第60話 美味しいと言ってくれ
「"もう良くね??"だと・・・。全くもって良くない!!!何故、俺の料理を食べずに結果発表に行こうとしている!!!」
ドラキュラの意見はごもっともなのだが、いかんせん持ってきた食材が意味不明な動物である。
全員がドラキュラにニニやツシカ以上の料理を期待出来なかった。
「ま・・・、まぁ・・・ドラキュラさま・・・。ここで終わっておいた方が、ドラキュラさまも傷付かなくてすむと思うんですよね・・・」
ニニはあくまでも"ドラキュラのために"を匂わせながら、優しくフォローした。
「俺は負けてもいっこうに構わん!!!負けることよりも勝負しないことの方が恥だ!!!」
それでも周りのみんなは納得出来ない表情だった。
しかし、ニニはドラキュラの言葉を聞いて、自分の言ったことに反省したのである。
ドラキュラはこういう男。
勝ち負けでカッコ良いだとか悪いだとかを決めない。
そんなカッコ良い男なのだ。
自分のしたことは、そんなカッコ良い男を侮辱するようなカッコ悪いことなのだ。
ニニは、次第に自分のしたことが許せなくなって来た。
しかし、おいそれと手の平を返したかのように歩み寄るのは、それはそれで気恥ずかしいところがあった。
「で・・・では・・・。ドラキュラさまもせっかく料理を作ったことだし、実食しませんか???食べ物を粗末にしてはバチが当たりますよ・・・」
ニニの言葉に全員が渋々納得した。
それはドラキュラの料理を食べることに納得したのではなく、実食しなければ食べ物を無駄にしてしまうという言葉に共感したからであった。
消化試合
実食する全員の頭に浮かんだ言葉であった。
『パクッ・・・』
ニニ、ツシカ、シナ、ムーンがドラキュラの料理を食べた。
皮肉なことに、今までの実食と違い誰が一番先に食べるかで足踏みをすることはなかった。
何故なら、全員が早く終わらせたいと思っていたからである。
この料理を食べたところで何も変わらない。
そもそも美味しいというレベルにすら到達していない可能性もある。
各々がネガティブな構想を浮かべながら手と口を進めた。
モグモグモグモグ・・・
誰も何も喋らない。
ただただひたすらに食べている音が聞こえるだけであった。
なぜなら、全員がこの料理をどう評価すれば良いのか分からなかったからである。
美味しくない・・・
からではない。
美味しい・・・
のである。
ドラキュラの作った料理がとてつもなく美味しいのである。
だから全員が困った。
『えっ・・・???何これ・・・???めっちゃ美味しいんだけど・・・!!!でも、あそこまで言ってしまったから今更美味しいとか言いにくくね・・・???頼む、誰でも良いから美味しいと言ってくれ!!!誰かが口火を切ってくれれば、スグに乗っかるから。頼む、誰か言ってくれ!!!美味しいと言ってくれ!!!』
全員が誰かの"美味しい"を待つ状態が続いた。
その間も食べる手は止まらない。
「他の奴らの時と違って誰も何も言わないな・・・???やはり、美味しくなかったか???やはり俺にはみんなより美味しい料理を作ることは出来なかったのか・・・???自信はあったのだがな・・・そんなに甘くないか・・・」
ドラキュラはみんなが何も言わずに食べ続ける様子を見て肩を落とした。
このままではいけない
実食していた全員が思った。
美味しいとは言いたくない。
でも、何か言わなくては・・・
そんな葛藤の中、口を開いたのはニニだった。
「あ・・・、あのぉ〜・・・、味の感想の前に聞いても良いですか???」
「おぉぉぉ!!!何だ???何でも聞いてくれ!!!」
ドラキュラはものすごい勢いで飛びついた。
「名前は・・・???」
ニニは、間接的に話を続けて上手く美味しいと言えるタイミングを作ろうとしていた。
「ドラキュラだが・・・」
そんなペースを乱すかのようにドラキュラの天然が炸裂した。
「いえ、料理の名前です」
カァァァァァァァァァァ
ドラキュラの顔がみるみる赤くなっていった。
しかし、ニニはそんなドラキュラにいつものようなツッコミをするつもりは無かった。
タイミングを作ることに必死で気が回らなかったからである。
「確か料理名聞いていなかったなぁと思って・・・???」
「オホンッ!!!そうだ、そうだったな・・・」
何も知らないドラキュラは、ニニが自分の失敗に気づいていないと勘違いした。
そして安心した。
更には、何事もなかったかのように仕切り直した。
「この料理の名前は・・・"ドラキュラちゃんスペシャル"だ!!!!!」
・・・・
・・・・
・・・・
シナの時よりも空気が固まった。
「まぁ、最早何でも良いわ!!!」
シナは"美味しい"の言葉を飲み込みながらドラキュラに突っ込んだ。
「それで味はどうなのだ???やはり大したことないか???」
ドラキュラのその聞き方がトドメになった。
"どうだ美味しいだろ???"
そう聞かれていたら、全員が"美味しい"と言わず、この場を流せる自信があった。
しかし、ドラキュラ自身に自信がないことを感じ取ってしまうと全員の良心が黙っていられなくなるのだ。
何故なら、全員優しいから。
「美味しいです・・・」
ニニがいたたまれなくなって言ってしまった。
その言葉を聞いた全員がニニを二度見した。
「えっ・・・???えっ・・・???今なんと・・・???」
それよりも驚いていたのはドラキュラであった。
想像していなかった言葉が返って来たからである。
「美味しいですよ!!!めちゃくちゃ美味しいです!!!悔しいけれど、私の料理よりも美味しいです!!!」
ニニは敗北を認めた。
「ニニに同じだ!!!ドラキュラの料理は俺の料理よりも美味しい!!!何だこのたまらなく食欲を誘う香は???こんなどこにでもいるような獣の肉が何故こんなに美味しいんだ???この獣は一体・・・???」
シナも負けを認めた。
「えっ???えっ???えっ???」
ドラキュラは生まれて初めてに近い動揺を見せていた。
「ハァ〜、僕が優勝だと思ったんですけどねぇ〜・・・。何でただ焼いただけの料理に負けてしまうのですか???納得出来ない!!!だけど、自分の料理よりも遥かに美味しいと思ってしまっている自分がいる。なんなんだこの料理は???」
ツシカも負けを認めた。
認めざるをえなかった。
「ちょっと厨房を見に行っても良いですか???」
ニニがどうしてもカラクリを知りたくてドラキュラに懇願した。
それに釣られて他の者たちも見せて欲しいとドラキュラに伝えた。
ドラキュラは良く分からないまま了解し、全員を調理スペースへと招待した。
『こ・・・これは・・・???』
全員が言葉を失った。




