第5章 コボルト (1)
お互いに異世界転生者と知って以来、カイトとリリアナは親睦を深めていた。前世が腐女子のリリアナと漫画アニメ好きのカイトは波長が合うようで、いつの間にか調合の講義以外でも雑談をよくする仲になっていた。
自分がサマナーという異能持ちである事も最近打ち明けたばかりだ。嘘つきと思われないように、捕獲使役している薄グリーン色のスライム〈ジェルオ〉を召喚書から召喚してみせた。
モフモフ好きのカイトは、
「コボルトを捕獲して召喚書ブックに取り込み、使役というより愛でたい」
とリリアナに打ち明けていた。
「それは素晴らしい考えね! コボルト……犬人間でしょ。応援するわ」
「みんなにはまだ異能の事は話してないんだけど……」
「分かるわ。異能の事、話していいか迷うわよね。異端としてハブられそうだし。人間は些細な違いで平気で他人を仲間はずれにするからね。もしくはパラサイト依存され搾取される……私もあのクソエルフが異能の事を鑑定しなければ秘密にしておくつもりだったわよ」
前世腐女子で何かと迫害されていた記憶から、リリアナは大いに同意したのだった。
「コボルトを使役はさすがに異能の事を言った方がいいですかね……スライムと違い怪しまれそうで」
「うーん。私の調合薬の効果にしておく? 催眠暗示剤のようなものなら作れるし。魔物向けには作ったことなかったけど」
「僕の異能の事は折を見て義父上母上には話したいと思いますが……当面はリリアナ姉さんのおかげでお願いします」
カイトはしばらく考えて、そう答えた。
* * *
久しぶりに来た街外れの森は相変わらず鬱蒼としていて、魔物が出そうな雰囲気を漂わせていた。メイドのアンナと護衛のマグネルが同行した。
スライム死亡で出てくる魔石は小さい上に質が悪く、買取や売買対象であるが、安く買い叩かれる。駆け出しの冒険者がスライム魔石多量を持ち込み、雀の涙の小銭を得るもの。
と二人から聞いて以来、
カイトはスライム退治で質の悪い魔石をコツコツ得ては冒険者ギルドで換金し小銭を蓄財していた。前世ブラック企業社畜の哀しい習性である。
コボルトに遭遇して捕獲サーバント使役してみたいとカイトは思っていたが、幸か不幸かスライム以外にはまだ魔物に遭遇できていなかった。今日も草食のスライムにしか会っていない。
(コボルト……犬人間なら、干し肉とか肉の燻製の薫りに誘われて現れないかな。以前マーケットで犬に襲われたみたいに、今度焼き肉を持参してみようかな。焼き肉弁当なら俺でも作れないかな)
カイトはアイデアを思いついたのであった。
(それとも魔獣は血の匂いや臓腑によってくるとか……? レアステーキとか、モツ煮とか……モツ煮って鶏の内臓だっけ? ハツが心臓? 料理しないからよく分からん。
調理場から内臓や肉を生で持ち出したら変な人扱い確定かな。とりあえず焼き肉弁当とかで検討するか……)
スライムを退治して魔石を拾い上げながら、カイトはそう思った。
* * *
この世界でも肉は家畜か狩猟からが主だが、辺境のガルス伯領では、食料が足りずに、魔獣を血&毒抜き処理をした物を併用して食していた。鶏肉の代用がコカトリス、豚肉に当たる物がオークの肉らしい。
コカトリスの肉を塩で炒めた物と水にさらした玉ネギの細切りを固めのボソボソのパンに挟んだだけのサンドイッチもどきを弁当代わりに、カイトは街外れの森に向かうことにした。護衛のマグネル、メイドのアンナも一緒である。
(俺は料理ができないのでいきなり異世界転生して柔らかいパンは作れないんだよ……この世界のパンは固マズだけど。不器用ですけぇ)
内心そうボヤきながら。
肉炒めの匂いにつられてコボルトが出現しないかと待ちわびたが、そんなに甘くはなかった。スライム狩りと、義姉リリアナに教えてもらった高値買い取りしてもらえる薬草を摘んで、その日は何事もなく過ごした。
何もトラブルなく過ごせる事はいいことだが、それが何日も続いたのであった。




