ろく
「それで、運良く早期に前エクリプス伯爵に発見していただけましたから、今こうして生きていられるのですが、当時少々問題が起きていましてね……早期ではありましたが、乳飲み子が乳も貰えずにいましたので大分衰弱していたそうなんです。 それを何とかするためにエクリプス前伯爵は、応急処置として僕と契約してしまった水馬に弱っていた僕に魔力を分け与えるように促してくれていたそうなんです、水馬も最初は上手くコントロールできずにいたそうなんですがエクリプス前伯爵が、魔力を流す量を上手く誘導してくれたおかげで事無きを得たそうなんですよ!」
ニコニコと嬉しそうに当時の話をするウィリアム。
「それは大変な目に合われましたな……御無事で何よりです」
「すべてお父上であられる前伯爵のおかげです! そして、その後も定期的に僕と水馬の様子を見に来てくれていたんです……10年前のあの時も……」
ウィリアムはそう言いながら悲しげに俯く。
「10年前? ……あぁ父上が魔熱症を発症した時ですな……なるほど、この亜神の加護があるエクリプス領から出なければ馬に害を及ぼすような病などに感染するはずがないのでおかしいと思っておりましたが、父はウィリアム殿の様子を見に行っておったのですか!」
得心がいったという顔でウィリアムを見る女伯、その顔を見ながら申し訳なさそうにウィリアムは言う。
「本当にお父君であるエクリプス前伯爵には申し訳ない事をしました……ここに来る前にご挨拶に伺わせていただいたのですが、謝る事しかできない僕に『気にするな』と豪快に笑ってくださいました……本当にお優しい方です」
その言葉に
「ははは、実に父らしい答えだ! まさにその通りですぞウィリアム殿、父が病にかかったことはウィリアム殿のせいではないし後遺症のことなど誰にも知りようがなかった。 そして現在父は娘に後を任せ悠々自適にノンビリ暮らしを楽しんでいる! なにも問題はありませんな」
そう言って女伯は笑った。
「エクリプス女伯……ありがとうございます。 エクリプス家の方にはお世話になりっぱなしで……ですが、僕にできることならなんでもしますから、ぜひなんなりと申し付けてください!」
その言葉に少々呆れがちに女伯は
「ウィリアム殿……気持ちはありがたく思いますが、『なんでも』などと軽々しく申してはなりませんぞ……悪い人間に付け込まれることだってあるのですからな!」
と言うと
「ふふふ……僕も伊達に公爵家で育っておりませんからその辺は相手をちゃんと見て言っておりますよ?」
女伯のちょっとお姉さんぶった忠告に可笑しそうに答えるウィリアムであった。
「あぁ、話は変わるのですが、水馬の住む場所まで少しだけ離れていましてな。 本日は着いたばかりですしゆっくりしていただいて、明日にでも現地へご案内いたそうと思っておりまするがいかがで?」
女伯はウィリアムに尋ねると
「お気遣いありがとうございます。 女伯や領地の方々の都合もあるでしょうし、そちらに合わせてで構いません」
「では、明日ご案内させていただこう。 ではお部屋の用意も出来ておりますのでごゆっくりお過ごしくだされ、なにかご不便などありましたら使用人に申し付けてくださればわたくしの方へも伝わります」
「女伯のご配慮感謝します。 ではまた」
にこやかにそう言ってウィリアムは部屋から退出して行く。
その後すぐ女伯も執務室へと戻りデスクへ向かい椅子へ腰かけたが
「はー緊張したー」
とつい気が抜けて独り言を言ってしまう、その直後トントンと扉を叩き家宰がスルリと入室してくる。
「お嬢様、お疲れ様でございました。 さぞや緊張でお疲れになったでしょうからこのじい特製のホットミルクをお持ちいたしましたぞ」
そう言いながら女伯の前にカップを置く。
「また子ども扱いして……」
「おや? 要りませんか?」
「……飲む……」
「ちなみにお嬢様の、その日の体調を考慮した特製ブレンドでございますから、別に子ども扱いではありませんぞ」
その言葉に女伯は首を傾げる。
「ホットミルクのブレンドってなに?」
「本日は、牛4馬1ヤギ1その他でお作りいたしました」
「……確かにブレンドだわね……その他がすごく気になるけど……」
「そこは、じいの秘密でございます」
そう言いながら家宰はウインクする。
「まぁ……おいしいからいいわ……」
そう言いながら女伯はふうふうと息を吹きかけつつホットミルクを堪能する。
「ところでお嬢様、カンバーランド公爵子息との面会はいかがでしたか? 使用人からはとても気さくで好印象だと報告がございましたが」
「そうねぇ、悪い方ではなかったわよ? ただ、お父様の件で負い目を感じているみたいだったけど、じいはお父様がカンバーランド領へ定期的に訪問していた件を知ってたのよね?」
「はい、水馬と契約した少年へ力の使い方を伝授するために何度か訪問されておりました」
「そう……でも、お父様の本当の目的って絶対愛馬と遠乗りしたかっただけよね……? 少年を助けたい気持ちがなかったわけじゃないのは分かってるけど、あのお父様の事だもの……絶対そっちが本命じゃなかったと思うのよ」
何とも言えない顔で家宰に問いかける女伯。
「……さすがお嬢様、じいもそう思っておりました……。 」
家宰も渋い顔で頷き同意する。
「だから、ウィリアム様が責任を感じて、すごく申し訳なさそうにされているのを見てていたたまれなくて……でも、本当の事なんて絶対言えないしすごく疲れちゃって……」
「お嬢様……本当にお疲れ様でございましたな…… 旦那様には、後でこのじいが殴……ゴホン、キチンと言って聞かせますのでお嬢様は本日はもうごゆっくりお休みください」
「でも、残りの仕事が……」
「なーに、腐っても元伯爵なんですから旦那様にご協力いただけばよろしいのです! そういうわけで、じいは旦那様の所へ書類を届けてまいりますぞ!」
そう言って家宰は書類をかっさらって部屋から出て行った。
「お父様……大丈夫かしら? まぁ、じいも手加減はするはずよね?」
ちょっと半信半疑ではあるが、そう自分を納得させる女伯なのであった。
ウィリアム君の年齢は女伯のちょっと下です。




