第47話
海開き。
海に生息するシフターに船の特別なソナーから特殊な波を浴びせて嫌がる彼らを陸へと追い込み浜の上でハントする。
匿名の研究者RamとEweが開発したこの特殊な音波”牧羊犬”は、伝播効率から水中でのみ実用に足る運用が可能なため、陸上では使われない。
海開きは定期的に実施されるため、世の中には国に管理されている狩場を借りて利益を出すハント会社がある。
周辺地域に自生するものを人工的に揃えてハンドメイドの習性を刺激しシフターの餌場を作ることで誘き寄せるファームと並ぶ、民間も参入する比較的メジャーな2大シフハンの手法だ。
地域の皆さんの安全を守るシフターハント。その大事な時だってのに──。
「麦わら帽子にアロハシャツ、水着にノコギリ二刀流でサンサン照りの砂浜にたつって……ッ」
「言語化するなウミ!わ、笑っちまうだろ!」
「言う前から笑ってんじゃんソラ!あとはサンフレアエフェクトあれば写真カンペキっ!はいチーだはっ、ごめっ、ヒラク!」
「ごめんってなんだよ、笑ってんじゃねぇぞテメェら」
ウラルもリアントもせめて常時性能10%は引き出せないと逆に枷なんだとよ。
「ヒラク、似合ってる」
「ありがとよ、フユミ」
「……ヒラク、おれも似合ってると思うぜ」
「二番煎じ乙」
「あっ、ちょ、オレの励ましを雑に足蹴にするとはなにごとだ!」
無線越しだからいつもより距離詰めてこようとしやがって。
「シフハンにその格好ホントなんなのっ!」
「腹が捩れる!こっちみんな!」
「日曜大工!ハワイのおとうさんの休日だろ!」
桃、白、灰白色の繊維が編み込まれた耐久性抜群のかっこいいノルムスーツに身を包んで準備万端なウミ、リク、ソラがオレの格好を見て大爆笑してる。
「一足早い夏のノコギリクワガタ爆誕」
リクの例えボケがトドメを刺した。
ウミは吹き出して、ソラに至っては地面に倒れて笑い転げてる。
だめだこいつら、もう救いようがない。
「なんて緊張感のない奴らだ」
「お前ねらってるだろ!」
「鏡みてから言ってよ!」
「リアントスーツが作れないからしょうがないとはいえ、砂浜にその格好は完全にバカンスじゃん!」
おれの格好は、こいつらが来た時とほとんど変わっていない。
黄色いアロハシャツに短パン水着とマリンシューズ。
加わったのは日除けの麦わら帽子と両手のノコギリ、クラリティ”アン”。
「みんな、そろそろ気を引き締めて」
耳につけたイヤホンから、後方支援のモカさんの声が入ってくる。
モカさんは砂浜に停められたルーフが台に改造された特型警備車の上でスナイパーライフルを構えてスコープを通しておれたちをみてる。
「しかたない。風の抵抗受けるしそれじゃあ帽子はやめてサングラスにしてやるよ」
「あんまり変わってねぇのよ」
「おまえら!おれスーツないんだから流れ弾には気をつけろよ!!!」
「近接武器おまえだけなの!なんで流れ弾心配しながら後方腕組みしてんだよ!」
「ぶっちゃけこわいからだ! 地方民のどいつもこいつもが2刀鋸流を使ってると思うなよ! さぁ我が盾となれ鉄砲隊!」
「尻すぼみ×腰砕け」
「腑抜け!お前たちは最悪、補綴薬剤があるが特異者のオレにはないんだからな!」
「「「威張るな!」」」
「推定餅力型が1体上がってくる。その後に4体、まだ数は少ないからやるなら今がチャンスです、ヒラクくん」
……モカさんのご指名とあらば逆らえない。
足を一歩ずつ前へ進める。
「オレってばさ、高2までアマレーナとかその他のバイトで接客なんかまぁまぁやってきてるわけよ」
自分をイキリたたせて、コレまでの自分の経験してきたことを掘り起こしソイツを信じる。
「オレの一番大嫌いな言葉ナンバーワンは”お客様は神様だ”……神が神様ぶってんのが大嫌いでヨォ……黙って崇められとけって思っちまうわけ」
イグアナのように鋭い爪の指と先、でかい図体を2足で支えるぶっとい獣脚、体長約3m尻尾アリ、部位は口とエラつき、全身赤カラーの短い毛に覆われたシフターが上陸する。
「だけど接客で謙虚さが大事なのもわかる」
アンの柄を握る力を強めて、砂に足をとられないよう軽やかに走り出す。
「だからオレは接客するときこう思うことにしてるんだ……お客さんは仏さんだってなぁ!!!」
眼前に対峙し振り下ろされた前腕を右で斬りつけバランスを崩したところ懐の左下から右肩に向かって両腕全力の逆袈裟をぶちかます。
「衆生同士、神より一切のほうがおれららしいだろ」
墨色の血飛沫が砂浜の上に撒き散らされる。
飛び散った血、そして流れ出す血が砂粒の間にじっくりと染み込んでいく。
「豆腐とネギを一緒に切ったような感覚……なんだコレ、たのしッ!」
花木 開、レッドウーレンフェルトを獲物に人生初のシフターハントを成功させる。
「それにコレ……うめぇ」
アンをシフターにぶちこんだ時に流れ込んできた血が湧き肉が躍る感じ。
疲労が溜まりまくって眠気を限界突破して、ようやくありついたエスプレッソからカフェインとったときみたいだ。
体がポカポカしてきて、気分がすっごくイイ。




