68 燦千
モカさんが勝利の歓声を上げる!
「やっぱりね!」
「モカちゃん知ってたの?」
「自衛官の友達が父さんが基地に講演に来たってメールくれたの!どうして九州にまだいるのって思ったけど、ほらみたことか!」
「秘密だったのに、その友達とは後でお話をしないといけないね」
「泣いて喜ぶわよ!父さんのファンだから!」
察するに、ハガネさんは宮崎空港で東京行きではなく、どうやら九州のどこかの自衛隊基地へと向かったらしい。
有事に備えて、近くからおれたちを見守ってくれていたのか。
「でも対人、あるいは実践戦闘経験がまだ浅い。帰ったら特訓しよう」
これ以上にない激励を贈られたモカさんはアサルトライフルを持ち直し、戦闘に備える。
さらに、リサが草千里ヶ浜に侵入してきた方角の割と近く、烏帽子岳の麓の方で爆発が起こる。
「ぴゃっぽーぃ!」
「叫ぶな! 舌噛むぞ!」
「ヒャい!」
爆風に乗って、スタント大ジャンプをかました2人乗りのバイクが草千里ヶ浜に着陸した。
「アキラ!パッセンジャー赤葉さんを連れて爆着しました!!!」
日本最強の男ハガネさんの足元に届く特異者の現着。
赤葉さんはリサに向かってなにやら文句をつけ始める。
「クソババア!!!オレの愛車で無茶したな!!!」
「スクラップになってもアキラさんに直して貰えばいいでしょう?」
「仰るとおりわたしは土金系の怪異者でエンジニアですが、そのバイクは、あなたにとっても思い入れのある品ではないのですか? あんな爆速だと転倒した瞬間にお陀仏ですし、さらにそれを雑に扱うなんて……あれ?思ったほどダメージがない?」
「わたしは柳一くんに爆発力でこそ負けるかもしれないけれど、燃焼の調整技術は上なの。柳一くんが乗り回している時より速度が出たのは運転の腕と異象の差異よ」
「命懸けが強がり吐くな。……どうもハガネさん。ケツ拭いてもらってすみませんね」
「赤葉くん。バイクを盗られた件について、《《あとから》》話があります」
「……アキラ、おまえの命令違反がおれを救ったわけだ。挽回の機会をいただけるらしい」
「赤葉さんが負けるわけないですから」
「立ち入り禁止なんて雑な理由で違反したことに関しては、おれもおまえにあとから話があるからな」
「Yes, sir」
咎められたことよりファインプレーを褒められたことを喜んでいるっぽいアキラのバイクから降りて、赤葉は指を握ったり開いたりして慣らす。
あの指輪が、赤葉 柳一の有名な専有装備「膜張」。
膜張は当該シフターの骨を削り出して作られている。
骨髄こそないが、赤葉さんのライフを通すことで特殊な血液体を分泌し、丈夫な膜を張る。
特異は「煤塵」。
特殊な火薬「煤塵」を生成。
煤塵は赤葉さんから半径15mの範囲内では風に巻き上げられた砂つぶのように塵を飛び交わせ操ることができ、半径150mの異象範囲で任意に着火できる。
煤塵と膜張を合わせることで一撃の威力を集約したり、設置したり、投げつけたりとできる。
膜弾は15m-150mを超えてもしばらく形を保ち続けて煤塵を保護する。
煤塵も含めて再び150m以内に入ればもちろん着火は可能と相性は抜群。
ハガネさんが先制の拳を突き出す。
リサはそれを軽く避ける。
「あぶない。うらやましいね。娘の前で張り切ってすっかり有頂天だろ」
「わかってるなら晴れ舞台をわたしに頂戴つかまつりたい!」
「いいよ」
ハガネさんのラッシュを避けていたのも束の間、リサは真正面から拳を受け止める。
「「開繊!!」」
肌と肌がぶつかりあう鈍い衝突の空気を伝って、周辺にはビリッとした衝撃が走ったような気がする。
「やはりあなた……ッ!」
「言っとくけどね、火口付近で先に手を出してきたのは柳一くん」
「そんな嘘ばっかり!」
「アキラ、抑えろ」
「加害者は2人。わたしは必死に逃げてきた。そのチェイス中に緊急帰還の警報が端末に通知されていたのに逃げてない人がいたから声をかけようとしたら撃たれちゃったから不審者だと思って応戦しました。実際に、わたしを追ってきたのはそこなお二人さんであって、その証人は新たな加害者であるあなたたちです。傷こそ癒えましたがライフルの弾痕も地面に残っているでしょう。あなた方に至ってはどちらが先制攻撃したのかは粲然と火を見るより明らか。そして今度は井栗 ハガネ。さて、この立証をどうおこなう?」
「真面目に付き合う必要はないな。合理的疑いを晴らす以前にあんたがここにいることに問題がある、リサさん」
「わたしは不審者がいるとファームの関係者からの応援要請を受けてここに降り立ちました。あなたはファームへの立ち入りを許可された人間ではないでしょう。手続きはお済みですか?」
「湯治に来たもので。そんな手続きが必要だったとは。昔はそんなのなかったんでね」
「火口の湯だまりに浸かるぐらいだ。あなたに常識を求めていません。ただひとつ質問させてください。なぜマジン定例会議の召集に応じなかったのですか」
「湯治」
「なるほど」
「侮辱も甚だしい。ハガネさん、リサさんはさっきはっきりと狙いはそこにいる花木 ヒラクだと……おい、おまえだいじょうぶか?」
赤葉さんにまで名前を知られているとは光栄だ……けど、ファーストインプレッションを大切にがモットーのおれが、愛想よくできない。
お利口さんに思考がグチャグチャして沈然とさせたいのに一人で舞台に上がって極度に緊張した時みたいに腹がむず痒くて心の持って行き場の焦点が合わない。
ずっとパニックだ。
「ゴタゴタごちゃごちゃ、ウルセェんだよ……黙って自分の信念も貫き通せねぇのか!テメェに美学はねぇのか火群 リサぁ!!!」
「……まだ着こなせていないみたいだね」
「おまえが敵だってのは白日すら眩むほど粲然たる事だ! 汚ねぇ皮被りすんな!潰してやるぞ不良品!」
「一粲を博す 尺蚓堤を穿てば能く一邑を漂わす 折戟砂に沈みて、壮志未だ酬いず 千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ……燦然たるは君のいまのありさまだ。湯に浸かって三千数えられるくらいの辛抱強さを身につけたら、耳を傾けてやってもいいよ」
「美センねぇテメェは三千も数えられないだろァ!」
「美的センスがなさそうなのは、同じだろうが──」
「「莫迦が・馬鹿がよ!」」
ここまで腹にキリを捩じ込まれたみたいな状態でズっと「待て」させられた!
アンを握る手に力が入るってもん!!!いくぜ!!!




