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第66話 悲劇のはじまり

「がふっ・・・」

 それは一瞬の出来事だった。

 誰もがツシカが三男に勝利する場面を想像していた。

 しかし今、三男はもがきながらも生きている。

 そして三男の目の前には、お腹を一突きされ、今にも息絶えてしまいそうなツシカがいた。

 ツシカは、切り口や口から大量の血を流していた。

 あまりにも衝撃的な映像は一同の理解を置き去りにした。

 そんな一撃を喰らわしたのが・・・


「カラカラカラ!背中が隙だらけだ!」

 ツシカを背後から襲ったのは次男だった。


 ポタッ・・・、ポタッ・・・

 ツシカを背後から貫いた刀の先からは真っ赤な血がしたたった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 一瞬で起きたあまりの惨劇にムーンは悲鳴をあげた。


「バカな・・・いくら油断していた・・・とはいえ・・・全く・・・気づかずに・・・背後を・・・とる・・・なんて・・・」

 ツシカは後ろを振り向き、力を振り絞りながら次男に話しかけた。


「カラカラカラ!勝利を確信したヤツほど隙だらけになる!覚えておくんだな・・・と言っても、もう命が尽きるのだ、覚えておいても意味はないがな」


 ガクッ・・・

 ツシカは膝から崩れ落ちた。

 ニニはの瞳に映ったツシカの目は焦点が合っていなかった。


「ツシカ!!!おいっ!おいって!返事しろよ・・・」

 シナがツシカに駆け寄り何度も呼びかけた。

 しかし、ツシカは反応を示さなかった。


「そ・・・そんな・・・ツシカさん・・・」

 ニニの声が震えていた。


「・・・・・・」

 ドラキュラはただ静かに動かなくなったツシカを見つめていた。

 その表情は、ツシカの状態を真っ向から受け止めているように見えた。


 サクン、サクン、サクン!!!

 次男が刀を振ると三男を縛り付けていたトリモチグモの糸が切れた。


「バカな・・・あれだけもがいても切れなかった糸をいともたやすく・・・」

 シナはツシカを抱きかかえたまま、目の前でその様子を見ていた。

 飛んで来た糸のかけらを指で触ってみて、改めて簡単には切れなさそうだと思った。

 そして次男の刀の凄さに驚いた。


「オラオラオラ!だから言ったろ、この前の俺たちとは違うって・・・」

 長男がいじらしく笑いながら言った。

 そんな長男とは対照的に次男は落ち着いていた。


「キラキラキラ!兄ちゃんありがとう!」

 トリモチグモの糸から解放された三男は、次男に感謝を伝えた。


「カラカラカラ!兄弟なんだから当たり前だ!」

 次男は三男から感謝の言葉を受け、どこか照れくさそうだった。

 少しすると二人はドラキュラたちへと体を向けた。


「お前らぁぁぁ・・・、よくも俺の大切な仲間を・・・」

 シナは怒りに震えていた。


「シナさん・・・」

 ニニは、シナのいつもの軽いノリとは違う真剣な表情に驚いていた。

 それと同時にシナがツシカをしっかり仲間と思ってくれていたことが嬉しかった。

 もちろん、それでも笑みは溢れなかった。


「坊っちゃま・・・お待ちを・・・」

 シナをいなしたのはチヨ婆だった。


 パキッ・・・ポキッ・・・ペキッ・・・

 チヨ婆は両手の関節を鳴らしながら準備運動を始めた。

 そして、そのままシナの前に立った。


「こんなに悲しい顔をされる坊っちゃまを見たのは初めてです・・・。さぞ、お辛いでしょう・・・」


「チヨ婆・・」


「坊っちゃまを悲しませるような輩は、この私が許しません!」

 チヨ婆は険しい表情で構えをとった。


「キラキラキラ!お前もそこの男のようにあっという間にあの世に送ってやるよ・・・」

 ドラキュラは首を傾げながら成り行きを静かに見守っていた。


「オラオラオラ!お前みたいな老婆に何が出来る?さっきまでこんな欠陥だらけの弱っちぃ家で隠居生活を楽しんでいたくせによ!」


「・・・・・」

 チヨ婆は長男の言葉に何も反応しなかった。

 我慢していたのではない。

 純粋に耳に入って来なかったのである。

 それほどまでにチヨ婆は集中していた。


 フゥゥゥゥゥゥ・・・

 チヨ婆は深い呼吸をした。

 宙を舞う木の葉たちが動きの激しさを増した。


「キラキラキラ!俺はもう油断しねぇ!若い貧弱そうな男だろうと、スローライフを満喫している老婆だろうと全力で叩き潰す!」

 そう言いながら、三男はチヨ婆との距離をジリジリと詰めてきた。

 それに合わせるように、チヨ婆もジリジリと三男に近づいていった。


 ゴクリ・・・

 周りは二人のせめぎ合いを静かに見守っていた。

 少しずつ近づいていく二人。

 先に仕掛けたのは三男の方だった。


「キラキラキラ!最初から全力で行かせてもらうぜ!」


 棍輪罪(こんりんざい)

 ブオォォォンッ!!ブオォォォンッ!!ブオォォォンッ!!

 三男はツシカの時以上の速さで棍棒を持った腕を振り回しながらチヨ婆に迫ってきた。

 迫り来る三男に怯む様子を見せないチヨ婆は、地面に落ちていた手のひらサイズの石を拾った。

 そしてそのまま三男に向かって投げた。

 石は三男の回転する手に弾かれ地面に叩きつけられ砕けた。


「キラキラキラ!そんな攻撃で俺の技が止まるとでも思ったのか?」

 三男はどんどんチヨ婆との距離をつめていった。


「いやね・・・お主が棍棒を振り回すから確信し辛くてさ・・・」


「キラキラキラ!何をブツブツわけのわからんことを言っている?」


「だから確信しづらかったんじゃよ・・・お主のその手の動きの速度がな・・・判断が間違っているとイヤじゃからのぉ、念のため石を投げてみたんじゃよ・・・そうすれば、弾かれた石の速度を見て合っているかの確認が出来るじゃろ?」


「キラキラキラ!本当に何を言っているんだ・・・お前は・・・」

 三男はチヨ婆の言葉が理解出来なかった。

 しかし、真っ直ぐな瞳で語るチヨ婆に何か恐怖のようなものを感じ始めていた。

 それでも、その恐怖が三男の手を止めることはなかった。

 チヨ婆もまた三男に恐れることなく近づいていった。

 そして、三男の攻撃範囲にチヨ婆が入った。


「キラキラキラ!この一撃で終わりだぁぁぁ!!!」

 高速回転する棍棒がチヨ婆を捉えた。

 しかし・・・


 ガシッ!!!

 チヨ婆は三男の回転する手を片手で掴んだのであった。


「キラキラキラ!何・・・?」


「じゃから言ったであろう。お主の攻撃の速度が分かったと・・・」


 ググググググ・・・

 三男は掴まれた手を必死で払おうとするが、全く動かない。


「非力よのぉ〜」

 そう言い終わるとチヨ婆は再び大きく呼吸をした。

 そして、三男の手を左手で掴んだまま右手に力を込めた。


 崖岩砕壊拳(がいがんさいかいけん)


 ドボゴォォォォォォ!!!

 チヨ婆の強烈な拳が三男の腹に命中した。

 そのまま三男は木々を薙ぎ倒しながら吹き飛び最後に気絶した。


「殴ってくださいと言わんばかりにお腹がガラ空きじゃったから、ついのぉ・・・」

 チヨ婆は笑った。

 チヨ婆は三男に勝利した。

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