第62話 ターカミにて
絶望と悲鳴の夜が明けた。
「うぅぅぅ・・・」
シナが目覚め悪そうにテントから出て来た。
「あぁぁぁ・・・」
ニニも悶えるような声を上げながらテントから出て来た。
「ふぅぅぅぅぅ・・・」
シナは息を整えるように深呼吸しながらテントから出て来た。
「オゲェェェェェ!!!」
ムーンはテントを出てスグにえずいた。
「イッチ、ニ、サン、シ!!!」
ドラキュラは、そんなみんながテントから出てくるのを眺めながら準備運動をしていた。
「何でそんなに元気良いんだよ!!!」
シナが一晩かけて溜め込んだ苛立ちを開口一番ドラキュラにぶつけた。
「逆に聞くが、お前らは何故そんなに辛そうなのだ???」
「お前の中途半端な能力のせいだろうが!!!」
ごもっともであった。
しかし、ドラキュラは"何を言っているのだ・・・???"と言った表情だった。
もちろん、とぼけているのではない。
本気で分からないのだ。
「ドラキュラさまは、お身体なんともないのですか??」
シナとは違い、体調は優れないが落ち着きのあるニニが聞いた。
「当たり前だろうが!!!こんな毒、一晩寝れば治る!!!」
名言のように胸を張って言ったが、誰一人として共感出来なかった。
「朝から言い合いはやめてください!!!切り替えていきましょう!!!それでですが、私たちの本来の目的って何でしたっけ・・・???」
ツシカのいなし方は最高だった。
「チヨ婆さんに会うためにターカミに向かうんでしたよね???」
「その通りだ!!!」
スイッチが入ったのか、シナが立ち上がった。
「昨日はテントが掛かっていたのでバチバチだったが、今日からはまた仲間だ!!!よろしくな!!!」
ドラキュラの言葉には熱血さが若干とて混んでいた。
みんなにはそれが何だかむず痒かった。
しかし、その熱さは嫌いではなかった。
一人一人が周りと顔を見合わせてニヤリと笑った。
"やってやるよ"と言わんばかりに。
「それでは出発しましょう!!!」
昨日の司会が抜けていないのか、ニニが仕切るようにして声を掛けた。
グッ・・・
全員が一歩踏み出した時である。
「あれっ・・・???何だか体が軽い・・・???」
ニニが一番初めに気がついた。
色々使ったことによって、みんなの荷物が減って軽くなった・・・???
昨日は地面がぬかるんでいたが、今日は乾いていて足に力を入れやすい・・・???
そうではなかった。
もっと言えば、一晩中嘔吐していたのだから体調は良くないはずである。
なのに、ニニ以外の者も足取りが軽いことを実感していた。
「もしかしたら、これも奇跡の木の恩恵かもしれねぇな・・・」
シナの言葉には説得力があった。
「これなら、今日は結構飛ばせそうですね・・・???」
ニニが言った通り、この日は全員の移動速度が倍近くにまで上がっていた。
疲労感を感じることもなく、休憩なども必要としなかったため、距離を稼ぐことが出来た。
結果・・・
「まさか、今日の内についてしまうとは・・・」
一行は予定よりも1日以上早くターカミに着いたのだった。
「自然との共存といったところね・・・」
ムーンの言う通り、周りの建物はログハウスのような作りで、街の中には大きな木が何本も生えており、その木の上に建物があるところもチラホラ見られた。
しかし、街全体はこぢんまりとしており、家も10軒あるかないかと言ったところだった。
町と言って良いのか、村と言った方が良いのか悩みどころではあるが、自然豊かな雰囲気が"村"と表現するのにはしっくりときた。
「あれっ・・・見ない顔ね、お客さん??」
第一村人のテンプレートのような質問をされた。
「チヨ婆に会いに来たんだ!!!」
「えっ・・・???シナさま・・・???こ・・・これはご無礼を・・・」
第一村人はシナを見るや否や、言葉からフレンドリーさを取っ払い、礼儀正しくなった。
「いいよ、いいよ、そんなにかしこまらなくて!!!俺はそういうの苦手なんだ!!!」
そんなやりとりを聞きつけて、周りの家から村人たちが次々に外に出て来た。
「シナさま!!!」
「シナさまじゃねぇですか??」
「シナさまお久しゅうございます」
出てくる者たちみんなシナに挨拶をした。
ドラキュラたちはシナがガサ王国の王子だということを改めて実感した。
「誰かチヨ婆がどこにいるか知らないか・・・???」
その言葉を聞いて村人たちの空気が変わった。
「チヨ婆さまは今、村にはいません・・・」
「どこに行ったんだよ???」
「クホーの祠です!!!」
「何でまた・・・???」
「なまった体を鍛え直すためとおっしゃっていました。何でも近々大きな戦が起こる予感がするとか何とか・・・」
「いつぐらいの話だ・・・???」
「5日ほど前です!!!」
「チヨ婆やる気満々じゃねぇか!!!」
「何だか満面の笑顔で出ていかれました!!!」
「じゃあ俺たちも追いかけようぜ!!!」
「シナさまお気をつけください!!!近頃この辺りで獰猛な獣たちが原因不明の死を遂げているのが相次いでいます!!!チヨ婆さまの話ではないですが、何か嫌なことが起ころうとしている予兆かもしれません!!!」
「・・・ドラキュラ、急ごう!!!」
シナの声に従ってドラキュラたちはターカミの村を出てクホーの祠へと向かった。
「祠へはどのくらいかかるのですか???」
真剣な眼差しで歩を進めるシナに、ニニが質問をした。
「安心しろ!!!数時間も歩けば到着する!!!」
シナは全員を安心させるために言ったのだが、ニニやムーンは"数時間かぁ〜"とシナにバレないように心の中でため息をついた。
「・・・な、着いたろ??」
あっという間にクホーの祠に着いた。
しかし、それでもニニとムーンは息を切らしていた。
「でも、誰もいませんね・・・???」
ツシカは辺りを見回しながら言った。
こぢんまりした祠には人の気配がなく、綺麗に整えられた祭壇が寂しそうに佇んでいた。
「コレ見てください!!!」
不意に大声でニニが言った。
全員がニニの指差したものを見ると、そこには血痕があった。
よく見るとその血痕がポタポタとしたたり、祠の外へと続いていた。
「この先は・・・まさか・・・」
シナがつぶやいたかと思うと、次の瞬間、血痕の続く方へと走っていった。
ドラキュラたちは、何も分からないままとりあえずシナを追った。
「この先に何があるんですかね・・・???」
「分からん!!!ただ、シナのあの様子を見る限り、ただ事ではない何かが起きたのかも知れない!!!」
そんな話をしている内に、追いかけたシナが立ち止まっているのが見えた。
『こ・・・これは・・・』
全員が驚きを隠せなかった。




