えぴろーぐ
貴族の集まる学園の大食堂は、今日もサワサワとした話し声とゆったりとした空気が流れていた。
「ご一緒してよろしいかしら?」
昼食を取っていたエクリプス女伯爵の許へ声をかけてきたのは、皆様おなじみのヘロド侯爵令嬢。
「勿論! 学園の食堂はどこに座ろうと自由ですからな」
その言葉に少し眉をひそめながら
「相変わらず変わった話し方ですわね……まぁいいですわ。 失礼します」
優雅に椅子へ腰かけ、給仕を受けるヘロド侯爵令嬢。
「……お礼は言いませんわよ」
「何のことですかな?」
「……婚約の件よ」
「あぁ! 無事オケリー侯爵子息との婚約が調ったとか、大変めでたい事でありまするなぁ」
ニコニコと笑顔で祝いを述べる女伯、そんな様子を見ながらギリギリと歯を食いしばり、とうとう我慢できずに
「こんなにあっさり婚約破棄できるならもっと早くやってくれたら良かったじゃないの!」
とテーブルをバン!と叩きながら癇癪を起すヘロド侯爵令嬢。
その様子を呆れたような視線で眺めつつも空気に徹する聴衆の皆さん。
「……破棄などしておりませぬが?」
「「え?」」
ヘロド侯爵令嬢と聴衆の皆さんの声がハモった。
「婚約は『白紙撤回』されたので破棄ではありませぬ。 つまり『なかったこと』になったわけですな、なので当方とオケリー侯爵家との関係はただの『お隣の領地』という関係に戻っただけですからヘロド侯爵令嬢が我がエクリプス伯爵家に『苦情を言う行為』は筋違いと言わざるを得ませぬ……これ以上この件に関して口になさらぬが身のためかと思いますぞ……オケリー侯爵家に迷惑をかけることになりますからな」
真剣な表情で考えの足りないヘロド侯爵令嬢を諫める女伯、その空気に耐えられなくなり
「なによ! もういいわ!」
と食事に手も付けずに席を立とうとするヘロド侯爵令嬢へ
「あぁそうでした、ヘロド侯爵令嬢」
「…………なによ?」
「前に、私の事を『当て馬令嬢』とおっしゃっておりましたな?」
「だからなによ!」
「そもそも「当て馬」というものは牝馬に好まれるいわゆる『美男子』であることが当て馬になれる条件の一つとして数えられることが多いのです」
「はぁ? だからなんだっていうのかしら」
「わたくしを『当て馬』と呼んでくださったという事は相手は男性……つまりデニス侯爵子息にとっての理想の美女だとおっしゃって褒めでくださってありがとう存じますとお礼を言いたかったのですよ!」
ハハハーと淑女らしからぬ笑い方と満面の笑みでヘロド侯爵令嬢を見る女伯。
これにはさすがの聴衆の皆さんも【うわー、なんかすごい事いいだしたよこの女伯……】と満場一致の感想を抱くのであった。
この一言にさすがのヘロド公爵令嬢も反撃されたのだと気が付き、ワナワナと震えながら
「くっ…………覚えてらっしゃいよっ!」
と完璧な捨て台詞を残しながら食堂から走って出てゆく。
そのすぐ後で『きーーーくやしーーー』という声も爽やかな風に乗って食堂へ聞こえてくるのであった。
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