第9話 上司が好戦的なのだが
「ゼェ〜〜、ゼェ〜〜、あづいぃ〜〜、あづいぃ〜〜」
あれほどまでに感動的な決意を見せて着ぐるみを着たムーンであったが、口からは今にも"そんなことありましたっけ??"という言葉が飛び出してしまいそうだった。
「ムーン、なんだかカッコ悪いですよ!!」
そんなムーンをニニは黙って見ていられなかった。
「うるさいわね!!あんた着ぐるみの暑さをバカにするんじゃないわよ!!」
激怒しているように思えるがムーンは暑さでヘロヘロ。声もなんとか聞き取れるといった状態であった。
「ムーンよ、もう少しの辛抱だ!!」
ドラキュラたちはとっくにホッカ王国の城下町に到着し、聞き込みを始めていた。
しかし、みんなボリべのことを知ってはいても、"今どこで何をしているのか??"までは全く知らない。
2時間に及ぶ聞き込みも成果はゼロであった。
「もぉぉぉぉ〜〜〜〜、いつまでこんなちまちま聞き込みしなくちゃいけないわけ??」
「有益な情報が手に入るまでですよ!!」
「落ち着いて考えてみたらさ、3番隊隊長のプライベートなんて一般人が知っているわけないじゃない!!」
「・・・・」
ドラキュラとニニは顔を見合わせ、"確かに"と思った。
「では、作戦を変えなければいかんな!!どうすればよいだろう・・・・??」
「どうすれば良いですかね・・・・??」
「どうすれば良いのかしら・・・・??」
あてもなく3人が町中を歩いていると・・・・。
グイッ!!
3人は突然伸びてきた手によって路地裏へと引き込まれた。
「痛たたたた・・・・。何ですかいきなり、こんなところに引きずり込むなんて」
「賊か何かか??構わんぞかかって来い!!相手になってやる!!」
臨戦体制に入ったドラキュラであったが、相手はというと・・・・。
「ち・・・、違うんだ!!君たちの聞き込みの内容をたまたま小耳に挟んでしまい、聞きたいことがあってこんなことをしてしまったんだ!!」
3人を引きずり込んだのは屈強そうな男であった。
口調は物腰柔らかく、見た感じ穏やかそうな雰囲気。
だからこそ、こんなことをした理由を不思議に感じたのである。
「こんな手荒な真似をしなくても、普通に話かけてくればよかったのではないですか??」
「それはごもっともだ・・・・。しかし、出来ないんだ!!君たちに聞きたいことは、あまり人に聞かれたくないことだから・・・・」
「もういい!!もったいつけてないで早く言え!!」
ドラキュラは収穫のない聞き込みのせいで、少々イライラしていた。
「すまん!!俺の名前はクンって言うんだ・・・」
『!!!』
「どうしたんだ??」
クンは3人の目が"クワッ"と見開いたのを見て、話の途中であったがつい聞いてしまった。
「クンって言ったらサンの・・・・??」
ニニがそう言うと食い気味にクンが言った。
「サンを知っているのか??」
「知っているも何も・・・・」
そう言ってドラキュラは着ぐるみの方を見た。
しかし、ムーンが何も話さない様子を見て、みなまで言うのは控えようと判断した。
「もしかして君たちはサンのお友達か??」
「う〜ん・・・・、まぁ、そんなところだな・・・」
ドラキュラの歯切れは明らかに悪かったが、クンは全く気がついていない。
それよりもサンの知人に出会えた喜びの方が強いようであった。
「サンを知っていて、ボリべのことを聞き回っていて・・・・、もしかして君たちは出席するのかい??」
『出席??』
ドラキュラとニニが声を揃えて訪ねる。
「そうだよ!!サンとボリべの結婚式だよ!!」
『!!!!!!』
3人は顔を見合わせた。
「え??その様子だと君たちは知らなかったのかな??」
『!!!!!!』
"ヤバい、これ以上下手なこと出来ないぞ"
3人は顔を見合わせながら同じことを考えた。
「ってことは、もしかして・・・君たちも僕と同じボリべに恨みを持っていたりするの??」
「恨み・・・・??」
「ははは・・・・。流石に違うか。実はさ・・・、恥ずかしい話なんだけど、僕、先月までサンと付き合っていたんだよね」
クンの顔が急に寂しそうになった。
「だけど、サンがこの国の3番隊隊長であるボリべに目をつけられてさ・・・・。僕に身の危険が及んでいるのを知ったサンは僕を守るためにボリべと結婚することを選んだんだ」
クンの頬を涙が伝い始めた。
「でもさ・・・・、やっぱり納得出来ないんだよ!!こんなことでサンのことを忘れられるわけがないじゃないか!!僕に別れの言葉を言った時のサンの顔がとても悲しそうだったんだよ・・・、あの顔を思い出す度に僕に何か出来ないかって気持ちになるんだ!!」
3人はクンを見守るように聞いている。
「だから僕は決めたんだ!!」
「何をだ??」
「サンを助けに行くって!!」
「え??」
ニニは眼球が全て外に飛び出てしまいそうなほど驚いた。
目の前ではクンが覚悟を決めた男の顔をしていた。
「結婚式に乗り込んでサンを取り戻すとか言い出すんじゃ・・・??」
「その通りさ!!」
"あぁ、これは言っても聞かなそう・・・・"と、ニニは察した。
「ただ、どうやらそんな僕にも運が向いて来たようだ」
「運が向いて来た・・・・??」
ニニは"もしかして"と思いながら聞き返す。
「そう!!君たちだ!!君たちもサンの友人として、心配だったからホッカ王国にまで様子を見に来たんだろ??」
"ヤッパリ・・・・"
ニニの考えは当たっていた。
そして次に言われるであろう言葉も何となくわかっていた。
「サンを取り戻すのを手伝ってくれないか??」
"ほらヤッパリ・・・・"
ニニの考えは再び当たった。
もちろん、サンは目の前にいるマントをまとった男がドラキュラであることなど知らない。
一国の主人を祖父に持つ、世界トップクラスの処刑人であることも。
だからこんな簡単にお願いが出来たのだ。
しかし、知らないとはいえクンのあまりにも無礼極まりないお願いに、ニニは我慢が出来なかった。
自分達の素性を明かすのはやめておこうと決めていたニニだったが、ついに我慢の限界を迎えたのである。
「あのですねぇ・・・・」
ここからニニがサンの愚行をとてつもなく捲し立て、日が暮れるまで反省と謝罪をしてもらう・・・はずであったが・・・。
「いいだろう」
そんなニニの想いを吹き飛ばすかのように、ドラキュラは二つ返事で了承した。




