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グレードアップ  作者: エスプレッソ
初日編

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第34話初日 -リン-

 ”シフ研 ハイパー研究員派遣室”、と書かれた表札紙がセロハンでひっつけられた扉の前でトモさんが足を止める。扉の横の壁には、オフィスプレートのところに責任者 真壁 綸とネームプレートが差し込まれていた。

 なんて主張の強い部屋だ。


「失礼します」

「どうぞー!」

「こんにちわ。花木 開くんを連れてきました。(リン)くん」

「おーおーいらっしゃい春瀬さん。そして花木 開くん。待ってたよ」


 白衣に身を包んだ青年が両手を広げて歓迎する。


「花木 開です。よろしくお願いします」

「真壁 綸です。よろしく。ヒラクくんは父には会ってるんだよね春瀬さん」

「はい」

「ならいいね。シフターシンクレディズム研究所の本部長 真壁 嶺司の息子です。苗字でもしかしたら気づいていたかもしれないけど。おれもシフ研の所属ってんで親父と被るからリンって呼んでね」

「わかった、リンくん」

「よしっ。ではさっそく──」

「その前にリンくん。ヒラクくんの特異について報告があります」

「ほぇ?」


 報告を聞いている間も細かく相槌を打ちながら全部を拾い上げようとするリンくんは表情やわらかいし人当たりがいい感じに軽くて馴染みやすい人って印象だ。


「なるほど……ちょっと待ってね」


 報告を一通り聞き終えると、断りを入れて、スマホを取り出したリンくんはどこかへ連絡しているようだ。


「オッケー。ヒラクくん、いくつか検証していいかな」

「はい」

「それじゃあ、まずはオレのスマホに触って」

「ああ、まぁいいけど」

「どれどれ」

「父や母のスマホで試したけど、インストールされなかったんで」

「情報ありがとう。それじゃあ……」

「リーン、スマホとタブレット、それからノーパソ。持ってきーたぞー」

「入っていいよー」

「もー。たまたま赤レンいる予定だったからって私を軽く使いす、ぎ……花木 開……」

「どもっす」

「ヒラクくん。焰火(モカ)ちゃんです」

「花木 開です」

「ども……モカです」

「モカちゃんにはおつかいとそれから検証に少し付き合ってもらえないかなって思って。あ、預かるね」

「はい……」

「ありがとうモカちゃん」


 パッと見はピンクアッシュだと思ったけれど、ミルクティーベージュに薄っすらランダムなピンクのハイライトが入って毛先に向かってパーマがかかっていくロングで艶やかなヘアカラーにクラシカルでガーリーなコーデは普段からそうなのか、それとも赤レンガ棟を意識してのことなのか。

 可愛さを突き詰めたってよりは溢れてるアクティブキュートっていうか若さが煌めいてる感じで性格は穏やかそうだから、好青年なリンくんと並んでると二人のマシュマロ感が半端ない。 

 でもそんなモカさんがオレを見てからテンションが少しぎこちない。

 そうか。

 系統は違うが、ハイセンス同士オレのクレマーなヘアカラーに一目で惚れてしまったか。


「ヒラクくん!」

「はい」

「これは新品のIT機器たち。ぜんぶ君にあげるからプライベート用として使ってね」

「……?」

「もちろん売ったりしてもいいよ!」


 ポンとプレゼントして、お金にしていいよってなに言ってんだリンくん。

 これ全部でいくらする?

 50万くらい軽くいくだろ……幻想の銀河が見える。


「モカちゃんにはヒラクくんの手元を見てて欲しいんだけど」

「はいはい。どうせそんなことだろうと思いました」

「ヒラクくん!ポカンとしてないで、早く起動してみて!」

「……あ、ああ!そういう!」

「ダメだよ!検証だけどそう思わないで、検証結果関係なくそれらは本当にヒラクくんにあげるから!」

 

 リンくんが検証したいことがようやっとわかったわ。

 着目したのは、オレの所有物として認識されているものがどうか、という点だと思う。


 さてお立ち会い。結果は果たして──。


「ききき、きたぁ!!!」

「よっしゃぁ!」


 スマホを起動して初期設定を済ませると、ホーム画面を開いたところで”新しい機体にアプリをインストール グリック10を消費”通知が画面に表示された。

 そして、タブレット、PCも同様だった。


「モカちゃん!どう!」

「……花木くんの手から熱っぽいものが僅かに機器それぞれに伝っていった感じがあります。でも手を離すとそれも一緒に筐体から離れた感じ」

「通知もスマホを手放すと消えたもんね」

「いや、どっちかって〜と触ったから体温が伝わって、手放したから冷めましたって。てっきり発表にあった物を掛け合わせる異象を使うかと思ったのだけれど、もしかしてこれが異象(それ)ってこと?なんか……しょぼくない?」


 しょ、しょぼ……。


「なにを言ってるのモカちゃん!こんな機器への干渉の仕方をする異象は見たことないよ!見た目は派手じゃなかったけれどすごいことが起こってるんだよ!」


 そこからリンくんは渋い顔の治らないモカさんにどれほどすごいことなのかを説き始めた。


「トモさん」

「なに?」

「帰りましょ」

「まだダメだよ」

「なんでですか」

「一番大事な用事が終わってないから」

「じゃあ早く済ませちゃいましょ」


 ……どうせオレの特異は派手じゃないし、しょぼいよ。……スン。

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