66 火山の心臓
「カエデさん。ヒラクくんに情報の共有をお願いします」
「火群 リサ。燃焼のマジンです。彼女は炎を操ります。起源は江戸時代中期1707年は東海宝永の大噴火に巻き込まれた火の怪異人です。火山雷の鳴り響く噴煙の下、大量の熱を浴びてマジンに至ったと記録が残っています。異象発動中の彼女には異象者がよく持っている強いサーマル感度と熱耐性に加えて、ガスなどの有毒物質、電気への耐性があります。冠した特異は”炫燿”」
「それってまるでハガネさん」
「金属、熱、電気を生成して操る父より格下よ……でも問題はその火力……」
マジン”リサ”は、火を操るらしい。ロケット噴射炎のように最大長は約200m、最大温度はガスバーナー、あるいは溶岩やマグマと同じ摂氏1200℃ほど。
「赤葉はチェイス中のようでリサを追いかけています。断続的な爆発音は赤葉の特異によるものです。念の為に助っ人を用意しておいてよかった。我々も援護に向かっています。到着までもうわずかです。わたしがヘリから監視しているところ……リサが草千里ヶ浜に差し掛かっています烏帽子岳裏の道路です。向こうのほうが少し速い」
「おいでなすった」
「展望所の方を走って……いきません。きます。お気をつけて」
モカさんのライフルとそれを握るグローブがギュッと摩る音が、一発で決めると囁いてくる。
「520m〜560mってとこ──ここっ!!!」
草千里ヶ浜の一部を囲うようにある烏帽子岳を周り、ここら一帯を見渡せる展望所にの前を走る道路に現れた一台のバイクが、道路を外れてこっちへ向かってくる。
モカさんの銃弾がマジンの血飛沫を噴き上げるも走っていたバイクは方向を変える。
「外れた……いやちがう、避けた」
「わかってる!次──!」
いや、当たったろう!
核肉には当たらなかったが、胸部を貫き赤い血が噴き出したのにリサはハンドルを握る手を緩めもしない。
フユミの言った通り、射線を定めさせない。ジグザグ、さらにはバイクを揺らしながら火柱や土煙で撹乱しながら近づいてくる。
悪いことにモカさんの次弾は当たらない。
モカさんが焦りながら備えていた連射性のあるアサルトライフルに銃を持ち替えている隣で、オレはそのライダーの姿に目が釘付けになっていた。
「伏せて!!!」
モカさんの合図で、フユミに頭を思いっきり下げさせられる。
てっぺん付近までまだ300mはあろう丘の坂に差し掛かったリサの翳した手からの火炎の噴射が、頭上を掠めている。
「情報とちがうじゃない……!」
火の水面を底から覗いているみたいだ。この美しい火の灯りがおれの目を眩ませる。
「モカさん!ヒラクがお腹を抑えて倒れた!」
「クソっ!!クソクソくそ!!!おさまれなおれきもちわるいの去ね死ねしねよ!!!」
「ヒラクくん! がんばって抑えて! まだ日が浅すぎた……作戦変更。フユミさんは異象をぜったいに使わないで」
「承伏しかねる……」
「ぜったいに!!!マジンとわたしたちの考え方に差があるのはわかってる!」
どうかしてるぞオレ!!!なんでこんなに腹が締め付けられるんだ!!!
「旅路に綺麗な躑躅が咲いている……あの世の前で少し立ち止まって、花見で一杯と洒落こもう!」
リサが丘を登ってくる!
こんなに危険な状況で、お荷物になるのか!
なんでおれの腹はこんなにイキリ散らかしてんだ!!!
「フユミさんはヒラクくんを連れて山を駆け下りて。火炎から角度をとってわたしが迎え撃つ」
絶望だ。
狙撃銃で撃たれて怯まない暴走女がもう目と鼻の先に差し掛かっている。
モカさんが覚悟を決めて立ち上がろうとした、いまにも──ノイズの走るイヤホンに割り込んで、一報が入る。
「モカちゃんのおかげで、ヘリが間に合ったよ」
イヤホンに声が入ったと思ったら、空を茜に染めていたリサの火の放射がなくなった。
頭上をヘリが過ぎ去っていく。
おれたちはすぐに立ち上がって、状況をその目で確かめた。
「よくもわたしのかわいい娘をまるこげにしようとしたな」
「井栗 鋼……」
大きく聳える壁のように唯我に独尊ないってくらい最強をしらしめる背中に守られて、おれとモカさんは確信した。──勝った。




