第59話ナスヴィーの誕生
祖月輪 百環。
青白の渦巻きが描かれたキャップを被る、どこかでみた色のがっつり太いハイライトが入った肩まである前下がりサイドパートのストレートボブに灰色のジャケット、黒のインナー、オレンジのパンツにブーツなのに快晴に透き通ったエレガントなお姉さん。
「トワでいいよー」
「トワさん!もしかしてその髪の色は!!!」
「わかるかね……そう!キミと同じクレーマ色だよ!チームヒラクのイメージカラーでしょ!」
「うぉおおお!気が合いそうですねトワさん!」
「そうでしょう!ヒラクくん!!!」
ブラウンなコーヒーのクレマ色を伝えたつもりが美容師さんにクレーマ(伊 クリーム)色にされたという裏話のあるおれの失敗をまんま踏襲する人がいるなんて!このひといい人!気が合いそう!
「まぁいまだけなんだけどね。神足通のわたしのヒラク組での仕事は即応・連絡・インフラ係。荷の送受から車の整備・機動までと汚れやすいから。素敵な色だとは思うけれど明るい色だと汚れが目立つし、でもせっかくだからヒラクくんと仲良くなりたくてやっちゃった!」
「いいっすいいっす!スッゲェうれしいです!それにトワさんはどんなカラーでも似合いますよ!」
「やっぱり?いやー、ウチってエレガントだから!おっと、わたしわたしぃ!」
「……大丈夫かな、この組」
「明るくていいじゃない」
「リンもけっこう楽観主義だからね……」
モカさんはヒラク組の行く末を案じているが、楽観主義おおいにけっこう!
たのしけりゃそれでいい!これ、ヒラク組のスローガン!
青海高校。
「基地集合じゃなかったっけ?」
1年1組、アゲハは”迎えにいく”と受け取ったメッセージを確認する。
「アゲハ……」
「なに?」
「アゲハアゲハ!!!」
「だからなに?」
「ヒラクさんきてる!!!」
「いま?」
「いま!」
クラスメイトに連れられて、駐車場まで走る。
「花木先輩握手して下さい!」
「新入生?」
「はい!あ、ありがとうございます!」
「おれも有名になったもんだ」
「先輩はニュースに載る前から地元じゃ有名だったけどな」
「拓哉、それはどういう意味だ、あぁ?」
「そりゃあ悪いほうっすよ。体験学習の収穫イベでナス握ったと思ったらナスに齧り付いてた生まれたてシフター握ってたナスヴィー誕生事件、体育祭の借り物競走のお題ひかりものでまよわず校長の手を引っ張って活躍が学校グリッターに載るも記事でお題の内容を知った校長に激怒されたヘッドグリグリ事件」
「そんな変な名前ついてたのかよ」
「まだまだ!1年のとき文化祭でミスコンに出て優勝して全校女子を敵に回した髪空座離事件」
「あれは1年男子全員の罪だ。誰か突き出して投票で優勝させようぜって悪ノリでゲームに負けたおれがカツラ被って出ることになってさ。マジで優勝するなんて思ってなかったから不正投票したって委員会に告白したのに票集めはただの一つの選挙戦略だって棄権が受理されなかったの!おれも反省してるよ……不正はだめだ」
「男子にルックスではじめて負けたから友だちになってくれって、2位だった先輩とお近づき迫られて仲良くなったんすよね。この前の卒業式のときも来てたし」
「いうて面倒見のいい先輩だったからな。いまもちょくちょく連絡くれてるよ。そいつをおまえのにぃちゃんとか周りが囃し立てた誇張のせいで大変な目にあったんだからな」
「で、今度は1年男子にも目の敵にされててワロタってにぃちゃん大爆笑してましたよ」
「そのときの写真ないんですか?」
「あるよ……ヤベェな。あのとき撮られた写真がニュースとかに取り上げられたら立ち直れねぇ」
