第8話 隠されたレター
「前に女風呂を444件のぞいた罪で処刑になった男がいたじゃないですか。そいつが使っていた、"存在感を消す能力"を使うんです!!そうすればムーンは存在感を消したまま、私たちと一緒に聞き込みが出来ます!!」
ニニは胸を張って言い放った。
「しかし、あれは"能力を使った者の存在感"しか消すことができんのだぞ!!」
「え・・・・??」
ニニは張ってしまった胸の行先を見失い、固まった。
しかしすぐさまドラキュラは何かを閃く。
「なるほど・・・・、ニニよ上出来だ!!お陰で良いことを思いついた。あの能力を使おう」
「あの能力・・・・??」
「そうじゃ、何でも良いからどこかにぬいぐるみはないかのぉ・・・・??」
「ぬいぐるみならあるわよ!!」
ムーンが自分のカバンから小さなクマのぬいぐるみを取り出した。
「おぉぉ!!何という想像通りのぬいぐるみ!!それを借りても良いか??」
ドラキュラのキラキラした目に負け、ムーンはぬいぐるみを渡した。
「で、それをどうするのよ??」
「こうするのじゃ!!」
ブチブチブチブチィィィィッッッッ!!!!
ドラキュラはムーンから借りたぬいぐるみの首をもぎ取った。
ザクッ!!ザクッ!!ザクッ!!ザクッ!!ザクッ!!
ザクッ!!ザクッ!!ザクッ!!ザクッ!!ザクッ!!
次に頭と胴体の順番に手を突っ込み、中に詰まった綿を取り出す。
「ええええぇぇぇぇ!!ドラキュラさまご乱心ですか??」
ニニが言うのも無理はない。
「違うわ!!見てお・・・・」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜んんんん」
ドラキュラの声を遮って、ムーンの鳴き声が聞こえてきた。
「どうしたムーン??」
ドラキュラは純粋にムーンが泣き始めた理由がわからなかった。
「私の大事なぬいぐるみがぁぁぁぁ!!お姉ちゃんにもらった大切な大切なぬいぐるみがぁぁぁぁ!!!!」
「・・・・・・・・」
ドラキュラは固まってしまった。
自分はムーンのために頑張ろうとしていたのに、肝心のムーンが泣いているからである。
自分のした酷いことについて、全くピンと来ていないのである。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん!!!!」
そんなドラキュラをさらに困らせんとばかりにムーンは大声で泣き続ける。
「そりゃそうなりますよ・・・・」
ニニも流石に呆れている。
「ちょ・・・・、ちょっと待てムーンよ!!これは、お前の姉を助けるためにしていることなんだ!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん!!!!」
そんな話しったこっちゃないと言わんばかりの泣き声である。
「このままでは埒が明かない。・・・・でドラキュラさま、ここからどうするつもりなんですか??」
ニニは鳴き声の響く中、強引に質問した。
「お、おぉ・・・・。見ておれ、このぬいぐるみに、この前手に入れたこの能力を使う!!」
ポワワワワワワワワワワ〜〜ンン!!!!
何と頭と胴体に引き裂かれたぬいぐるみがどんどん大きくなっていくではないか。
そしてぬいぐるみは、あっという間に着ぐるみへと変化した。
「ふふふふ、見たか!!これは服のサイズを大きくしたり、小さくしたりする能力じゃ(第一話参照)!!もしかしたら繊維であれば服でなくてもいけるのではないかと思って試してみたのじゃが、やはり思った通り成功だ!!どうじゃムーンよ、この着ぐるみの中に入っていれば、身バレすることなく俺たちと一緒に街を探索するぞ!!」
ドラキュラは自分のアイデアに鼻を高くした。
そして、これで涙も止まるだろうと自信満々にムーンの方を見た。
しかし・・・・。
「うえぇぇぇぇぇぇんんんん!!私暗くて狭いところ苦手なのぉぉぉぉ!!!!」
ムーンはさらに追い込まれた。
「わわわわわわ・・・・・」
これには流石にドラキュラも動揺する。
「と・・・・、とりあえず下だけでも着てみたらどうだ??」
ドラキュラは着ぐるみの胴体を右手に、頭を左手に持ってムーンに近づいた。
そして胴体を持った右手をムーンに差し出した。
「嫌だぁぁぁぁ!!!怖いぃぃぃぃぃぃ!!」
ムーンは手をジタバタさせて泣き喚く。
バシンッ!!
その手がドラキュラの左手に持っていた頭に当たった。
カサッ・・・・
着ぐるみの頭から可愛らしいデザインの封筒が落ちてきた。
表には・・・・。
ムーンへ
と書かれていた。
繊維を拡大縮小するこの能力は紙には作用していなかったらしく、封筒は手のひらサイズのままであった。
「どうやらお前宛てのようだぞ・・・・」
ムーンはコクリと頷き封を切った。
涙は止まっていた。
"愛する妹、ムーンへ
もしかしたらこの手紙を見つけることなくあなたは幸せに暮らしているのかも知れません。
でも、もしこの手紙を見つけたのならごめんなさい。
私の本当の気持ちを・・・、あなたに知って欲しいと思います。
私にはクンという愛する人がいます。
クンとは学生時代からの仲です。(もしかしたら、ムーンにも会わせたことがあったかも・・・)
だけど残念なことに、私はホッカ王国の三番隊隊長ボリべから寵愛を受けてしまいました。
その時に、この誘いを断ればクンの命はないと脅されました。
さらにはあなたの身にも危害が及ぶと言われました。
だから私はボリベと結婚することを決めました。"
ここから先の文章はこれまでの文章以上に滲んでいた。
"だけど・・・、本当はクンと結婚したかった。
いつかはムーンの結婚もお祝いしてあげたかった。
でも、もうそれらは叶わないこと。
それでもこの溢れそうな思いを私の中だけにはとどめておけなくて、
こうして手紙を書いてしまいました。
この手紙を読んだのなら・・・、それでこの手紙の存在意義は果たされたことになります。
この手紙を読んでムーンに何かをして欲しいとかではないの。
ただ、行き場のない願いを吐き出したかっただけ・・・。
それだけ。
この手紙を読んだムーン・・・・、ごめんね。
あなたは幸せになってね。"
手紙の滲んだ文字が、ムーンの涙でさらに滲んだ。
「無理矢理結婚を強要したホッカ王国の隊長と、それを阻止しようとして罪人となった女・・・か」
「ってことはドラキュラさま、本当の罪人っていうのは・・・」
「ボリべだな!!」
ドラキュラは噛み締めるように言った。
「ねぇ、ドラキュラ??」
ムーンはドラキュラのマントの裾を優しく摘まんで言った。
「何だ??」
「あなたって強いの??」
「強いぞ!!」
「じゃあさ、私この着ぐるみ着るからさ・・・」
そこでムーンの声が震え始めた。
「お姉ちゃんを助けてください!!!!」
ムーンの瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「助けてやるさ!!姉ちゃんだけでなく、お前もな!!」
ドラキュラはそう言ってムーンを見た。
「ありがとう・・・・」
震える声で、だけどしっかりと聞き取れる声で、ムーンは感謝の気持ちを伝えた。
ムーンの涙が止まらなくなった。
「私、人前で泣かないって決めてたんだよ!!!!」
その言葉を聞いて、ドラキュラは何も言わずに頷いた。
カポッ!!!!
ドラキュラはムーンに着ぐるみの頭を被せた。
「これで誰にも邪魔されずに泣けるだろ??」
ドラキュラはつぶやくようにそっと言った。




