じゅーさん
微妙な空気が流れた面会室であったが、慌てて
「「なんでもないよ?」ぞ?」
と声を揃えて取り繕う男子二名。
「まぁなんでもないなら良いのだが……デニ……いや、オケリー侯爵子息殿。 この通り婚約関係の書類とエクリプス女伯爵よりの書簡をどうかオケリー侯爵閣下へお届けいただきたい」
神妙な面持ちで、デニスへ書類関係を手渡す女伯。
「……はい、確かに承りました。 では早速父へ届けます……最後に一言だけ……アネット、今までありがとう。 至らない婚約者ですまなかった」
そう言いながらデニスは女伯へ頭を下げる。
「……なーに、至らない婚約者だったのはわたくしもだよデニス。 ほかの令嬢みたいにお淑やかな令嬢でない所為でデニスが周りに色々言われてたのも知っていたんだ……エクリプス領に対する嫉妬なんかもあったせいで色々苦労や面倒をかけてたよね……本当にごめんなさい……」
そう言いながら女伯も深く頭を下げる。
「いいんだよアネット、それもエクリプスの人間になる修行の一環みたいなものだったし、正直領地のみんなの指導にくらべたら子供のお遊びみたいなものだったよ」
少しだけ遠い目をしてハハハっと笑うデニス。
「そうか……そんなに爺たちのシゴキは大変だったか!」
女伯も可笑しくなってつられて笑ってしまう。
「では、失礼させていただきます。ウィリアム様もまたお会いできる日を楽しみにしております」
「うん、また会える日を楽しみにしてますデニス殿」
「しばらくは忙しいだろうが、いつでも又遊びにきてくれデニス! 父上も顔を見るのを楽しみにしているからな!」
「あ……あぁ、ありがとう!では!」
そう言ってデニスは館を後にしていった。
「さて……ひと段落ついたことですし、よろしければ談話室の方で改めてゆっくりお茶でもいかがですかウィリアム殿?」
スッキリしたという顔でニコニコとウィリアムを誘う女伯。
「ええ、喜んで! ではエスコートさせていただいてもよろしいでしょうか女伯」
芝居がかった口調と仕草で女伯へ手を伸ばすウィリアム。
「ええ、喜んで!」
女伯もそれに乗り優雅に手を重ねる、しかしこらえきれずに二人ほぼ同時にクスクスと笑ってしまうのであった。
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談話室へと移った二人は、ゆっくりと薫り高いお茶を楽しみながら、女伯は最近起きた領地内での話などを、ウィリアムは領地へ来る途中であった出来事などを話していた。
そんな中、少し気まずそうにウィリアムは女伯へ問いかける。
「婚約を白紙撤回されてしまわれましたが、女伯は新たな婚約者をどうされるお考えなのですか?」
「あぁ……そうなんですよねぇ……。 つい勢いで白紙にしたことは後悔してはおらぬのですがどうしたものやら……」
考え込んだ女伯を真剣な表情で見つめるウィリアム、やがて意を決して女伯へプロポーズをせんとしたその瞬間
「ウィリアム殿! どうかこのエクリプス女伯爵であるアネット・エクリプスと結婚していただけないだろうか! 必ず……とは言えぬがこのわたくしの力の及ぶ限りウィリアム殿を幸せにしますのでどうかお願いします!」
ガタリと椅子から立ち上がりすごい勢いでウィリアムへと頭を下げる女伯とあまりの急展開にポカーーンとした表情で女伯を見上げるウィリアム。
「じ、女伯! とりあえず頭を上げてくださいっ! これじゃ順番が……ていうかお願いですから……頭を上げてくださいーー!」
「いやしかしっ!」
「良いから座って僕の話を聞いてくださいっ!」
その勢いに、あぁやっぱりダメか……と勘違いしつつ女伯はしょんぼりと椅子へ腰かける。
その顔を見て、ウィリアムは慌てて
「いや、違いますからね? お断りなんてしませんよ? そうじゃなくて僕が今プロポーズしようとしたら女伯が先に……あああなんでこんなカッコ悪い事に……」
とほほ……といった感じに顔を覆ってうずくまるウィリアム。
「え? ぷろぽーず? ウィリアム殿が?」
女伯もつられるように混乱している。
「ああああもう! 最初から! 最初からやり直させてくださいっ!」
「えっ? あ、はい」
よく分からないといった表情でウィリアムを見る女伯、オホン!と咳払いして女伯の前にスッと膝をつき
「アネット・エクリプス女伯爵様、私ウィリアム・カンバーランドの忠誠と愛を御身に捧げます。 どうかこの手をお取りいただけませんでしょうか」
物語の王子様の言うようなセリフでされるプロポーズはさすがに予想していなかった女伯は真っ赤になりながら
「えっ? ……なんで?」
という言葉しか出てこなかった。
「貴女様の隣はとても居心地が良いのです。 水馬の結ぶ縁にこれほど感謝する日が来るとは思いませんでした。 まだ出会って日も浅いのにと思われるかもしれませんが、僕は貴女とこの地で一生を共にする覚悟です。 ……正直驚きましたけど、先ほどの女伯のプロポーズはとても嬉しかったですよ? 僕を選んでもらえて光栄です」
ニコニコと自らの本心を女伯へ語るウィリアム。
その言葉に嬉しさと先走った恥ずかしさから真っ赤になって、両手で顔を覆う女伯。
それを陰からそっと眺めてニヤニヤしながら
「これは旦那様にご報告せねばのう」
と意気揚々と前伯の許に向かう家宰がいたのであった。




