第61話 奇跡の木
『こ・・・これは・・・???』
ドラキュラの料理が美味しかった謎を解明すべく、全員がドラキュラの厨房に向かったのだが、そこで見た光景に全員が驚いた。
「ふ・・・普通・・・だ・・・」
シナはドラキュラの厨房を見て、自分の厨房と何ら変わりがないことに驚いた。
自分の料理よりも遥かに美味しかったドラキュラの料理、そこには調理をする上で何かしらの工夫がなされていると考えていたのだが、見るからに何もないのである。
「いや・・・むしろ綺麗すぎるくらいです・・・」
ニニがシナに被せるようにして言った。
ドラキュラは食材を焼いただけであった。
そのため、厨房をほとんど使っていなかったのである。
「ちょっと待ってくださいよ・・・」
ここでツシカが気づいた。
「どこで焼いたのですか・・・???」
厨房に備えられたグリルには使われた痕跡がなかった。
「食材が大き過ぎたので向こうで火を焚いて焼いたのだ!!!」
ドラキュラが指差した先には確かに焚き火をした跡があった。
焚き火の場所には、まだ煙がほのかに立ち込めていた。
その焚き火を挟むように大きな木が2本立てられており、その二本に木が橋のように掛けられていた。
ドラキュラは、その木に獲ってきた獣を吊るして焼いたのだ。
全員が味の秘密を見つけたくて、その焚き火跡に近づいた。
「確かに焚き火はドラキュラさま以外、誰もしていませんでしたが、だからと言って特段旨味に繋がるような変わったところがある訳でもなさそうですね・・・」
「そうだな・・・むしろ旨そうな香りなんて一つもありゃしない・・・」
「えぇ、無臭ですね・・・」
と、ツシカが言ったところでニニが気づいた。
「おかしくないですか???」
「何が・・・???」
ニニの質問の意図が分からずシナが問い返した。
「まだ煙は上がっているのに無臭だなんて・・・???」
「確かに!!!少なくとも煙の匂いはするはず・・・。だけど、そんな匂いでさえも全くない・・・」
「おぉ!!!そうだそうだ!!!忘れていた!!!」
ツシカの言葉を聞いてドラキュラは何かを思い出した。
パチン!!!
ドラキュラは指を鳴らした。
そして、解除し忘れていた能力を解除したのだった。
ブワァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
ドラキュラが能力を解除すると同時に、辺りに強い風が吹いた。
『!!!!!!!!』
その風に吹かれた全員が驚いた。
「この香りは・・・???」
ニニが言った。
「あぁ・・・ニニに同じだ!!!」
シナが言った。
「やっと謎が解けましたね・・・」
ツシカが言った。
「ふっ・・・やってくれるじゃない!!!」
ムーンが言った。
「すまん!!!俺の料理がお前たちの料理の香を邪魔してはいけないと思って、焚き火の周りに香を封じ込める透明なバリケードを貼っていたんだった・・・」
バリケードを外した瞬間から、優しくて芳醇で食欲をそそる香が当たりを包み始めた。
「コレですよ!!!私たちを虜にした香です!!!」
そう言って鼻をスンスンしながら、ニニは香りがより強く出ている場所を探し始めた。
「この焚き火の木はどこから・・・???」
ニニはまだほんのり煙の出ている燃えた木を指差した。
「あぁ・・・、それはちょうどコッチに戻ってくる途中で良さそうなのを見つけたので持って来て使ったんだ」
そう言って、ドラキュラが指差した数百メートル先を全員が注目した。
すると鬱蒼としたジャングルの一部分が神々しく光っているのが見えた。
それはとても小さな光で、指で差されてもスグには見つけられないほどであった。
「キレイ・・・」
ムーンが思わずこぼした。
「あれは奇跡の木じゃないか!!!第二ガサ王国にのみ存在すると言われている伝説の木・・・。数年に一度、いや数十年に一度生えるかどうかも分からない木だ!!!そんなレア中のレアな木が、今日この日に生えていたというのか???信じられん!!!俺だって生えている状態を見るのは初めてだぞ!!!」
「ドラキュラさまは、そんな木を使って焚き火をして、肉を焼いたと・・・???」
「そういうことだ・・・。奇跡の木は、昔から多くの奇跡をもたらして来たとされている。ドラキュラがその木を使ったことで、単純な食材に奇跡が起こり、高級食材を凌駕するほどの香と味を手に入れたとしても可笑しくはない」
「はははは・・・そこまで運があるともう笑うしかないね!!!」
