第59話 もう良くね
スッ・・・
手を上げ、三番目の実食に立候補したのはツシカだった。
「そりゃそうだろ!!!だって、そうしないと自分の実食がドラキュラの次になるわけだから!!!」
ツシカの挙手に好意的な目が向けられそうだったところにシナの声が割って入って来た。
「確かにシナさんの言う通りです!!!自分の料理がどういったものであれ、ドラキュラさまの後に出すのはリスクが高過ぎます!!!ドラキュラさまは未だにどんな突飛な料理を出してくるか分からないのですから・・・。味がどうであれ、流れも何もお構いなしに向かってくるであろうスポコン料理の後に自信作を出したとしても、料理の良さが存分に伝わらず終わるのが関の山!!!ツシカさんにしてみれば、消去法で渋々三番目に立候補するしかなかったというところでしょう!!!」
「ふふふふふ・・・。ニニの解説は分かりやすくて良いですね!!!確かにそれもあります・・・でもね、本当の理由はそこではないのです・・・」
ツシカの言葉に全員が息を飲んだ。
ツシカは一体何を言おうとしているのか???
そこにみんなが注目していたからである。
「私の料理はこれだぁぁぁ!!!」
そう言ってツシカは自分の料理を紹介した。
しかし・・・
「・・・え???」
と、誰もが不思議に思った。
なぜなら・・・
「"これだぁぁぁ!!!"って・・・ただの水ではありませんか???」
ニニの言う通り、ツシカが紹介した料理はスープ皿にただ水が入っているだけのものだった。
正確に言えば、湯気は立っていたのでお湯であった。
「まぁ、そう言わずに一口飲んでみてください・・・」
ツシカに言われるまま、ニニはそのスープ皿に入ったお湯を飲んだ。
「!!!!!」
ニニは一口飲んで言葉を失った。
「な・・・何ですかコレ??」
「ふふふ・・・」
ニニの質問に答えることなく、ツシカは嬉しそうに笑っていた。
答えは返ってこなかったが、ニニは関係なくスープを飲み続けた。
まるで取り憑かれたようにお湯をすすり続けるニニを見て、その理由を確かめるように他の者たちもスープをすすった。
「!!!!!」
そして、皆一様に言葉が出ないほどに驚いた。
そして、そのまま皆、手が止まらなくなった。
「こいつ・・・わざと三番目に実食させやがったな!!!」
シナが食事の手を動かしながらツシカに聞いた。
「その通りです!!!最初にインパクトのある料理が出て来た。だから次にさっぱりした炊き込みご飯が評価された。だったら、次にみんなが欲しくなるのは・・・。そう、スープではないでしょうか???」
「まさかツシカさんはそこまで計算して、最初からスープを作ると決めていたのですか??信じられない!!!これだけ個性の強いメンバーが集まっているというのに、スープで勝負しようと決めたなんて・・・。しかも、最初の段階からとは・・・、私には怖くて出来ない・・・」
「多分、勘違いされていますね!!個性が強い相手ばかりだからこそスープを作ることを選んだのです!!このメンバーなら、多くの人がインパクトのあってパンチのある料理を持ってくると確信していましたから・・・。ただ、ニニさんが私の戦略に近い考えを持っていたのには驚きました。お互いサッパリした料理で攻めようとしていたと思うのですが、私はそのサッパリ加減を更に突き詰めてスープという料理に行きつきました!!!正直、二番目にニニさんが立候補するとは思っていませんでしたが、ニニさんが二番目に実食を立候補してご飯ものを出した時点で、私は勝利を確信しました。パンチのある肉料理を食べた人は、次にサッパリしたものを求める。しかし、そのサッパリをご飯で補おうとした時、更にその後にスープ類を求めてしまう。ニニさんがいたことによって、私の料理は完成したのです!!!」
「・・・」
ニニはツシカの戦略に脱帽していた。
途中までは自分と同じ発想だった男が、自分以上の結論を導き出し、自分の目の前で勝利を掴もうとしているからである。
そんなニニの敗北感など我関せずといったように、シナやムーンはツシカの作ったスープを啜り続けた。
「私は、それでも、この勝負は流れだけでどうにか出来るものではないと思っています。味もしっかりしていなければいけない!!!ただ・・・認めたくないですが、その点もクリアしている・・・美味しいです。中でもこのプチプチ弾ける小さな粒、これは一体???」
皆、ニニと同じ疑問を持っていた。
スープの中にいくらのようなプチプチしたものが入っていて、それを噛むと魚の芳醇な香りが口の中いっぱいに広がっていったのである。
「このプチプチしたものには、"大帝国サーモン"と"サブリミナルオニオン"と"桜ネギ"のエキスが入っています。そして、この一見お湯に見えるスープ。こちらは"無敗カツオで作ったカツオ節"と"猪昆布"で出汁をとっています」
ベースキャンプに戻って来た時にツシカが背負っていた巨大な生物は無敗カツオだった。
「でも・・・待てよ。お前がここに戻って来た時、これだけたくさんの食材を持ってたか・・・???」
「えぇ、持っていました。正真正銘、全てこの第二ガサ王国で入手したものです!!!」
その言葉にシナはピンと来ていないようだったが、すかさずニニが言った。
「なるほど。そのカラクリの正体はあなたの能力ですね???」
「その通り!!!」
すっきりした表情のニニに比べて、シナは全く理解出来ていないようだった。
「一体、ツシカの能力って何なんだ???」
「ツシカさんの能力はモノを圧縮する能力です!!!それを使って食材を圧縮したのでしょう。そうすればどんなに大きな食材も相手に見られることなく持って帰ることが出来る・・・」
「ということは、このプチプチしたエキスの果実みたいなものも・・・???」
「えぇ、私の能力で圧縮して作りました!!!」
「・・・・・」
料理も戦略もしっかり作り込まれている。
シナは言葉を失ってしまった。
「私は最後まで勝負を諦めなかった。でも、ツシカさんは最初から最後まで勝負を諦めなかった!!!それが、この勝敗を分けたのですね・・・。はぁ・・・ここはしっかり負けを認めましょう!!!ということで、"第一回誰が一番上手い食材を取って来れるか勝負"優勝者はシ・・・・・」
「おいっ!!!」
ニニの言葉を小さく、しかし恐ろしく力強い声で遮った者がいた。
「俺の料理がまだだろうが!!!」
ドラキュラが少しムッとして言った。
『・・・・・・・・・もう良くね???』
その場にいる全員がもれなく思った。




