第58話ちゃんぽん鍋
神足──あらゆる伝達・運搬を担う。
漏尽──あらゆるファイルを守り管理する、記憶力に優れた人材が揃う。
天眼──機動捜査で現場に向かう、感覚型の中でも視覚強化系の人材が揃う。
天耳──機動捜査で現場に向かう、感覚型の中でも聴覚強化系の人材が揃う。
他心──プロファイリング・取り調べなどを行う。
宿命──鑑識。
異象に基づき設計された公安のスペシャリスト集団。おれたち特異春瀬班のサポートもしてくれるらしい。
「モカちゃんは六神通の天眼通に所属してる職員さんなんだよ。通は、印象だと係と班を混ぜたみたいな感じで使われてるかな。カジュアルに呼ぶときは省かれがちだけどね」
「へぇー」
機械から集金しながら、リンくんの話にも耳を傾ける。
「うっし。予想以上の売り上げ」
この前の実験後、花木コインランドリーは異象者専用店としてリニューアルオープンした。
地元の人はおれが特異者となったことをニュースでだいたい知ってるわけで、生産系の特異と発表されたため、すんなりとこの不思議な洗濯屋が受け入れられた。
価格は据え置いたままだが、回転率がえぐい。
話題性と利便性が人を呼んで月間売り上げ100万は簡単に超える勢い。
「はやくしなよ」
「そんな急かさないでくださいってモカさん。はい、リンくん。代金」
「じゃあ預かるね。では、素材をどうぞ」
暇そうなモカさんに背中をつっつかれながら、リンくんからシフター素材、それからアンを受け取る。
「ごめんなー、小銭が多くて」
「いいんだよ。こんな貴重な場に居合わせられるんだから」
深夜、客のいない時間を狙って素材を運び込む。
「シフターから核肉が消えていたのはこれが原因だね」
アンにははじめから拡張機能が備わっていた。
スキル──捕食-グリック-。
このほかにも、適応者の身体能力補助、感覚補助、斬補助効果がついている。
これから50万円分のシフター素材を格安で買取、アン♠︎1 を強化・グレードアップする。
「あんまり形状は変えないでほしいな……」
「でもこっちの刀型とかカッコよくね?」
「わたしはこっちの槍型が好みかも」
グレードアップ時、たくさんのアンの形状の選択肢が出てきた。
今回は製作者であるリンくんの意見を汲んで形状が似た鋸を選択した。
持ち手はまっすぐで鋏型に重ねとじると刃は対の背をはみ出して一本の両刃の剣のようになる。
「こうなると挟んで切るというより閉じて振り回す剣の方が使い勝手良さそうね。先端がバーベキューのグリルフォークみたいなってるから先の方で突き刺すこともできそう……」
「柄と柄の間のハサミでいうところのエボがないせいだ。携帯するときは鞘じゃなくて少し開いた状態で固定できるホルダーがいるね」
「作れるリンくん?」
「任せて」
剥き出しだった白い歯が刃に溶け込み、また、歯を固定していた土台も歯と一体化して一つの刃となる。
胴付きではなくなったおかげで、刀身はレシプロソーの刃のように洗練された。
そうであって、黒と白の逆丁子の刃文が表れ、じつに荒々しい。
「拡張機能すごっ」
身体能力の補助効果+100、感覚補助 ♥+♥1、斬補正 ♠︎2、グリック変換効率+0.1%。
「……すこしお腹が空いたな」
「そうだね。夜ご飯を食べてからまあまあ経ったし」
「おれも小腹が空きました。なにか材料買って作りますか」
調理場所はおれ専用の特種用途自動車(特種)のキッチン。
超便利で広いおれには絶対運転できなさそうな大型車両は、ベッド、机、シャワー、トイレなどキャンピングカーとしての機能、それから銃などの武器&メンテナンス用品を備えている。
24時間空いてるスーパーに寄って、材料を買い出しに行く。
「いらっしゃい、ちゃんぽん”ちゃらんぽらん”へ」
ラグジュアリーな内装に似合わない店名に迎えられたモカさんとリンくんは笑いを堪えていた。
いい具合の深夜テンションだ。
豚バラ、シーフードミックス、野菜ミックス、さつま揚げ、牛乳、水、鶏がらスープの素、ちゃんぽん麺、塩コショウ、お好みでごま油。
フライパンにぶち込んでいくだけの簡単な調理。
どんぶり3つもないしお腹の具合と相談しながらということで、鍋みたいにフライパンから取り皿に麺と具を掬って食べる。
「捕食の拡張機能をオフにしておけば核肉の損失も防げそうだ。よかったね、ヒラクくん」
「でもおれが私用でシフハンに出ることってあるんかな……」
「特異班はほとんど暇だし、父さんから名刺もらったんだから、スケジュール調整して参加すればいいんじゃない」
「モカさんだいすき!そういう頼り方をしてもいいんだ!」
「あんまり迷惑はかけないで、それからこの車の運転やるお目付役が必要だろうから私を連れていきなさい」
「モカちゃんの狙いそれでしょ」
「そうなんだけど、ヒラクくんは目の届くところに置いておかないとあぶなっかしいの」
「そのときはおれも乗せて行ってほしいなー」
「リンはだめ」
「どうして」
「だってこの車を変な機材だらけにするでしょ」
「それはヤだなー」
「そんなことしないよ。ちょっと重い機材を2、3積ませてもらえれば。ちゃんと移動できるぐらいの空間は残すし」
「「却下で」」
「そうか……あ、フユミさんおはよう」
「おはようフユミさん」
「……ずるい」
「フユミも食う?」
「食う」
検証の間、モカさんが運転してきた車の中で待つと言ってフユミは、待機中なのにベッドに転がってそのまま寝てしまっていた。
「ところでもう朝なの?外は真っ暗だけど」
そう言うフユミの視線は窓の外ではなく、机の上の鍋の中に注がれている。
「深夜1時だよ、フユミさん」
「私はマジンだから大丈夫だけど、ギルティ。私はマジンだから大丈夫だけど」
「どうして2回言ったのかな?」
「だ、だいじょうぶだし。わたしごま油かけてないから……」
「脅さなくても材料の追加あるって」
「そう。ならイノセント。ハチミツある?」
「その方が太りそうなのに、うらやましい」
「ハチミツはないと思うけど、ちゃんぽんにハチミツかけるの?」
「ほら、ハチミツ」
「ありがとうヒラク」
「……なんかヒラクくんとフユミさんは、こっちにきて仲よくなったよね」
「そうかな?コイツ何にでもハチミツかけようとして忘れられないんだよ。意外と馴染みやすい素材だからタチが悪いっていうか、料理人泣かせだよ、ガチ」
「ハチミツは万能調味料」
「いや、そういうことじゃなくて」
「いいじゃない。家族みたいで」
「「そうかもな(ね)」」
モカさんの家族発言を否定はしなかったが、フユミ、おれより先にこの車のベッドで寝てしまったことだけは許せねぇ……金曜日からイヤでもこの車の中で寝ないといけなくなるわけで、今夜は実家の寝慣れたベッドの上でぐっすり眠ろう。