ツシカは引きつりながら苦笑いした。
自分の勝利が遠くなって行くことが無念でならなかった。
「作る料理や出す順番が大切なように、使う道具も大切なもの。そこに幾つもの運が重なった・・・。その流れも、言い方によってはドラキュラが機転を効かせたとも言えなくはない・・・」
シナはドラキュラの運の良さに悔しさ半分、憤り半分を感じていた。
「え・・・え・・・え・・・あれっ・・・俺の料理って・・・絶賛されている・・・???」
コクコク
黙って全員がうなずいた。
「ってことはもしかして・・・」
ドラキュラが声を振るわせながらニニに尋ねた。
"やれやれ"といった様子を見せた後、ニニが声を大にして言った。
「ということで先ほどの結果発表は仕切り直しです!!!改めまして、"第一回誰が一番上手い食材を取って来れるか勝負"優勝者はドラキュラさまだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「おぉぉぉぉぉぉっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ドラキュラはガッツポーズをして喜んだ。
「最後の最後までどんでん返しが止まらなかったな・・・負けたのは悔しいが面白かったぜ!!!優勝おめでとう!!!」
シナはドラキュラに手を差し伸べた。
ドラキュラもスッと手を出し、二人は握手をした。
「ニニさんに勝った時点で優勝したと思った自分が恥ずかしい・・・とはいえ、はぁ〜・・・自信あったんだけどなぁ・・・まさかドラキュラさまに負けるなんて。でも、優勝おめでとうございます!!!」
「ドラキュラさま、お見事です!!!運まで味方につけるなんてズルいですよ!!!でも、それでこそドラキュラさまですね!!!」
ツシカもニニもドラキュラを称賛した。
「それでは優勝したドラキュラさまに一言いただきたいと思いまぁぁぁす!!!」
ドラキュラはニニに向けられたマイクを取った。
「みんなありがとう。何だか知らないうちに優勝してしまった・・・。しかし、ここにある料理全てがとても美味しかった!!!料理の知識などほとんどない俺が勝てたのは奇跡以外の何者でもない!!!純粋な実力勝負では優勝など夢のまた夢だっただろう!!!とは言え、そんな奇跡を手繰り寄せることが出来たのは、日頃の行いが良かったかららだと思う・・・。そうだ、俺に勝因があるとすれば、それは日頃の行いの良さだろう!!!」
「処刑人が日頃の行いが良いとか言うなぁ〜!!!」
シナのヤジが会場をさらに賑やかにした。
「では、ドラキュラさま・・・優勝商品である快適テントをご利用くださいませ!!!」
「うむ・・・早速使ってみるとしよう!!!」
ドラキュラがテントに向かおうとした時だった。
グギュルルルルルルルル
不協和音のような音が聞こえた。
それも一度ではない。
何度も聞こえたのである。
それはお腹の鳴る音であった。
『あ痛たたたたたたたた・・・』
その場にいた全員がお腹を抑えながらうずくまった。
「来たか・・・」
苦悶の表情を浮かべながらそう語るドラキュラに、ニニがスグさま反応した。
「来たというのは・・・???」
「腹痛だ!!!腹痛!!!いわゆる食当たりだ!!!」
『はあ〜???』
全員が口を揃えてキレた。
「だってドラキュラさま"毒のある食材も俺に任せておけば大丈夫"みたいなこと言ってませんでしたっけ???それに実食前に全ての料理に能力を使って処理をしていませんでしたか・・・???」
ニニは状況が理解出来ないまま確認の尋問を始めた。
「あぁ、言ったぞ!!!それに能力もちゃんと使った!!!」
「なら何で・・・???」
シナもお腹を抑えながら精一杯の声で、苛立ちも込めながら問いただした。
「だから、言ったであろう。毒を食べても大丈夫になる能力だと!!!」
「だからぁ〜・・・」
シナはドラキュラの理解力の無さにイライラの限界を迎えようとしていた。
「毒を食べても大丈夫になるだけで、食べた毒がなくなる訳ではない!!!この能力では、体が毒を外に出そうとする行為を止めることは出来ん!!!」
『それ早く言ってよぉぉぉ〜〜〜!!!』
それから全員朝まで野原で腰をかがめ、肛門がはち切れんばかりに力み続けた。
出るものが全て出ても腹痛は治らず、獣たちが萎縮するほどの悲鳴が一晩中鳴り響いたという。
この日、テントで寝たものは誰一人もいなかった。