「おれが持ってるからあとでみんなにもみせときますよ」
「どんな気遣いの仕方してんだ!」
「学外だと夏祭りで太鼓の革つきやぶって勢い余って太鼓に突き刺さって大爆笑かっさらった太刀魚事件とか」
「それ知ってる!みんなにレスキューされてたあれ花木先輩だったんだ!」
「そうだ!マスコミに垂れ込むんじゃねぇぞおまえら!」
「「「はーい!タレコミまーす!」」」
「まったくできた後輩たちだ!おれ不安で夜しか眠れねぇよ!」
「で、ヒラク先輩そのキレイな人だれっすか!」
「ん?わたし?」
「あー、この方はおれの大事なヒトだ」
「大事なヒトでーす!」
「やっぱその髪色おそろだったんすね!」
「えぇー!センパイのこと狙ってたのにー!」
「まだ会ったばかりでなに言ってるんだ調子者!」
「きゃー!彼女さんたすけてー!」
「一応訂正しておくけど、同僚だから。でもおれの警護もしてくれてんの。そして後輩、きみはトワさんに抱きつきたかっただけだろ!」
「バレました?」
「うらやましい!そこを代わりなさい」
「ダメだよヒラクくん。わたしもうこの子のこと手放せないくらい愛しちゃってるから」
「お姉さん。わたし花木先輩からお姉さんに鞍替えします!」
「先輩、失恋記念に写真でも撮りますか」
「どんな誘い方してんだ。よっしゃ撮ろう!トワさんたちも入れます?」
「いいよー!モカちゃんたちも連れてくるね!」
「おまえたちこんなところに集まってなにをしている!」
「あっ!先生このまえぶり!」
「花木!おまえか!顔だしてくれたんか!」
「まぁ用事あったんで」
「おまえも大変やな。進学先変わった理由あれだったんだな」
「すんません」
「腐らずがんばれ。先生たちも応援してるからな。なぁおまえら!」
「「「がんばれー!!!」」」
人だかりの真ん中で、先生と生徒たちに激励受けてたら、タイミングのいいことにアゲハも来た。
「おーいアゲハー!」
「これなんのさわぎ?」
「いまからみんなで写真撮るんだ。おまえたちも入れよ」
「いいんですか先輩!?アゲハちゃん入ろ!」
「えぇー!……しょうがないな」
「カメラ立てるからちょっと待っててね」
「すみませんトワさん」
「……失敗したクレマ色が増殖してる」
「VIVA!トワさんのはイタリアの伝統色だぞ!」
「あのね、ヒーちゃんわたしが言いたいのは同じ色ってところで」
「あっ!校長先生!卒業式ぶりです!いまから写真撮るんですけど入っていきません!……ちょ、どうしてゲンコツ握って息吹きかけてるんですか!!?おれは有名税を払って拓哉を身代わりに召喚!」
「いやぁー!なんでおれ!?」
「写真代だ。おまえが払え生徒会長!」
写真を撮るまでに一悶着あったが、アゲハを一緒に迎えにきたメンバー全員、それから騒ぎを聞きつけて集まったみんなで写真をつくる。
「写真は後で拓哉とアゲハに送っとくから共有してもらってくれ!拓哉、がんばれよ」
「いきなり来るって連絡寄越すし、今度はもうすこし余裕をもってまた遊びに来てください!」
「先生方も騒がせてすみませんでした!」
「夜ふかしするなよ」
「う、うっす」
「夜ふかしってなにかあったんですか?」
「それがな、授業中に眠りこけて寝言で熱烈な愛をみんなに披露して」
「あぁー!せんせいそれはダメだって!おれの尊厳が!」
「もういくよ、ヒーちゃん」
「アゲハ止めるな!いや止めて!あっちを止めて!やーめーてー!アァあ──ッ」
「おさわがせしましたー。みんなバイバーイ!」
「また遊びに来てくださいトワさーん!!!」
アゲハを乗せて……もといアゲハに車に乗せられて、おれたちは県北を目指す。




