第36話
「素材というとこの歯、ですか?」
「だね。歯の歯」
「他の素材は?」
「……諸事情で、他の素材は現在外国の研究機関が保持しているんだ」
「うっそぉー、それじゃあオレのリアントは!?」
「現状はこれ一本で頑張っていただくということで……ごめんねヒラクくん。他のリアントはアクティブでなければ多少の加工はできるんですが、この歯に限ってはこの状態でどんなに頑張っても削りカスすら出なくてデザインが限られてしまいました。力不足で申し訳ない」
「いや、加工できないんじゃデザインも限られるよ。リンくんが謝ることじゃないって」
「ありがとう。でも今回はカウンセリングだから、ヒラクくんの意見があれば聞きたいな。そのための模型だから縮尺コスパいいショートナイフってだけで、歯はまだたくさん余ってるからでっかいノコギリみたいのもできるよ」
「リーチは欲しいから柄込みで50cm以上だと助かる。でも大きすぎても振り回されるのが目に見えてるから槍みたいにデカいのは嫌かな」
「うん。全長は小太刀くらいで取り回し重視って感じだね」
「でもって頑丈なの」
「リアントの性能がそもそも頑強で段違いなんでそこは大丈夫かな。それで、こんなのがいいなって他にこの歯を生かした武器デザインのイメージとかありますか?」
「ないけど……」
「けどというと引っかかるものがあるとか」
「……昔から、こういう武器があったら面白いなって思ってたんならあるけど、歯を生かすとなると違うかなって……」
「でも興味がありますね。せっかくのクラリティです。開発者として利用する専有者の意見を是非聞きたいです」
話すべきなのか。料理中にふと思いついてしまって、しばし妄想した後に我に返ったときメッチャ悶えるも武器といわれると頭の片隅でずっと引きずってるモヤモヤファンタジー。
「分解できるカーブのキッチンバサミってあるでしょ?」
「ありますね」
「あれ、ラプトルの鉤爪っぽくてカッコよくないですか?」
「ほう……ほう!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「リーチがあれなんで鉤爪の大きさいかん、鋏をさっきのオーダーくらいの大きさにして、実用性はともかく普段は重ねて収容してるんだけど、いざって時に両手でそれぞれ持つ刺突武器 兼 刃物になる。デカいから持ち手は植木バサミみたいになんのかな。もちろんモデル元のハサミみたいにしてもいいし、その場合は持ち手は2刀流の時は海賊映画とかでよく見るカットラスのナックルガード、みたいな役割。それにハサミだとこう、歯ならぬ歯をつけると口っぽいし。でも、ギザ歯ってスマートじゃなくてあんまり好きじゃないんよ。小さい頃じいちゃんのノコギリ触って指の皮膚を切ったことがあって病院で縫った時ギャン泣き。傷は残るしそれから苦手意識が……リンくん?……おーいリンくん聞いてる?」
途中からメモ帳を取り出したんでリンくんはメモをとっているんだなと、でもこっちが話を中断しても用紙に必死に書き込み続けている。
すごいスピードで書いてはめくってくなぁ。
「やっちゃったねヒラクくん。こうなるとしばらくこっちが話しかけても無視されるよ」
トモさんの指差しのジェスチャーでリンくんの両横から内容を覗き込むと設計図みたいなのを描いてた。
「たぶん、デザインができて暴走が止まっても試作するまではノンストップだから後日また訪ねよう。行こうか」
「はい」
「ところで、小さい頃に怪我しちゃったの?刃物とか怖かったりしない?」
「しばらく包丁とか怖かったっすけど、高校に上がった頃に年下で中学生の幼馴染が料理を覚えていくのにオレだけ得意料理ゆで卵じゃいやだったんです。変なところで負けず嫌いなんで。そっから包丁にはじまり、刃物全般克服しました。ここ数年の話なんで実戦となると銃がメインの方がいいのかなぁ……」
「へぇ……傷跡、見せてもらってもだいじょうぶ?」
「勲章みたいに見せびらかすもんじゃないすけど、どぞ」
「左手の人差し指か。手の甲側、付け根で指を横断する感じ。縫い目の数は3針くらいだね」
研究室の前で立ち止まって、手のひらを重ねたトモさんの親指に、人差し指の傷跡を指先で味見されてるみたいにやさしく何度か撫でられる。
「7歳でした。切った時はむしろ全然泣かなかったんですけどね。病院行って先生に縫いましょうって言われた時に針で傷跡ザクザクされるかと思うと泣いちゃったんです。ベットの上で看護師さん数人に暴れないよう押さえつけられました。でも痛かったのは麻酔まででそこからはケロッと。とんだビビりなんで公安とかの人たちには笑われるかもしれないっすけど」
「しかたないよ。たしかに公安の人たちは責任感が強いけれど、小さいころからそうだった人たちがどれくらいいるんだろ。ほとんどはヒラクくんと同じ。弱さを隠してるだけ。その隠し方が上手になって、自分の武器の一つになる。ヒラクくんもそうでしょ」
「ほんと、隠しててすみませんでした」
「いいよ。でも隠しごとはもうなしにしてね」
「薬指だったら将来は指環で隠せたのかな〜とか時々思います」
手を重ねたままだから小っ恥ずかしくて妙なこと口走っちまう。
「傷跡は残っちゃったかもしれないけれど、アクセサリーみたいに綺麗な傷だね」
両手で手をやさしく包み込んでから、離してくれる。
テンパってる男にこんなことを言ってくれるトモさんがおれはやっぱり好きだ!
まだ残るトモさんの手の温もりと優しさに心臓が高鳴って…… トモさんはオレにとってやっぱり高嶺の花なんかな。
オレのいくぢなち。
ドキドキはしてるし昨日の晩のこともあるけれど、アキさんや剰えフユミの顔が側にあった時の方が高揚感があった気がする。
そっか、顔か!
キスしてしまいそうになるくらいの距離までトモさんと接近できたら。
広々とした石床廊下の絶妙な冷たさが心臓の鼓動と溶け合って身に染みるぜ。
ヒラク、春瀬の退出、70分後──。
「これだ!このデザインだ!どうだぅ……ヒラクくん?春瀬さん?……まぁ、そういうことなら。研究所に戻って試作部に!レジサイドシリーズにふさわしい武器にするぞ……ッ!
リンは赤レンガ棟を後にして、シフ研の本部へと車を走らせる。




