をゴロゴロ鳴らしていた。
「こんにちは。召喚術の説明がされた本はないですか?サマナーの遺物本を買っで興味が出まして」
カイトは店主にそう尋ねた。遺物本が読めるというのはガルス家の人々にも何となく言えずにいた。
「無能者の上に嘘つきかよ」
と言われそうな不安があったからだ。
サマナーは異能で滅多に現れないと言うし。
店主は無言で一冊の本を差し出した。
〈召喚術入門〉というタイトルの本で、魔塔が出版した物らしい。値段は銅貨2枚だった。お金を払い、カイトはそれを購入した。
主目的が済んだので、次はアンナお薦めの屋台でスイーツを食べて、鳥肉の串刺し焼きのような物を片手に街中をブラブラ散策して帰った。屋台の串刺しは少し生臭くあまり美味しくなかったが、庶民の食べ物はまぁこんな物なのかも。
肉の匂いにつられてたのか。帰り道、野犬が襲ってきた。
マグネルが庇った。カイトは咄嗟に後ろに下がり、段差があったので、体勢を崩し転んで頭を打った。
「カイト様!!」
メイドのアンナが慌てて心配そうに駆け寄った。
* * *
カイトは夢を見ていた。
夢というより前世の死に際の記憶が蘇っていた。
(オレはやっぱり死んだ……?)
猫を助けて死んだ山田海人の前に銀色の猫の女神が現れ、
「生き返らせるのは無理なので自分の管轄する世界に転生させてあげよう」
と言っていた。
「助けた猫が付いて行きたがるので一緒にと、猫族へのお礼に特典サービスを付けてあげた」
との事。
夢の中で三毛猫がすっと立ち上がり、
『あの時助けていただいた猫ですが。我が名はキャルと言います』
人間の言葉を喋った。
「あの時?」
カイトはポカンとした表情で聞き返したところで目が覚めてしまった。
のも思い出した。
あの時とは山田海人の前世の死の事だったのだろう……




