なな
慌ただしい出迎えの日から一夜明けて翌朝。
朝食も終わり、予定通りに水馬の生息地である湖へ向かうために女伯とウィリアムは移動のために乗る馬の許へ向かうと、何やら騒がしい。
「何か問題でも起きたのでしょうか?」
不思議そうに言うウィリアムに女伯は
「ふむ……確かに騒がしくはありますが大きな問題が起きているわけでもないような……ん?」
女伯は歩きながらも目を凝らして厩の方を眺め、愛馬となにやら睨みあっている白い馬体を見つけた。
「おや、あれはユニコーンか?」
「ユニコーンといえば昨日お話されていた?」
「恐らく……しかしあいつらは何をやっておるのだか……」
女伯は呆れたようにユニコーンと愛馬である漆黒の巨体を持つ馬を眺めた。
オロオロと二頭を眺めていた馬番が女伯を見つけ慌てて駆け寄ってくる。
「あっ! お嬢様! 申し訳ありません……突然この二頭が睨みあいを始めてしまって……止めようにもユニコーンはわしには触れませんし……お嬢様のお馬様は、うちのお頭かお嬢様の言う事しかききませんからどうしていいやら……」
馬番が途方に暮れたように女伯へ訴える。
その言葉に女伯は申し訳なさそうに
「あぁ……ユニコーンなぁ……それに、リクリスはわたくしか世話頭以外は側に寄せ付けないから……すまぬな」
「いえ、二頭がケガでもしたらと気が気じゃなかっただけでごぜえますから」
止めくれそうな女伯を見て安心してニッコリ笑う馬番に、さすが馬ファーストのエクリプス領民であるな、と女伯は内心嬉しく思いながら二頭を怒鳴りつけた。
「こらぁぁぁぁあ! お前らなにをしておるのだ!」
突然浴びせられた怒号に、睨みあっていた二頭はビクッとしながらも、女伯に気が付くと一番に駆けつけようと走ってきた。
『ブルルルッ』
『ブヒヒヒヒーン』
お互い牽制するように鳴き声を上げつつなにやら女伯へと訴えているようである。
「ん?なんだ? リクリスはわたくしが出掛けるのに気が付いて、厩から抜け出してきたんだろうが、ユニコーンはこんなとこで何をしておるのだ」
女伯は不思議そうにユニコーンを見る。
「多分、このユニコーンは女伯に乗って欲しいんじゃないですか?」
女伯と馬のやり取りを眺めていたウィリアムは、なんとなく感じたことを口にした。
「え? ムリ」
その言葉にショックを受けた表情で固まるユニコーンとそれを見てバカにしたようにブル、と鼻を鳴らすリクリス。
その様子を見てちょっと可愛そうになった女伯は
「いやだって……人を乗せる訓練もしたことない馬に乗るのはムリだよ……ハミとか鞍つけたりとかしたことないでしょお前」
とユニコーンへ問いかける。
「まぁお伽噺や絵画なら裸馬にのる乙女とかありそうですけど、現実にやるのは難易度高そうですよねぇ……でも女伯なら乗りこなせたりしないんですか?」
ウィリアムは興味本位で尋ねた。
「まぁ……必要に駆られれば裸馬でも乗れはしますが、ウィリアム殿や視察の供がいる状態でやることでもありませぬし……幻獣の調教は我が領には専門家がおりますから……おい、ユニコーン。どうしてもというなら訓練を受けてからなら乗っても良いが今は駄目だ。 今日は大人しく帰れ」
女伯は厳しい表情でそうユニコーンへ言い渡した。
ユニコーンは泣きそうな表情で女伯を見たが、やがて諦め寂しそうにフッと消え去っていった。
「ふぅ……ウィリアム殿。お騒がせして申し訳ないがこの手の馬に関するトラブルは、エクリプス領ではよくある事なので寛大な心でお許し願いたい」
ペコリと頭を下げる女伯へ
「どうか頭を上げてください! とても珍しい光景が見られて逆に感謝したいくらいですよ、さすがエクリプス女伯。 見事な説得でしたね」
ニコニコと嬉しそうにウィリアムは言う。
「そう言っていただけるとありがたいです……。」
女伯はホッとしたように息をつきながら、今度は愛馬リクリスをみて
「おい、リクリス! お前もユニコーン相手にケンカを売るような真似をするな、いくらお前が魔導馬の血を引いているとはいえ相手は幻獣なのだぞ! 万が一怪我でもしたらどうするのだ!」
ユニコーンが消えるのをドヤ顔で見ていたリクリスは、女伯の言葉にツン横を向いた。
「お前が傷つけば、わたくしだけじゃなく馬番皆が悲しむのだぞ? それだけではない、怪我をしてわたくしを乗せて二度と駆けまわれなくなっても良いのか?」
その言葉にリクリスはシュンとした顔で下を向く。
「リクリスを大事に想っているからこそ叱っておるのだ、もう無茶をしてはいかんぞ」
そういいながら女伯は優しくリクリスを撫でた。
その様子を見てウィリアムは、馬にやさしく微笑む女伯から目が離せないのであった。




