第56話 アイツには負けないぞ
トントントントントン!!!
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
シャッシャッシャッシャッ!!!
ドラキュラとツシカがベースキャンプに戻ると、せわしない動きと賑やかしい音が出迎えた。
だからと言って"おかえり"の一言も聞こえてくることはなかった。
すでに他のメンバーは全員戻って来ており、調理に取り掛かっていたからである。
真剣に調理に打ち込むメンバーたちにはドラキュラたちの帰還など目に入っていないのだった。
そう、無事戻って来たからといって安心してはいけないのである。
まだ勝負は終わっていないのだから。
「いかんいかん、そうだった。まだ調理が残っていたではないか!!食材がよく分からないものでも、調理で挽回すればまだまだ勝利できる可能性がある!!」
周りのジャングルのように混沌とした理屈の中からドラキュラは自信を取り戻し始めた。
テクテクテク・・・
ニニが調理エリアの前方にあるステージに上がった。
「さぁぁぁぁぁ!!!たった今、全員がこのベースキャンプに戻って来たぞぉぉぉぉぉぉ!!!ここからは調理の時間だぁぁぁ!!!いくら美味しい食材でも、調理で失敗すれば台無しだぁぁぁぁぁぁぁ!!!見てみろぉぉぉ!!!みんなそれがわかっているから真剣だぁぁぁぁぁぁ!!!まだまだ勝負は終わっていないぞぉぉぉ!!!ここからだぞぉぉぉ!!!それでは最終ラウンド行ってみよぉぉぉぉぉぉ!!!」
と言い終わるや否やニニの顔は真顔に戻り、再びテクテクと歩き始めた。
そして自分の調理場に戻り、何事もなかったかのように調理を再開した。
「プロだ・・・」
ドラキュラは思わずニニに賞賛を送った。
しかし、ドラキュラのように体までしっかりニニに向いて話を聞いている者はいなかった。
皆、ながらで聴いていた。
「さてと・・・。どうしたものか・・・???」
ドラキュラは名もなき小柄の獣をまな板の上にのせ、それとにらめっこをした。
「これが一体何で、どんな味なのか、想像もつかんからな・・・それなら潔く、丸焼きにでもするか!!!大成功を狙うのではなく、失敗を避ける。時にはそんな判断も大切だろう。その丸焼きなら簡単だしな。火力の調整には自信があるし、このサイズなら時間もそれほど掛からないだろう・・・」
無難な料理を目指すことを決めたドラキュラだった。
「ドラキュラが戻って来たか・・・。しかし、あいつの持っている食材を見る限り、大したことなさそうだな・・・。一番のライバルになるだろうと構えていたが、透かされた気分だ!!!となると俺が気をつけなければいけないのは・・・」
そう言ってシナはニニを見つめた。
「俺の記憶が確かなら、ニニが持っているのはチョットダケのはず。あれは10年に一度しか生えてこない幻のキノコだが、もしかして今年がその10年目に当たるのか???だとしたら、これは厄介だ!!俺の霜降りゴブリン(鮮度落ち)では、ドラキュラの持っている何だかよく分からない食材ならまだしも、ニニの食材には勝ち目がないかもしれない!!・・・だが、この勝負はそんな状況からでも逆転できる可能性がある!!何故なら、調理までが評価の対象だからだ!!俺は城を飛び出すたびに自炊生活を送ってきた!!!調理の腕には自信があるぜ!!処刑人だかなんだか知らねぇが、毎日出されたものを食べているだけの男に、俺様が負けるわけねぇぇぇ!!」
と、ライバル視されているニニはと言うと・・・。
「ふぅぅぅ〜、時間通りに進んでいる。この調子ならチョットダケの良さを生かした料理が作れるはず。しかし、気になるのはさっきから勝手に視界に入ってくるツシカさんのあの食材です!!!何ですかあの大きさは・・・???あれを今から調理して間に合うのでしょうか??しかし、ツシカさんならなんだかやってのけてしまいそうなんですよね・・・まぁ、ドラキュラさまの持っている何だかよく分からない食材は気にもならないですが、ツシカさんの食材は要注意です!!!今回のダークホースになるのではないでしょうか・・・。まぁ、それでも優勝するのは私ですけどね!!!」
と、ニニはツシカをライバル視していた。
そんなツシカはと言うと・・・。
「あの霜降りゴブリンは想定外だ・・・まさかあれを取ってくる者が現れようとは・・・どうにかしないとまずいですね!!勝利なんて遥か彼方の話になってしまう。最悪の場合、邪魔してでも作らせない方向で行くしかないかも・・・」
と、シナに注目していた。
「おいおいおい・・・なんだこの熱量は・・・???調理の火力なんて霞んでいるぞ!!!みんなどうしてこんなにヤル気なのだ!!!全員から、"アイツには負けないぞ!!!"的な気迫を感じる。ははぁ〜ん・・・さては、みんな俺を意識しているのだな。一番最後に戻ってきた俺が、何やら理解しがたい食材を持っているので驚いて焦っているのだろう・・・そういうことか。ふふふ・・・しかし、それならば仕方がない、どこか負ける気満々だったのだが、このままではみんなの期待を裏切ることになってしまう。それは失礼に値する。こちらも期待に応えようじゃないか!!この食材はいわばハンデだ!!!そう、ハンデなんだ!!!こんな訳の分からない食材でも、俺はお前たちに勝てるから大丈夫という余裕なのだ。そう、そうなのだ!!これは不安ではない!!余裕なのだ!!」
まるで自分に言い聞かせているかのようにドラキュラはブツブツと呟いた。
トントントントントン!!!
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
シャッシャッシャッシャッ!!!
火力も気迫も燃えたぎっている会場。
しかし、時間は刻一刻と進んでいった。
そして・・・
スタスタスタ・・・
ニニがおもむろにステージに上がっていった。
誰一人としてそれに見向きもしない。
いや、気が付いていないのだ。
それほどまでに全員が調理に没頭していた。
「試合終了ぉぉぉぉぉぉ〜〜〜!!!さぁ、みなさん手を止めてください!!!これ以上はペナルティとみなしますよぉぉぉ!!!」
ニニの言葉に背くものはいなかった。
全員がピタリと手を止めた。
皆調理を完成させていた。
その上で最後の最後まで料理に手を加えていたのである。
会場には食欲をそそる香が充満していた。
そして、今からそれらの料理に審判が下るのだった。




