第55話 野生の勘
ここら辺は主が出ます。
主の好物はエメラルドオークです。
看板に添えらえた絵は、この看板を一角に突き刺し襲い掛かろうとしている目の前の獣にそっくりだった。
「ハチが落としたエメラルドオークの匂いを嗅ぎつけ、ここまで来たと言うところか・・・???ハチからは強者のオーラが出ていたからな・・・、それに恐怖して今までじっと隠れていた。そして、いなくなったのを見計らって出て来たといったところか・・・」
主は逃げようとしないドラキュラに驚いていた。
先ほど一方的に見つけて逃げ出したハチは自身の野生の勘が働き接触を避けたのだが、目の前の男からは強者のオーラを微塵も感じない。
だからと言って、自分に全く臆している様子がない。
この第二ガサ王国で自分を見て逃げないものなど今までいなかった。
主にとってドラキュラは今まで出会ったことのないタイプだった。
それ故、混乱していた。
そんなことはお構い無しにドラキュラは話し続けた。
「なるほど・・・。お前は、あんなヤツより俺の方が弱いと判断したわけだ・・・???舐められたものだな」
グルルルルルル!!!
ドラキュラの言葉など分からない主は臨戦態勢に入っていた。
「しかし、無理もないか。主と言えども人間の言葉が分かるわけでもなし。ましてや相手の本当の実力を感じ取ることなど出来るはずもなし・・・!!!」
グルルルルルル、ガァァァァァァァァァァ!!!
主の一角から電撃が放たれた。
「ほう・・・。そんな技が使えるのか??流石は主!!!ただの獣とは訳が違うな!!!しかし・・・」
バッチィィィィィィンンン!!!
ドラキュラは飛んできた電撃を片手で弾いた。
バリバリバリィィィィィィ!!!
弾かれた電撃は大木を薙ぎ倒しながら数十m飛んでいった。
電撃の当たった木はスグに灰になり、風に吹かれて消えていった。
ピリピリピリピリ・・・
ドラキュラの手は電撃で痺れた。
とは言え、過去に手を体の下に置いて寝た時の痺れ具合に比べれば天と地ほどの軽さだった。
・・・・・
主は何が起きたのか理解出来なかった。
「なるほな・・・。今、解決した。ここら辺に死骸がなかった理由が。お前のこの電撃で、皆、灰にされ風に飛ばされたのだろう。初めはハチが食べたのかとも思ったが、ヤツの口ぶりや雰囲気から何となく違う気がしていた。原因が主であるのなら、やはりここにハチが来た時にお前はそのオーラに怖気付き、逃げたと言うことか。ドラキュラの中で収まり始めていた怒りが、再燃し始めた」
ズアァァァァァァァァァ!!!
ドラキュラの体をオーラが包み始めた。
ガタガタガタガタ・・・・・・
ドラキュラのオーラに主の体が敏感に反応していた。
主は何とかその場に立っていられるくらいに全身を恐怖で震わせていた。
「本当の強者というのは、自分の力をひけらかしたりなどしない!!!こうやって必要な時に必要な分、引き出すのだ!!!まぁ、お前の持っている感覚だけでは、コレに気づけなくても仕方あるまい!!!だからと言って、俺を苔にしたことを許すつもりもないがな!!!」
ガルルルァァァァァァァァァァ!!!
主はドラキュラに向かって一直線に突進した。
自慢の角をドラキュラに突き刺すためである。
しかし、それは主のやけくそであった。
目の前の男の膨れ上がった力に恐怖を感じ、どうしようもなくなったからである。
「かかって来い!!!」
そう言ってドラキュラは構えをとった。
渾身の一撃を主にお見舞いするためである。
ググググググググ!!!!!
ドラキュラは右の拳に存分に力を溜めていく。
「今からお前が体感するのは、野生の勘の限界が招いた誤算だ!!!」
ガァァァァァァ!!!
主の角があと数センチでドラキュラに届きそうというところで、
バガゴォォォォォォォォォォンンン!!!!!!
ドラキュラの強烈なパンチが主の顔面を横から殴りつけた。
ドガガガガガガガガガ!!!!!!
主は生い茂る木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。
ガシッ!!!
吹き飛び終わったところへ近づき、ドラキュラは主の角を掴んで持ち上げた。
「お前は美味しいのか??」
主はすでに気絶していた。
なので、ドラキュラの問いかけに全く反応しなかった。
「この森の主を食すというのは・・・何かに祟られそうだな・・・まぁいい、こいつを食すのはやめておこう」
そう言ってドラキュラは主をそのまま地面に優しく置いた。
「さて、どうしたものか???食材が全く集まらないぞ・・・」
困りながらドラキュラは当たりを見回した。
すると・・・
!!!!!
たまたま一匹の獣と目があった。
獣の方もドラキュラと目が合うと思っていなかったのか、とても驚いていた。
そして、野生の勘が働いたのか、スグにその場から逃げようとした。
「もう時間もないし、お前で良いか・・・」
逃げ出したその獣をドラキュラはいとも簡単に捕まえた。
バタバタバタバタ!!!!!
掴まれても、なお獣は足掻き続けた。
「威勢だけは良いな・・・」
第二ガサ王国で出会った獣たちと比べると、とにかく小ぶりなその獣を見て、ドラキュラは落胆した。
「他の奴らは一体どんな食材を手に入れたのだろう・・・」
ドラキュラは重い足取りでみんなの待つベースキャンプへと帰っていった。
片手に獣を持ったまま・・・。
「あれっ・・・???ドラキュラさま・・・???」
戻っている途中で大きな大きな獣を背負ったツシカに出会った。
ドラキュラはツシカの背負った獣と自分の捕まえた獣を見比べた。
そして、恥ずかしくなって自分の捕まえた獣をソッと隠した。
「食材調達はどうでしたか???ドラキュラさまのことだからきっと途轍も無いものを捕まえたのでしょうね???」
ツシカは本気で言っているのだが、今のドラキュラにとっては嫌味でしかなかった。
「何ですかその可愛らしい獣は・・・???あっ、もしかしてカモフラージュですか???みんなに、俺はコレしか捕まえられなかった的な話をして、能力で仕舞っていた高級食材をサプライズで出すみたいな・・・」
ツシカの言葉が鋭利な刃物となってドラキュラの胸に突き刺さっていく。
無傷で主に勝った男の精神は今、瀕死の状態になっていた。
「は・・・。ははは・・・。ははははは・・・」
ドラキュラは笑うしかなかった。
今更、この手に持ったものが本命の食材などとは口が裂けても言えない。
「そうやって笑っているってことは、図星ですね・・・???」
ツシカは容赦なかった。
ここまで話が裏目に出ることがあるだろうか・・・???
ドラキュラは余計なことを口走らないようにするあまり、どんどん言葉数が減っていった。
「これ以上言うのは野暮ですよね???すみません。私も少し調子に乗り過ぎたと思います。でも、楽しみにしていますからね!!!ドラキュラさまの食材を・・・!!!」
そう言って別々に別れることが出来ればよかったのだが、いかんせん二人とも帰る道は一緒である。
ツシカはベースキャンプに戻るドラキュラに付いてくるかのようにみんなの元に帰った。
ドラキュラは帰るまで一言も話さなかった。




