65 草千里ヶ浜
車で追いかけていたモカさんがブレーキランプ光らせて、いきなり空へ銃をぶっ放したもんだから窓から顔を出して声をかける。
「だいじょうぶっすか! モカさん!」
「I got you…オッケー、しとめた」
モカさんが空に話しかけると、返答の代わりにデッカい羽まみれの塊が落ちてきた。
「怪異鳥。これはデカい。ヒラクくん解体おねがい」
怪異鳥の翼開長は9m近い。
ガスマスク装着をすみやかに行ってジープから降りてアンを片手に、行動不能となった怪異鳥にトドメをさす。
傷のついた停異核を吸収して確実に死なせた上で、素材をアンで切り裂きみんなで協力して保管ボックスに詰めていく。
地味にこの車の乗り降りだるいな。
こんどバイクの免許取るか?
「グリック集め探索だと核肉狙っていいから超楽だわ」
発命核ではなくなった停異核は、停異期核と同様にライフを生まないドライボーン状態にあり、貯蓄するライフが自然と尽きるまでかなりの長期間保存可能となる特徴がある。推計では1000年は軽く保つとか保たないとか。しかし傷がつくと保管可能期間がぐんと減る。どのくらいかというと1日くらいで核肉そのものが死ぬ。
発明核を傷つければ、ライフを大きく削ることができて、並みのシフターはだいたいが傷ついた状態の停異核を残す。強力なシフターは発明核を修復するらしいけれど、それでもライフを大きく削れる点は戦闘を有利に運ぶためには重要だ。
資源運用を考えるなら、核肉以外のところを狙って傷のない停異核を手に入れることを第一とするところだけど、ウーレンフェルトでもアサルトライフルで体を何発か撃ってようやく沈む。
シフターには驚異的な回復力がある。
核肉はシフターにとっての急所、とはいえ……こんな神業ふつうできない。
オレたちは2つ目、そして3つ目の餌場を回り終えて、4つ目……赤エリアの近くの餌場でアンをふるう。
危険エリアには入っていないとはいえ、めちゃめっちゃこわい。
ちな、ガス検知器は動いていない。
有害なガスはないようだ。
そいでもって、あまりにも恰好を笑われたんで、マスクをフルフェイスから鼻と口を覆うだけの小型の方にした。
嘴ついたみたいでさっき解体した怪異鳥と同種になったようでそれはそれでいやなかんじ。
「フユミ。どした?」
「ヒラク。ちょっといそご。お腹すいた」
「あっそう」
へいへい、お腹がすいたね……。Be cool, ノットアンハッピーでオレはハッピーノーハングリー。
「お腹が空いた?……着信。トワ、見張り代わって」
「はいよー、みてるみてる。リン、エンジン」
「うん。アゲハちゃん、いったん映像とぎれるね」
『はい』
「やな報せの匂いプンプン。もしもし、井栗です。カエデさん……はい、はい。マジンが火口に……赤葉が向かった……わかりました。戻ります……ヒラクくんフユミさん聞こえる?」
「はい、聞こえてますよー」
「緊急避難します。急いで車に戻って」
「え、えぇ!?!?」
「リンは頼んだトワ!舌噛まないようにね!!!」
「k!リンはちびるな!」
「ちびらない!」
緊急……でもまだ全部切り裂いてないんだけど……緊急?なんで?なんかヤバいやついたん?
とても冷静で耳がキュンってなる声で無線が入ったものだから、状況の把握が追いつかずに思考停止して周りを確認してしまう。リンくんが乗った車をトワさんが運転して離れていく……。
「いくよ。マスク外して全速力。後ろは振り返らないで。わたしがみてる」
フユミに引っ張られて、急いで車に戻れといわれたことにようやく理解が追いついた。
マスクを外して走る。でも振り返るなって言われても、面と向かってたシフターたちが追ってくるんですど!
「そのまま走って!」
無線からの呼びかけに視線の先のモカさんにロックオンすると、モカさんもこちらに銃口を向けてロックオン、銃口を左右に振ってサイドのシフターの核肉を撃ち抜いていく。
銃弾が側を飛び交うその間もフユミはずっとおれの方を見てにこやかに安心させようとしてくれていた。
追われ追われ、車まであと20mといったところ、中岳の方の空が光る。
阿蘇の風はまだ冬の匂いを残している。
それに混じって、焦げ臭い匂いが混じってるように感じた。
オレは車に飛び乗ると、すぐにマスクをつけなおした。
「運転はわたしがする」
「ハァ……ハァ。野焼きでもしてんのか?」
オレたちを追っていたシフターたちは、いつの間にかモカさんが全部処理してしまっていた。
核肉やら素材が勿体無いと思う反面、なにがなにやら。
「リン聞こえる!?わたしとヒラクくんたちは駒立山で迎撃体制にはいる!フユミさんもそれでいい!?」
「「了解」」
モカさんの指示出しで次から次に事態が動いていく。
現在地は草千里ヶ浜の南も南。
整備された道路に出るまでは、直径1kmほどの丸い草千里ヶ浜の窪地草原を北へ突っ切らなければならない。
襲撃……ここまで緊迫した状況なら何が起こっているのかはだいたい検討がつく。
「ヒラク。わたしたちがついてる」
「どうして戻らないんすか!?」
「目の前に見えてる丘! 敵は中岳の方から道路を走ってきてるってわかってるから、わたしが狙撃する! 見晴らしがいい方がいいし敵の狙いは十中八九あなたでしょうから戻らないことで管理センターやアゲハちゃんの安全を確保する! 狙撃でダメそうなら、フユミさんがヒラクくんを抱えて飛んで逃げる!折衷案ね!いい、ヒラクくん!」
「はい……」
目指すべき道路はファームの入り口の方と中岳のターミナルの方へと続いている。
そんな捲し立てるように言われたら、はい、としかいえない。実践経験の浅さから口を出すべきでないのはわかってはいるけど、あぁ、なんだこの無力感。ひさしぶりに感じた。
「セット」
モカさんは反対側から見えない位置でバイクから降りると丘を登り、地面に伏せて、照準スコープを覗き込む。
「なんの音だよ、これ」
さっきから、変な爆発音が断続的に鳴り響いている。それにヘリだ。敵の場所を監視してるのか、それにこっちに向かってきている。
「偶然にも、いま、阿蘇には赤葉 柳一がきてる。カエデさんが彼に応援要請を出したみたい」
「赤葉 柳一ってハガネさんの会社より上の国内6番目の実績がある実質日本一の民間シフハン会社をやってる!?」
「……そう。でもその認識はちょっとわたしの見解に引っかかるなぁ」
「異論は認めます。おれも最強はハガネさん派です」
「ことが終わったらわたしの父のコレクションを見せてあげる」
「ガチっすか……そうだフユミ。注意し忘れてた。オレのためにいのちを捨てるな」
「わたしはあなたを守る」
「助けられる代わりに誰かが傷つくことに鈍感に割れないんだ……オレのためにいのちを使うな」
「あなたをわたしの被保護者とはしない」
「信頼してるからな。あとスマホ預かっといて」
「……わかった」
「つーか、どんな枯れた野郎がオレのこと狙ってんだか」
「帰ったら話がある。わたしをババア扱いした件について」
「論外」
山の方から、ジェット機が滑走しているような轟音が近づいてくる。
ジジイかババアかしらねぇが、やるってんならやってやろう……アンを持つ手に、力を込める。




